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03/04/12 (Sat)
引っ越し火事
3月9日(日) 連日の引っ越し作業で心身ともにかなり疲労していた。 この日は晴れわたり、それでも作業は順調に進んでいるかに思えた。 11時45分頃、非常ベルが鳴り響く。 部屋に居たのは、私、TAN、日下、NORAとそして猫たちにクシナダ。 ちょうどMACの早めの昼飯を食べ終えたところ。 日下は南のベランダに火の粉を見る。 私は、トイレに駆け込んだ。 というのも、トイレのダクトは階下と直結しており、もし何かあれば臭うからだ。 まさに何かが燃えている臭いだ。 (NORAは、なぜ私がトイレに入ったか判らず、消火の前に用を足したのか、と思ったらしい) 急いで飛び出して、階下の佐藤爺さんの部屋に走る。 以前にもこの老人は何かを燃やしたことがあり、キケンを感じていたからだ。 TANが追いかけてくる。 日下は、7階南側のベランダの炎を見て119番をする。 しかし、電話は熱で途中で切れてしまった!
TANは、周囲の住人に知らせるべく、扉を叩いて回る。 しかし誰も出てこない。 私は6階の廊下で佐藤爺さんの部屋の呼び鈴を鳴らした。 1回目は鳴ったが、2回目からはもう鳴らない。 煙が這い出てくるドアを叩いて呼ぶが反応無し。 ドアノブは鍵がかかっていて開かない。
廊下からベランダに出て、衝立を越えて603号室のベランダに入った。 窓の向こうには黒煙が渦巻いている。 ベランダに出る扉にも鍵がかかっている。用心深い爺だ。 目の前にあった白い椅子で窓を割り、TANが持ってきた消火器で噴射。 しかし火の元はそこではなく、隣の窓の方が黒々としている。 消火器の尻でその窓も割り、さらに噴射した。 そこにもうもうと黒煙が襲い掛かってくる。 「社長! 逃げてください!」 とのTANの声に、状況を見直す。 これはとても消火器では消せない。 煙でどこに火が出ているのかさえ判らないのだ。 このままでは煙に巻かれてしまうかも知れない。 諦めて逃げ出すことにする。
急いで7階に戻ると、猫たちがパニックになり走り回っていた。 些介は壁を走るし、小次郎は取り押さえても渾身の力で跳ねのけて逃げて行く。 とても捕まえられない。 やっとのことで、TANと百鬼丸を取り押さえ、鞄に詰める。 残りの二匹は逃げ込んで、どこに行ったのかさえ判らない。 NORAが泣きながら探している。 諦めて逃げ出さなくてはならないのか? ぎりぎりの選択を迫られる中、押し入れに閉じこもったのを、直感的に日下が察知し、収納ケースをどけて捕まえる。 二匹とも観念したように大人しかった。 あとで判ったが、この辺りが延焼するとしたら一番危なかったようだ。
すでに床が熱くなっており、ベランダの外には炎の舌が伸びていた。 小次郎をネコ用バッグに詰め、些介はそのまま日下が抱えて降りてゆく。 私はパソコン本体だけを切り離して抱え、百鬼丸のバッグを下げて飛び出す。 廊下はもう煙で息苦しいが、視界はある。 二つある階段の奥に行くように指示し、一目散に降りる。
すでに消防車が駆けつけて来ていた。 電話は何とかマンション名までは伝えられていたのだ。 それに消防署はすぐ200m先である。 消防士が消火栓の位置を聞くが、私も知らないのでどうしょうも無い。
引っ越し用に用意した軽トラックに猫たちを入れて、とりあえず一安心、しかしクシナダはまだ残されたまま。 そこを隣のJTの社宅の主婦が、邪魔だから動かせと無神経に言うのに日下が切れつつも冷静に「いい加減にしてください! どういう状況だと思ってるんですか?」と言うと、「八つ当たりしないでよ」と言い返してきた。
消防車の向こうから、今日手伝いに来てくれた旧友のケンケンが現れ、我々が無事なのを当然のように受け止めている。 直感で最初からそう思っていたのだろうが、変な男である。 パソコンを抱えてきたのを、社員たちにいつの間にと感心さ(あきれら)れた。 それに靴を履いていたのは私だけであった。 ほかはスリッパかはだしである。 NORAはパニックを起こした小次郎に噛まれ流血していたので、目の前の青山病院に治療に行く。
何と705号室のドイツ人のハルトマン氏が窓を開けて外を見ている。 何故逃げないのだ! 彼は風変わりな老人で、子供たちに休日サッカーを教えているほか、部屋に金属製の水牛の人形を大きいのから小さいのまでずらりと並べているということ、そして時々ベランダで傘をさして歌うことくらしいか知らない。 後で聞いたのだが、ぎりぎりまでパソコンで仕事をして、煙くなったら窓に出て息を吸っていたという。 我々は彼が秘密組織の一員であると、さらに確信を強めた。
消火はかなり迅速に行われた。 しかし佐藤の爺さんは黒焦げだったそうだ。 爺さんは和凧の収集をしていた上に彼にしか判らない宝物を膨らませたスーパーの袋に入れて床から天上まで積み上げていた。 それに何かが引火して一気に行ったのだろう。 アルミが溶けるほどの高温で彼は焼かれた。 私が最初に消火器を噴霧した辺りに倒れていたらしい。 特に最近ボケていたので、私はかなり案じており、つい数日前に絶対に危ないから何とかして欲しいと管理会社に言ったところだっただけに残念だ。
気が付くと胃が猛烈に痛くなっている。 日下もそうだという。 危険に直面して、胃の粘膜保護機能が停止していたためだ。 消防士がそれを聞いていて、我々もそうだという。 慣れた消防のプロでさえ、火事に臨むときそれだけ緊張するものなのだ。
1時間ほどしてクシナダを救出に行く。 もちろんエレベーターは停止中だ。 もうれつな燻る臭いの中、廊下を上がって行く。 6階廊下は墨を流したようになっている。 幸いなことに彼女は無事だった。 7階はまだましで、5階より下は水浸しの状態である。
我々が第一発見者、通報者、初期消火を行ったことになる。 消防、警察数名に何度も同じことを質問されて答える。 そのうち刑事が事情聴取をしたいということで、渋谷警察まで行く。
この刑事さん、実は○暴で最近渋谷にやって来たのだという。 今日は日曜日ということもあり、人手不足で借り出されたわけだ。 何と、被害者以外の人間に事情聴取をすると、情報料としてお金が支給される。 これで、今日の無駄になった車代が何とかなった。
猫たちはそのまま日下の家に運ぶ。 かなり恐怖で打ちのめされていて、窓をじっと見ては震えていたそうだ。
私は19歳の時に見た予言夢が成就したと知る。
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