【黒猫ぽすと】

―だんまり人魚の巻―
(リニューアル版)

「まぁぐだぐだゆっても仕方にゃい、運搬係呼ぶから、も少し待って」
「いや頼むわ本当、参っちゃってさ‥」
部屋の隅の大きなたらい。
膝‥?を抱えて微動だにしない人魚。

そして森のなかのお家。
「人魚さんですか―!?
見た事ないです―♪」
「…歌が上手だそうですね綺麗な方ですか?」
「それがにゃ。歌どころか、喋んにゃいは、にゃくは、怒るは、食物解んにゃいはで、ど―にもにゃんにゃい引き取ってくれってゆわれて‥あたしも困るんだけど」
「どうゆう事ぉそれって」
「誰かが売って誰かが買ってまた誰かが売って買って‥にゃんだかんだで今のお家へ★まあ疲れてんだろ―けどにゃ」
「愛玩動物でも飼うつもりで、失礼、飼い方も御存じ無いまま、これも失礼でしょうか‥ともかく、安易に生きものを売り買いするのは良くない事のように思われますが」
「可愛がるかすぐ食べるかどっちかだよにゃ♪
依頼として来ちゃったから仕方にゃい、一先ず引き取んにゃいと」
「わたし行きます―♪」
「…では私も☆」
「んじゃ、にのんとにゃんし―、宜しく。あたしも一応顔出さにゃいと」

そして、水難救助のような格好で袋に入って運ばれてきた人魚。
「はい到着です―☆
お空の旅はどうでしたか―」
「‥‥‥‥」
「あらら。本当にお話できないんでしょうか―」
「…だいぶ嫌な目に遭ったそうです、取り合えず沢へ置いてあげましょう」
「ん―仕方ないです―でもわたし達は優しいです―♪警戒しちゃやです―」
「あっその子が人魚っ!?」
「何も身に着けていらっしゃらない様ですが」
「‥‥‥‥?」
人魚はきょとんとしている
「ただいま―。お礼ちょっぴり。その辺の奴、とっ捕まえて売っぱらった方が、もちっと儲かるにゃ★」
「こら。またそのような事を、貴女という子は」
「まあ別に期待もしてにゃかったし。
おう人魚、おまえさかにゃとどう違うの?」
無遠慮に下半身を触る。
「‥‥‥‥!!」
尾ひれで一撃。顔を直撃。
「に゛ゃっ!てめえ!!」
「何て事するんですか―」
「今のは貴方が悪いよっ」
「‥素っ裸で平気にゃ奴がこの位で怒んにゃよ」
「…確かにこのままでは」
人魚はセリアを睨んでいる。
「人魚さんなら水着ですよね―♪」
「…そうですね♪どなたかサイズの合う方は」
「上だけでいいんだよねっ比べてみよっ☆」
「あの、わたくしも、でしょうか」
「フロレットさんは、おっきいからだめです―☆」
「…一番近いのは貴女ですセリアさん☆」
「にゃんであたしが」
「貸してあげようよっ♪」
「にゃう―‥解った」

部屋に戻り、水着の上を持って来て、人魚に渡す。
「‥‥‥‥?」
着け方が解らないらしい。
「世話焼けるにゃ―お洋服着た事にゃいの」
人魚の前でシャツを脱ぐ。
「‥‥‥‥」
しげしげと見ていたが、どうやら胸に着ける物だと判ったらしい。
「‥‥‥‥」
水着を胸に押し当てて俯いてしまった。
「や―☆かわい―です―」
「そろそろお話しよっ♪」
「…お腹すいてないですか何かご用意しましょうか」
「‥‥‥‥」
人魚は困った顔で首を横に振った。
「言葉が通じない、と言う訳ではない様ですね。良いのですよ、無理に、お話にならなくとも☆」
「…私、少しの間、出かけてきますね」
ナンシュアが飛び立った。
「‥‥‥‥」
人魚は沢の真ん中で、膝を抱えて座っている。
「にゃあ。まさかおまえら、飼う気じゃにゃいよね?こいつ、あんよがこれだし、出歩けにゃくて不便にゃだけだよ」
そう言って人魚の腰をつんつんつつく。
「‥‥‥‥!!」
も一度尾ひれで顔を一撃。
「に゛ゃうっ!!あったま来た‥今日のお料理―★人魚のふらいの」
「お止めなさい。許しませんよ、そのような事」
「そうです―食いしんぼ猫さんは、お仕置きです―」
「あたしは猫じゃにゃい」
「ともかく、このままこの方を、ここへ座らせておく訳にもいきません」
「まぁこの森の中なら安全だけは保障するけどっ♪」
「確かにそうではありますが‥矢張り、この方の事を考える必要があります。皆さん中へ」
エンジェル達はお家に入っていった。人魚は沢の真ん中に座り、セリアを睨んでいる。
「やっぱり―安易に海に帰すのは考えものです―」
「また捕まって売られちゃうかもっ★」
「湖では如何でしょうか」
「噛る魚が一杯居るかも知れないよっ?」
「洞窟の中はどうですか―ドラゴンさん皆親切です―」
「あの方ご自身はどのように思われるか‥」
「でも―何よりお腹が空いてないでしょうか―」
「冷蔵庫のなかの物いくつか見せてみようかっ♪」
「肉食の方か草食の方か解らない事ですしね」
「フロレットさん―、動物じゃないんですから―」
「あ。あらあら?わたくしとしました事が」
「まあまあご飯あげてみようよっ☆少しは機嫌良くなるかもっ」
「放っときにゃ、あんにゃ人魚‥」
「何て事言うんですか―」
「知らない森で一人ぽっちでお腹も空いてたら可愛そうでしょっ」
「あたしもそう思った。だから、冷蔵庫のお肉あげたら、また尻尾でぶたれた。もう知らん、あんにゃ人魚」
「あ、あのですね‥普段そのような物を、お食べになって居られないからではありませんか?いきなり生肉というのは如何なものかと思うのですが」
「ふろ―ら親切だにゃあ★どうせおさかにゃとか、にゃまでばりばり―♪とかゆう食生活を送ってるに違いにゃい」
「それは失礼ですよ―」
「そうだよっ海藻とかも食べて栄養バランス考えて」
「どっちにしたってにゃまでしょ―が」
「…ただ今戻りました♪」
「あ―ナンシュアさん、お帰りなさい―」
「何しに行ってたのっ?」
「…お魚の調達へ」
「あ―そっかさすがっ☆」
「…セリアさん。覗くのはいいですけど、取っちゃダメですからね」
「にゃう」
「本当に貴女は、よく気のつく方ですね。わたくしもお手伝い致します。お料理して、あの方に差し上げましょう♪」
「…フロレットさんに、そう言われたら困っちゃいます☆海に住んでらしたなら、お魚かなと思っただけです」

さて十数分後。美味しそうに料理された川魚。然し、人魚は匂いを嗅ぐと黙って目を逸らした‥
「…あらら」
「だめですか―」
「じゃあ何がいいのおっ」
「‥‥‥‥」
「おい人魚、にゃまだったら喰える?」
「…あ。セリアさんたら」
「油断も隙もないです―」
「後で食べよ―と思って、かっぱらっといたんだけど喰えにゃいんだったら、おまえにやる」
人魚に向かって魚を放る。
「‥‥‥‥」
暫らく見ていたが、ばりばりと一気に食べてしまった‥矢張りお腹が空いてたらしい。
「‥‥‥‥」

人魚の表情が、少し和らいだ‥沢の中でくるりと一回り。全身を水に浸す。
「…そのままで良かったんですね。もう一度、釣りに行ってきます♪」
ナンシュアは再び飛んでいった。
「ご苦労さまです―☆」
「ところで夜はどう致しましょう」
「小川の中に放ったらかしって訳にもねっ?」
「洞窟のお水のにゃかに、移そ―か」
「あ―それいい考えです―ドラゴンさん達が夜も守ってくれます―♪」
「そんじゃ人魚、ちょっと運ぶからにゃ」
然し、彼女達が手を触れようとすると、人魚は身をくねらせて逃げ回る。
「はぁ、ふぅ、人魚さん―、まだわたし達、信用されてないんですか―」
「‥‥‥‥」
「洞窟はお嫌でしたら、お部屋に大きなたらいを置いて、その中でお休みになりますか?」
「気使わなくていいよっ♪遠慮しないで」
「‥‥‥‥」
「も―本当に知らん、このだんまり人魚。だったら、そこで寝てにゃさい」
「こら。そのような事を言っては、いけません」
「知らにゃい。遊び行ってくる」
「も―。セリアさん―」

そして夕方の街‥
「にゃう―。面倒臭いのが来ちゃったにゃあ‥とっとと海に連れてって、おっことしてやんのが、あいつにとって一番幸せだと思うんだけどにゃ。でも、にゃんで泳いで逃げよ―としにゃいんだろ?」

向こうの方に人集り。
「あ―こにゃいだのお肉屋さんだにゃ」
近づくと子供や主婦や若者たちでごった返している。勿論目当てはコロッケだ★
「いらっしゃ―い♪おぉお嬢ちゃん!!」
「繁盛してるにゃよかったね♪」
「本当に本っ当にお陰さんで!!そうだ折角来てくれたんだ持ってってよ!!あんたは何時でも幾らでも只であげちゃう!!」
「え―にゃんか悪いし」
「何言ってんの★どなたのお陰でここまで繁盛‥はいっ!!熱いうちにど―ぞ♪」
「にゃう☆ごちそ―さま」
袋にいっぱい渡された‥熱いうちに食べた方がいいだろう。
「仕方にゃい、帰ろ‥」

コロッケの袋を抱えて戻ると、人魚はまだ沢の真ん中に座っていた。相変わらず警戒心に満ちた目で、セリアを睨んでいる。
「ふぅ。おい人魚、ころっけ食べる?」
「‥‥‥‥?」
「口に合うか解んにゃいけど、ここ置くからね、おまえの分」
丸い大きな葉っぱの上に幾つか乗せる。
「そんじゃおやすみ★」
「‥‥‥‥」
彼女の背中を見送る人魚。その夜。人魚は、沢の深い場所で膝を抱えていた。
「‥‥‥‥」
淋しそうに泣いている。

その時、彼女の上に、ぬっと影が差した。青いドラゴンだ。
「‥‥‥‥!!」
「恐れるな。貴女に危害は加えない」
「‥‥‥‥」
「これ。じりじり後ずさってどうする★これまで何があったかは知らぬし問う気もないが、進んで貴女を受け入れようとする者は貴女も受け入れて良いのではないか?無論我々も貴女を歓迎する」
「‥‥‥‥」
「ここには貴女を虐げる者など一人も居らぬ。疎む者も、ましてや、売り飛ばす者も居らぬ。
ここに居る者は皆仲間だ。
私は青竜のザイト。貴女も名を得て我々の仲間となるがよい」
「名を得るって何の事?」
「数多くの名も無き者から選り分けられ、存在が確立されるという事だ。我々の場合はな★」
「存在の確立‥」
「あの猫娘にしても口も態度も性格も乱暴だが、貴女を案じておる事には変わりはない。その食物が証拠ではないか。この森に、居りさえすれば、貴女は安全である事が解っておるから放っておいたのだ。貴女があくまで家に入る事を拒んだからな」
「‥‥‥‥水の中は喰うか喰われるかだけ。水の外も乱暴で勝手な者ばっかり。
誰も信じられなくて」
「あの娘たちは信用してよい。私が保障する。
そもそもそうで無ければ、このように異種族が共に暮すなど有り得ぬ話だ」
「‥‥はい。ここは特別なんですね♪」
「そう、ここだけは特別だ。
ところで貴女は美しい歌を歌うそうだな。気が向いたら今度聞かせてくれ。我々も歌は好きだ★」
「‥‥はい。あああの、あなたと同じ方も大勢居るの」
「赤に緑に金と黒の者が居る。皆同胞だ。
この森では家族とでも言うべきか‥今や貴女もその一員だ」
「‥‥はい」
「これ。泣きだしてどうする★ではな、今夜は、そこでゆっくりすると良い。何なら抱えて運んでやるが」
「いえ、今夜はここで良いです。‥ありがとう」
「ふむ♪ではな」

ドラゴンは洞窟に入っていった。
その頃、お家では‥
「人魚さん寒くないでしょうか―」
「海の底よりはあったかいと思うけどな」
「コロッケは召し上がって居られましたか?セリアさん」
「知らにゃい。おにゃか空いたら食べんでしょ。今ちょっと調べ物してんの」
「…歌が聞こえませんか」
「そういえば何方でしょう綺麗な声の方ですね♪」
「…先程からずっとです、切れ切れですけど」
「解んにゃい?あいつ以外に誰が居んの☆」
「あ―そういえば―」
「へぇ綺麗な声っ☆」
「漸く機嫌を直して下さったのでしょうか♪」
「色々あったらし―からにゃ‥ところで、あいつの、にゃまえについて相談あるんだけど」
「あ―人魚さんのですか―調べ物はそれでしたか―」
「お聞かせ下さい♪」
「りもん」
「なになにいいじゃんっ」
「…響きが良いですね☆賛成です」
「わたくしも異議はありません♪」
「どうしたんですか―!?」
「うるさいにゃど―したはにゃいでしょ★」
リモン。どうやらこれに決定らしい。

「‥‥‥‥♪」
コロッケが気に入ったらしく、ちびちび噛っているリモン。まだ幾つか葉っぱの上に乗っている。
「やっぱり小石が痛いな‥明日みんなにお願いしよっと☆」
そういって沢の水を体に掛けると、再び静かな声で歌い始めた‥
夜の森に流れる人魚の歌。また少し賑やかになりそうだ。

☆おわり☆


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