【黒猫ぽすと】
―ここは素敵な所♪の巻―
「たまる―。たまるや―?」
「タマルちゃ―ん、何処っ♪」
森の中、タマルを探すセリアとリシェル。手にしたバスケットには水筒とお菓子。
「お姉ちゃ―ん、ここ―!」
右手の茂みの向こうから声がする。太い樹の幹や、低い木々の間から明るい陽が射している。
「そこに居んの?も―、一人で森のにゃか歩き回っちゃ駄目って言ったでしょ」
「一応この辺にも犬男とか猪男とか、後とかげ男とか?結構来るもんねっ。まあ敵じゃないけどねっ☆」
「弱いからにゃ―♪でもたまるはまだちっちゃいし、目をはにゃしてはいけにゃい。にしても、あいつ等みんにゃ男にゃのかにゃ」
「ん―私には皆同じ顔に見えるな―‥やっぱ女の人が居ないと繁殖は無理だろうし。いっか、どぅでもっ★」
「関係にゃいよにゃ☆」
「お姉ちゃん、りさぁ、どうしたの?何の話し?」
「あ―、たまるみっけ!捕まえた―☆」
「きゃははは♪」
「おやつ持ってきたよっ☆一緒に食べようっ、てっ、うわぁ‥いい場所ぉ‥」
「この間、見つけたんだよ。泉があって、おっきな石もあって、色んな人が来るの。はい、りさも、お姉ちゃんもこの辺座って☆」
森の一角に岩だらけで樹が生えていない場所がある。岩場のあちこちから清水が湧きだし、分厚い苔や葉の丈夫な草が茂っている。その場所だけぽっかり開いた森の天井から、陽が燦々と射している。
「い―場所見つけたにゃ―たまる‥」
「えへへへ♪あ―気を付けて、苔のお花が咲いてるの。ちっちゃくて、赤くて、綺麗でしょ」
細い六枚の花弁を開いた花が、苔の表面にたくさん咲いている。
「ごめん、気がつかにゃかった。赤い苔だと思った。よく見ると可愛いにゃ♪」
「でしょ―。あっちの方は、青や白の花がいっぱい咲いてるんだよ―☆」
「雪割草かなっ♪‥って、ねえタマルちゃん。色んな人ってどんな人?」
「あのね、犬に似た人とか、猪に似た人とか、顔がごつごつした人とか。あと―。たまるの親戚の子とか動く切り株とか♪」
「‥全部魔物じゃん。タマルちゃん、やっぱし出かける時は私達呼んで、危ないよ?」
「む―。おまえ強いけど、もしもの事があっちゃいけにゃい。ちゃんとあたし達呼んでね?」
「どうして?危なくないよ?みんな優しくて、面白くて、いい人だよ☆ちっちゃい子は、みんな、大人しいし」
タマルはポケットに手を入れて、ごそごそ探っていたが‥
「見て♪おっきなどんぐりの首飾り―。ごつごつな人に貰ったんだよ―☆」
セリアとリシェルは、きょとんとして、互いの顔とタマルと首飾りを順番に見つめた‥
「別に不思議じゃないですよ―♪自然なことだと思います―」
森のなかのお家。ニノンが紅茶のレモンを、くるくる回しながら‥
「タマルさんはいい子です―。あの人と眼を合わせてお話してて―、悪さ考えるひとは―、ほとんど居ないと思います―♪」
「みたいだね‥ゴブリンが何か呉れるなんて普通じゃ考えられないもんねっ☆」
「コボルトもオークもここにゃんヵ月くらいおとにゃしいにゃあ‥たまるのおかげ?」
「だとしたら凄いよっ!!」
「…でもやっぱり心配ですいつも一緒に居てあげて下さいね?セリアさん」
「あの子はまず誰よりも貴女、なのですから☆」
「にゃう―‥解った♪」
寒さが和らいできたこの頃‥冬眠していたもの達も、そろそろ起きだす頃。そうでないもの達も活発に動き始める頃だ。
特に、冬眠から覚めたものは腹を空かせている。
「いい?たまる。世のにゃか万が一って事があるんだから一人でどっか行っちゃ駄目。おまえの事、ご飯としか思わにゃい奴だって居るんだから」
「うんうん‥お話も気持ちも通じない生き物も居るんだよ。海の中じゃ、特にそうだったなぁ‥」
「わかった、お姉ちゃん。今度からお出かけしたい時は呼ぶね☆」
「おまえにはご飯だけじゃにゃくて日光も必要だからにゃ‥」
「もうあんまし寒くないから、わたしも付き合ってあげる♪呼んでね」
「うん☆りもんも、あの場所のお水は気に入ると思うよ♪」
「泳げる位あるの!?」
「そんなにないよぉ‥おしりが入るくらい」
「なぁんだ。でも、綺麗な湧き水なんだよね♪」
「うん、凄くおいしいの」
「でも今日はお家で遊ぼう‥にゃんかあたし最近負けてばっかりいるから」
「あの遊びはむきになったり気を散らしたら負け♪あなた脱線しまくってるもんね―、タマルちゃん☆」
「む―、今日は負けにゃい。クッキーはいらにゃいけど、勝つのはあたし!!」
「お姉ちゃんもうむきになってる―♪」
「あはははは☆」
階下ではエンジェル達が‥
「歌が大好きなんだよっ、タマル☆でも、自分で考えてるんじゃないよね‥」
「あの子のダウンロードと言う技能の原理はわたくしにもさっぱり解りません」
「…でも綺麗な歌ばかりです☆」
「いい歌ですよね―♪」
ビリーは小さなクッションで、丸まって寝ている。
「ルディアさん、貴女はご存知ないですか?タマルさんの技能について」
「はぇ?あ―えへへ、あたしにも解んないの♪」
「…その様子では知ってるんですね?ですよね♪」
「え―っとお‥別に知らなくても困らない事なの‥」
「人の特技ってそれぞれだよねっ☆‥でも知りたいなそいえば貴女の特技、アップロードだっけ?」
「わあ聞きたいです―♪」
「う―んと、え―っと。‥仕方ないの教えるの‥でもちょっとだけなの」
そして屋根裏部屋では‥
「たまる―の人形に猫耳付けたのだ―あれ♪っておまえしか居にゃい!このあほ人魚っ!!」
「あははは☆いいじゃん可愛いじゃん、ねえ?」
「うん、お姉ちゃんに似てる―♪」
「似てにゃい―!!」
「はい脱線したからあなたの負け☆」
「くっそぉ‥にゃんかこの遊び思いっきりあたしに不利じゃにゃい?」
「だからムキになっちゃ駄目なんだってば。一番の悪戯っ娘もあなただし。この間、ドラゴンさんに鈴付きの首輪したのもあなたでしょ?あんまり可愛くて笑っちゃったら、キッ、って睨まれて怖かったんだからね★」
「知るか、そんにゃの。む―すらんぷ‥お昼寝しよ‥」
「ね―お姉ちゃん。お天気いいから、毛布持って、あの場所行かない?」
「あ―いいかもにゃ☆りもんもくる?」
「今朝言ってた場所?わぉぜひぜひ♪」
「こにゃいだの、プラムケーキでも持ってくかにゃ―♪」
「あれ、どの位保つの?」
「お酒しっかり効かせればわんし―ずん位」
‥陽が燦々と射す、タマルお気に入りの場所。
「本当にここ迄来る間、誰にも襲われなかったね」
「まだ半分、体が凍ってるんじゃにゃい☆」
「違うもん、皆いい子!」
「ごめんごめん、たまるとにゃか良しだったよにゃ」
「いつも何してるの?」
「だうんろーどした、お歌歌ってるの。そしたら、気が付いたら色んな人が来てるの。ぷれぜんと呉れる人もいるんだよ♪」
「ふ―ん‥そのお歌あたしにも聞かせて欲しいにゃ」
「いいよお♪まだ歌詞おぼえてないけど」
「ららら―♪でいぃよ。わたしにも聞かせて」
「うん☆らーらーらーららーららららら‥」
明るい感じの歌。陽に照らされて少し眠い‥
「ふい―‥♪あれ切り株おばけが一杯」
「本当だ。これもタマルちゃんのお友達?」
「ううん。その子達とは、お話が通じないの。でもいじめないでね?」
「まあ弱いし見逃してあげても‥あ。にゃま意気にも、枝振り上げてる」
「何かわたし達、囲まれてない?バブルボムで一掃しちゃおっか☆」
「だめ―!!」
「でも、なんか、登ってきたし‥」
「冬眠明けでおにゃか空いてるのかにゃ?どうする、たまる。電気地獄使う?」
「たまる、そんな事したくない‥」
「そんにゃにゃきそ―にゃ顔しにゃくても‥おっけ―あたしに任して☆」
「やっちゃう!?」
「お姉ちゃん止めて―‥」
「心配すんにゃ新しい術の実験♪失敗したらやっちゃうけどにゃ☆」
「ひどい―」
「確かに酷いわね‥」
キシャアアアアア‥切り株お化けが段々迫ってくる。
「にひひ‥感動のすべを心得たあたしをにゃめんにゃよ‥あぁおまえらは逃げにゃくていいよ、攻撃術じゃにゃいから♪そんじゃ!!」
「あ。なんか、やな感じ★」
セリアを中心に、薄紫の空気が拡がっていく‥
「なぁに?この空気」
「悪い空気じゃないよ‥でもお姉ちゃん何するの?」
「にひひひ支配領域確保☆いくすきゅ―しょ―ん!!」
途端に辺りが暗くなり、セリア以外の全ての者が動けなくなった。
セリアは眼を閉じ両手を胸にあて‥やがて眼を開くとじんとする感じと共に空気が薄桃色に変わった‥
「いい子ににゃ―あれ☆」
一番手前の切り株お化けの頭に手を置いた。そこから更に、桃色の光が拡がった。
「う、わぁ‥何したの?猫ちゃん」
「すご―い!切り株の子、みんな手おろしてる!!」
「ひゅう、成功☆たまるに免じて見逃してやる。今日から普通の樹として生きていきにゃさい♪」
「わあ‥緑の芽がいっぱい出てる‥お姉ちゃんありがと―!!」
「流石ね。ここは素直に、拍手を送るね♪」
「やめにゃって、にゃんか、耳がかゆくにゃる☆」
「そこ座って、あんよで掻けばいぃじゃない☆」
「おまえ‥いい度胸してるにゃ★闘う気だにゃ」
「これこれ、止さぬか」
「よぉ♪タマルちゃん」
「見ていたぞ‥成る程、タマル殿が異種族であるのに姉と慕うわけだ」
「うわ!犬人と猪人と爬虫人!!」
「そう言う貴方は魚人だな‥ご機嫌よう失礼なお嬢さん★」
「あっ‥ご免なさい☆」
「気にすんな、俺等もあんた等の事、好きに呼んでるしな」
「今日はみなさん♪お会いできてうれしいです☆」
スカートの裾を摘んで挨拶するタマル。
「いい子だよなぁ‥☆」
ニッコリするコボルトとオークとゴブリンたち♪
「そっか、おまえ等か、たまるの友達って。あたしせりあ、宜しく★」
「ね―皆いい人でしょ―」
「特におまえだけのふぁんって気がするにゃ」
「ふ―ん。なぁ、タマルちゃん。この猫人‥いやこの人、アンタの何だい?」
「お姉ちゃんだよ。命の恩人なんだよ」
そう言うとタマルは、少し赤くなった。
「な‥!何とそうだったか。では我々も、貴方を、恩人として遇せねば」
「まあタマルちゃんに親切な奴は俺等も悪く思わねぇ」
「普段は敵対してはいるがこの場合は」
「もぉ―。いい加減しなさいよぉ!!何で素直に、タマルちゃんに免じて、仲良くしようねって言えない訳ぇ?」
「し、然しだな‥」
「こればかりはちょっと」
「まありもん、落ち着け。確かにいきにゃり信頼関係にゃんて築けるもんじゃにゃい‥ね―、あたし達が作ったケーキがあるんだけど一緒に食べにゃい?」
「おいし―よ♪」
「そうか?すまん、ご馳走になろうか‥」
「そんじゃ遠慮なく♪」
「有り難く頂戴しよう」
「そぅだよね。やっぱほら、お近付きの印に一杯ご馳走って‥猫ちゃんまさか」
「にひひひ☆みんにゃでにゃか良くさんだぁぼると♪ほれりもんも喰え。嫌とは言わさにゃい」
「ちょっと待って待って」
「お姉ちゃ―ん‥たまる何かくらくらして来た―」
一時間後。
「いや―あ、いい!実にいいこの様な物を我々の為に供してくれるとは!!」
「アンタすっげえ気が効くんだな。タマルちゃんだけじゃなくアンタのファンにもなっちまうかな♪」
「一杯焼いたからお土産にどうかにゃ?お家まで来れば渡してあげるよ☆」
「うむ。貴方の御家族にも、挨拶させて戴かねば」
「その前にちょっと歌きいてかない?わたしも少しなら歌えるんだよ☆」
「いやいや人魚の歌には船をも沈める魔力が有るとか無いとか★」
「しっつれいね―☆じゃあ一寸聞いてみる!?」
「だいぶ効いたにゃ‥★」
「たまるも歌う―!!」
「よし、では我々も!」
花娘が歌う森のなか、ここは素敵な所。
小鳥もお花も小さな者も、皆が声合わす。
お天気の日は皆が集まる、ここは素敵な所。
コボルトもオークもゴブリンも、ハーピーだって、ドラゴンだって、皆良い奴、楽しい奴ら♪
皆が皆平等な、ここは素敵な所。
良い奴でさえあるならば、真面目な人でさえあれば、誰でも友達、仲間になれる☆
「…帰りが遅いから見に来ましたけど」
「心配なさそうです―☆」
「人間の方々もわたくし共も、義しい者も在ればそうではない者も在る、と書かれています‥だから、わたくしは信じましょう。あの方々は善い方であると」
「だよねっタマルちゃんの友達だもん☆」
「ふむ。では我々も挨拶に行くか‥」
「ドラゴンさん達が参加してくれたら―、もっと安心です―♪」
その日。お家の家族と客人全ての間で、平和協定が結ばれた。
「‥では貴方方が協定に誠実である限り、我々も又誠実であり続ける‥では」
「うむ。では確かに我々も、貴方方と共にこの協定に誠実であり続ける」
「では宣誓を。協定に賛成の者は机の上に手を」
全員の右手が置かれた‥♪
☆おわり☆
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