【黒猫ぽすと】

―初めてのお手紙の巻―

広葉樹と落葉樹が入り交じった小さな森。そのすぐ横には丘がある。丘のあちこちには大小の穴が開いていて、その幾つかは大きな生き物が棲める位広い。丘にも草木が茂ってはいるが岩場も多い‥天辺に登ると、すぐ近くに城壁に囲まれた街が見える。
そして森の中だが‥真ん中を突っ切るように沢が流れている。沢は丘の麓を巻くように流れ、途中で幾つかの沢と合流し河になって行くようだ。
さて、丘の麓に一際大きな洞窟がある。すぐ手前に、沢が流れ、その向こうに、小さなお家が建っている。
丸太を組んだ、簡素だが丈夫な作り。離れは釜戸部屋になっている。そのお家と洞窟に少し前から或る家族が棲んでいる。
洞窟にはドラゴン5名、お家にはエンジェル4名と猫娘1名。それと、たてがみ生やした鳥の様な小さな者が1名‥それと建前上は彼らの保護者である所の人間1名。
これが、現時点における、家族の全容である。
信条は明るく楽しく気分良く♪
状況の説明はこの位にしておこう‥
洞窟の方は、たまにドラゴンの咆哮が響いてくる位で、基本的に静かだが、お家の方は、いつも賑やかだ。
今日も又‥

「も―いや―!!にゃんで空き地の片付けとかどぶ掃除の依頼ばっかし来るの―」
「いやじゃないです―
街の人達のお役に立ちたいって言いだしたのは、あなたです―♪」
「ポストまで用意したんだもん、責任持って、働こうよねっ☆」
「…私達もお手伝いしますから。一緒に頑張りましょう♪セリアさん」
「にゃう―‥にゃんか早くも後悔し始めてきた」
「それではいけません。貴女は奉仕活動の奉仕と言う言葉の意味をご存知ないのですか?」
「知らにゃい」
「仕え奉るという意味です‥もし貴女が、この意味を知り、それ故に勤め励むなら、貴女の行いの全ては、必ず貴女にとって有益で有意義なものとなるでしょう」
「頑張りにゃ今はとっても辛いけど★てにゃ訳?解った頑張る。その内、あたしの好きにゃ種類の依頼も来るだろうしにゃ♪」
「どんなのですか―」
「にゃ―いしょ☆」
「どうせ悪者やっつけて―とか、そんな用事でしょっ。私達も付いてって貴方見張るからねっ♪」
「にゃんで解んの!?てゆうか、にゃんでい―事すんのに見張りが要る訳?」
「…貴女が暴れ過ぎない様にです☆」
「たまに貴女とお使いに行くと、あまりの乱暴さに、はらはらします‥街の中であの様な事、為さらないで下さいね?」
「そりゃあたしだって悪者と一緒に、衛兵に捕まる様にゃ事しにゃいよ。そこまでばかじゃにゃい」
「どうでしょうか―それはそれとして君にも話がある来なさい―なんて事になりそうです―♪」
「本当にそ―にゃりそ―にゃ気がしてきた★」
「…それじゃ駄目です」
「大丈夫お説教おわるまで待っててあげるっお菓子とか食べながらっ☆」
「冗談じゃにゃい、全く。びりぃはまだ帰ってにゃいよね?今度の依頼はにゃにかにゃ―♪」
「ビリーさんも良く頑張って下さいますね♪」
「実に有能にゃ配達員だよにゃ☆ご褒美は、あたしの無限にゃる愛」
「言いながらしまったとか思わなかったっ今のっ★」
「ちょっぴり。し‥まあいっか♪位かにゃ」
「…本当に、それじゃ駄目です」

「教会と墓地にポストを置いたのには何か意味があるのですか」
「別ににゃんにも。教会はまあ困ってる人がいっぱい通るだろって思ったから。墓地は知り合いが住んでるからそいつに頼んだの、置いとかしてって」
「教会はともかく―、墓地守さんですか―?」
「…住んでるんですか」
「ラセンって奴だけどにゃ、そいつも自主的に墓守のお仕事してるんだって」
「それこそお掃除の他にする事ないと思うけどなっ?何でそこに住んでるの」
「さあ?泥棒とか魔物が荒らしに来るんじゃにゃい」
「街には様々な宗派の方がいらっしゃると伺って居ますが、死生感もそれぞれなのでしょうね。ですが、正しい御教えは一つだけです。その方は、この事を、ご存知なのですか」
「知らにゃいと思うよ?あたしとおんにゃじ猫人だから、気に入ってるだけ♪」
「わあ―初めて聞きます―
一度お会いしたいです―」
「…宗教には無理強いという事が禁物と書かれています。でも、貴女のお友達ならやっぱり伝えるべきだと思います」
「やっぱそうかもねっ♪でも、ミイラとか生け贄とか言いださなかったら別に問題ないって思うけどな☆」
「にゃにそれ★」
「それにしても魔物や墓荒らしですか。もし本当なら捨て置けません。その方の処へ伺って事実をお尋ねしたいのですが」
「ふろ―ら考えすぎだって大体あんにゃ」

その時、ビリーが戻ってきた。
「きゅ―い―!!」
「おう、びりぃご苦労さん。又にゃん枚かあったね♪」
「きゅい♪」
「ど―れどれ」
「見せてください―♪」
手紙はどれも、ほぼ同じ内容だった。

『墓地の隅っこに誰かが住んでいて、毎晩夜中に遊んでいます。こないだも、何か焼いて食べてました。プリンやゼリーもいっぱいです。何が住んでるのか確かめて下さい、お願いします』

「にゃんだ、噂をすれば。これ、ラセンの事じゃにゃい」
「この人の事ですか―」
「びりぃご褒美に干し肉あげる」
「きゅっ☆」
「でも初めてのまともにゃお手紙だにゃ☆最初の奴にゃんか、やる気の有る方、求む!!にゃんて行ってみたら地区一斉のどぶ掃除だったもん」
「今日は誰が行くのっ♪」
「ん―にゃい容がにゃい容だしあたし一人でい―よ」
「あ―ずるいです―わたしも行きたいです―」
「そお?構わにゃいけど、お使いの帰りとかでも寄れるしにゃ」
「…そうですね♪じゃあ私は次回で良いです」
「私もいいかなっ☆次で」
「わたくしは出来るだけ早くお会いしたいですね‥その方に尋ねたい事があります」
「あのね、ふろ―ら。お説教にゃんかしちゃだめだよ?あたしだからほわ―んと聞きにゃがしたり出来るけど大抵の奴は嫌がるか怖がるんだからにゃ」
「まあ!!今迄その様なお気持ちで聞いていらしたのですか!?」
「にゃう!!しまった★」
「大丈夫です―、フロレットさんならお相手に合わせて表現を変えられますよ―♪」
「ほんと―?とにかく生真面目すぎるからにゃ―‥じゃあ、にのんとふろ―ら、一緒に行こ」
「お待ち下さい、お友達にお会いするのでしょう?何か手土産など」
「街でにゃんか買えばい―んじゃにゃい」
「それでは幾ら何でも‥お弁当でもお作りしましょうその方の分も」
「い―けど他に犬とでっかい鼠がいるよ」
「ではその方の分も♪」
「デザートはプリンとゼリーがあるんですよね―☆」
「あ―それ違う、どっちも魔物」
「げげ★そうなのっ」
「喰って喰えにゃくもにゃいんだろ―けど」
「駄目だってばそんなのっそれじゃお弁当作ろっ☆」
「…ついでに私達の晩ご飯も作っちゃいましょう♪」
「晩?そいえばもうすぐ夕方だにゃあ。はにゃし込んでたら、そんにゃお時間か。仕方にゃい、あたしもお手伝いしよ。詰めるのだけ」
「お料理も手伝うんです―えい捕まえた―☆」
「に゛ゃうっ★」

そして1時間後。
「重たいです―きっと喜んでくれます―♪」
「お口に合うと宜しいのですが」
「ふろ―らのお料理がお口に合わにゃい訳にゃいでしょ。ったく凝りすぎ」
「あら♪」
「ねえ、その袋は何っ?」
「はにゃび詰め合せ。あたしからのお土産」
「…火薬の匂いがしますねどんな物ですか」
「知らにゃい?言ってみれば、でっかい蛍かにゃ―」
「あ―いいな―☆」
「まだ洞窟にいっぱいしまってあるよ♪今度みんにゃで遊ぼ―にゃ」
「はにゃ、いえ花火というのですか。楽しみですね」
「…少し点けてもいいですか?」
「いいけど夜限定だからにゃ?明るい内に点けても、つまんにゃいよ」
「…解りました♪」
「やったあっ☆」
「じゃ行ってきます―♪」

そして小1時間後。陽の暮れかけた街を歩く3人。
「にゃあ、にのん。でじゃぶって知ってる?」
「既視感の事ですよね―♪それが何か―?」
「いやにゃ★ふろ―らは居にゃかったけど一度来てるじゃにゃい、あたし達♪」
「ん―‥あ―!!そうでしたね―☆」
「わたくしも覚えていますよ、お弁当を作った事♪どなたかが時間軸に手を加えたので、今またこうして、お尋ねするという訳ですね」
「でも―、それじゃ本当に見たのでデジャブとは―」

「あれぇ?その声セリアちゃんですかニャ」
トコトコ歩いてきたピンクの猫娘‥その後ろに巨大鼠と黒犬が続く。
「あよんすラセン。遊びに来たよ―♪」
「子ねずみさんとわんわんさん―お久しぶりです―」
「ウォン(これはこれは)」
「チュイッ(・∀・)ノ」
「今日は天使さま二人なんですニャ(^-^)」
「フロレットと申します、ご機嫌よう、ラセンさん♪ですがわたくし共は御使いでは無いのですよ」
「ニノンです―、覚えてますかラセンさん―☆確かにわたし達は―大きな妖精さんみたいなものですね―」
「大きにゃお友達も大喜びって奴だよにゃ★」
「そうゆう下品な冗談ゆう人には蹴りです―!!」
「お止めなさいお二人とも‥すみませんラセンさん、セリアさんのお友達と伺って是非お会いしたく思いまして」
お弁当の包みを両手で掲げるフロレット。
「ご迷惑にならなければ手土産にと☆もし宜しければ如何ですか」
「わあ、いい匂い‥もちろん頂戴しますニャ(^O^)」
「チュー!(≧▼≦)」
「ウォウ(いやお気遣いかたじけない★)」
「ところで前にお聞きしようと思ったんですけど―、皆さんだけなんですか―ご家族は―」
「いえ、もう一人、保護者が居りますのニャ♪いま冒険に出てますのニャ」
「ガルッ(冒険というより試練と言った方が近いんじゃないか)」
「ヂャッ(^.^)b」
「うわあ美味しそうですニャ‥全部食べちゃったら傷つくと思うニャ‥少し取っといても良いですかニャ?」
「保護者さんにですか―」
「勿論です、どうぞ♪」
「それじゃ、戴きますニャー」

気の利いた所を幾つか摘んで墓地の隅のお家に駈けて行く。正面から見ると、六角形にも見える可愛いお家。
「はあ‥なんと良い子なのでしょう」
「うちの猫さんとは大分違います―♪」
「にゃによそれ、どゆ意味。あたしだって良い奴でしょ良い子じゃにゃいけど★」
「自慢にならないです―」
「女性が奴とは何事ですか‥少しはあの方を見習っては如何です?」
そこへラセン達が戻ってきた。
「お待たせしましたニャ☆あれぇセリアちゃん、それ花火!?花火かニャ!?」
「にひひひ♪前に一緒に遊んだ記録がちょっとあれしてにゃ‥改めて持ってきたまた遊ぼ★」
「ガルゥ(悪い予感が)」
「チュウ(^o^;」
「その時は何をなさったのですか?セリアさん」
「ちょっとその辺に、街中で有名にゃ、助平の碌でにゃしが落ちててにゃ。懲らしめてやろ―☆って事ににゃったんだけど」
「わたしは止めましたニャ」
「わたしも止めました―」
「何をなさったのですか」
「ふぁっく‥じゃにゃい、ぱっぷゆああすほおおる★
てにゃ訳でロケットはにゃびでけつを責めたら国の管理者に物凄く怒られて、おはにゃし全部が没ににゃった♪だから今日は、りべん‥りめいくだにゃ。もっぺん改めて訪問して巧い事あれしようと☆」
「巧い事あれではありません!!そこへお座りなさい」
「にゃうっ★今日はお説教は禁止だってば」
「貴女へのそれは別です」
「待って下さいニャ‥もう済んだ事ですし墓地も今じゃああゆう状態じゃないし、許してあげて下さいニャ☆」
「ああいえ、貴女がそう仰るなら‥」
「本っ当に良い子ですね―うちの猫さんとは大違いです―♪」
「にゃにそれ、どゆ意味‥ってあれ?これでじゃぶ?」
「デジャブじゃないです―!少し反省して下さい―!!」
「ウォフ(いやその‥まあまあその位で)」
「チュウゥ(^^ゞ」
「お弁当冷えちゃいますニャお小言おしまいですニャー!」

さて。すっかり陽も暮れた。
その夜、墓地では、ささやかな花火大会が行われた。特製のお弁当を囲んで過ごす楽しく和やかな時間‥街の子供達が恐々覗きに来たがエンジェル達の姿を見て安心したようだ。特に花火には強い関心を持ったらしく、飛び入り参加する勇敢な子供も幾人か‥☆
ともかくこれで誤解も解けて、依頼は果たせたとゆう事で、まずはめでたし★
月明かりに照らされた黒猫ポスト‥次はどんな依頼が来るだろうか。

☆おわり☆


次の話
戻る
地下劇場

歌劇団ニュース
外に出る