【黒猫ぽすと】

―かみつれ草の巻―

丘のふもとに、小さな白い花が沢山咲いた。岩場や野原のあちこちに、丸いクッションの様な群落を作っている。風に揺れて葉が擦れると、微かに良い香がする‥

「弱ったにゃあ、こーーゆう用事は、専門家に言って欲しいにゃ‥」
手紙を読みながら、セリアが歩いてきた。「あれ?にゃんか眠い‥」
急に足取りが鈍り、水辺の縁に座り込んでしまった。
「にゃあ‥にゃんで?」

岩を抱えるようにして、そのまま寝入ってしまった・・その岩が浸かった、澄んだ水溜まり‥
「ぷはぁっ!あれ?猫ちゃんがいる」
人魚のリモンだ。洞窟の水と繋がっていたらしい。
「お昼寝?こら起きろ♪」
彼女の耳をいじくり回す。
「に゛ゃっ‥にゃにおまえ、にゃんでここにいるの?」
「探険してたらここに出たの♪あなたこそ用事あったんじゃないの?」
「クッキーおばちゃんがスランプにゃんだけど、ねたはにゃいかって‥そんにゃのあたし知らん」
「クッキー?ふうん。お菓子作りの相談か」
「専門外だにゃあ。おまえにゃんかねたにゃい?」
「猫が喜ぶ魚クッキーとか☆」
「人魚クッキーにゃら喰う★」
「‥やる気?」
「‥誰に言ってるにゃ?」

「あーー!又喧嘩してるっ!」
リシェルが飛んできた。
「リサか。邪魔すんにゃ。今から聖にゃる決闘だにゃ」
「かかってらっしゃい♪風船みたいに膨ら‥あれ?」
「にゃに、怖気づいたか」
「あれー?そうじゃなくて」
「あ、カミツレだっ☆こんなに一杯あるっ!わあーー、気が付かなかったぁ」
「かみつれ?」
「カモミール、ともいうんだけどすてきなハーブだよ♪沈静効果があるんだ。お菓子に入れて見ようかなっ☆」
「それで眠くなったんだ」
「それ戴きだにゃん☆」
さっさと立ち去るセリア。
「あ。ずるい!」
「なになに、何の事?」

早くも一束摘んでいるリシェル―そして『クッキーおばさん』のお家。
「あらセリアちゃん!何か良いアイディア浮かんだ?」
「それにゃんだけど、良い物持ってきたにゃん♪」
数本のカミツレの束。
「この白い花?結構あちこちに咲いてるけど」
「かみつれってゆうにゃ。癒し効果があるの。クッキーに入れるといいにゃん☆」
「はーー、こんな草花にねえ。挑戦してみるわ♪あら本当良い匂い」
「それで気持ちがのんびりしたら、又新しいねたが、浮かぶかも知れにゃいよ」
「まあまあ、有難う!考えた事もなかったわ♪まさか草花をねえ‥何お礼しようかしら」
「んーー、いーーよお礼にゃんて。簡単にゃ用事だし」
「そうはいかないわよーー。そうだ。クッキー持ってって!結構評判いいのよーーうふふ」
「ありゃりゃこんにゃに‥有難にゃん☆」
袋に一杯渡された。
「はーー困ったにゃ‥あたしあんまり好きじゃにゃいのに。みんにゃに喰わそ」
‥近くに教会が見える。
「そーーだ、ここにもぽすとあったっけ。覗いてみよ」

黒猫の絵が描かれたポスト。一通だけ、手紙があった‥
「にゃににゃに。うちのお母さんが、読書にはまっています。家事もおざにゃりです、黒猫さん助けて‥‥。あのにゃーー、ったくもーー」
それでも地図が描いてあるだけましだった。
「あたしは主婦の相談係じゃにゃいっ!もーー‥」

仕方なくその家へ向かう。数分後、到着した。
「もしもーーし」
「あーー、黒猫さんだっ!女の人だったんだ」
「セリアってゆうにゃ、宜しくおまえの母さんはどこ?」
「こっちーー♪また読んでるよ。わたしが怒っても、自分は本の虫ーー、何て言って威張ってるの。怒ってーー」
「解った‥説得するにゃ」

果たしてその部屋には、夢中になって読書に耽る女性が居た。周りにも、大量の本が積まれている。
「ふう。こんちはーー。セリアと申す者ですーー。娘さんの依頼で、あにゃたを説得にきましたーー」
「あら‥可愛らしいかた。どんなご用事?」
「すごい本ですにゃん」
「うふふ☆本の虫だから」
「こんだけ読んでまだ足りにゃいって事は、これらの本じゃ満足が得られにゃかった、って事だよにゃ?」
「あう。鋭いわね」
「そんにゃの次々買ってもお金の無駄にゃ。解決法、教えてあげるにゃ?」
「あるの、そんな方法」
「簡単、他人に書けにゃいにゃら自分で書くにゃ♪」
「あたたた‥そんなあなたアハハ、いきなり作家なんて」
「えへへーー、出来るんだにゃーー、さっさ済まして帰り、えへん、手早くやり方教えてあげる」
「ちょっと興味あるわね」
「今はまってる本は?」
「これ!眼鏡っ子の大冒険!あなたも知ってるでしょ」
「あーー、知ってる。つまんにゃかった」
「ななな、あなた!何て事を言うの!!」
「だって結果わかるもん。ぎゃぐもにゃいし。まあいい、それでゆうにゃらこう考えるにゃ。うむ、これはいい。だけど、あたしにゃらこうする♪」
「は、はあ?そんな簡単に」
「殆どの創作は、こっから始まるにゃ☆これにゃら真似にもぱくりにも、にゃんにゃいよ。その人は、その表現をしにゃかった。だから、あにゃたが書いた。それはもう、あにゃたの物♪」
「そんな都合よく‥」
「そんにゃに読んできたにゃら、解るでしょ?どれもこれも似てるにゃ」
「模倣から創作へ、か‥確かにパターンが違うだけで、似てはいるわね」
「で、色々あるにゃかで、一番あにゃたの好みを知ってるのは誰?」
「そんな!皆さん他人だし、面識がないし」
「解ってにゃーーい♪それはあにゃた自身☆」
「あ。そう言われればそうだけど」
「100ぱーせんと自分の好みでさっきの方法を実行するにゃん。誰にも遠慮は要らにゃいよ♪」
「自分で書いて、自分が読むの?」
「ぜろから面白いもの書けるのは天才だけにゃ。あーー、そうそう、質問に答えにゃいと。んーー王劇持ってく?」
「め、めめ、名門中の名門じゃない!私なんか‥」
「大丈夫、最近静かで暇そーだから。どんにゃにゃいよーでも、きっと喜ぶにゃ☆」
「‥先輩に、お前はなってない、何て言われない?」
「前にいたそーーだにゃ。でも、もーー二度と、いわにゃいと思う」
「本当に?」
「大丈夫だって。もし、また意地悪言ったらあたしが叱ってあげるにゃ」
「あ、あなた、関係者だったの!?失礼しました!」
「ちょっと縁があるだけ、恐縮しにゃいで♪書く気ににゃった?」
「やってみようかしら‥」
「どーーしても行き詰まったら、ぽすと使うか地下に来るにゃん。じゃあこれで」
「待って待って、お礼を!」
「要らにゃい☆今度は書くのにはまって、娘さん放ったらかしちゃだめにゃ♪」
「そうもいかないわよ、沢山貰ったんだけど、私達には用事ないからクッキーにしたの♪持っていって」
「げっ、クッキー!ってあれれ!?これエリアルの実にゃ!」
「そうなのーー。一般市民には用事無いわよね、はい」
「わあ、有難うにゃーー☆」

然しクッキーの大袋がこれで二つ。さてさて‥
「参ったにゃ‥今日はコロッケ屋さん寄るのやめとこ」
てくてくと家路を急ぐ。
「ラセンにもお裾分けするかにゃ?遠回りしよっと♪」
さて、森の中のお家。いい匂いが漂っている。
「たーーだいまーー☆」
「御苦労さまでしたね♪」
「‥お帰りなさい☆」
「わあ!何、そのクッキー!」
「仕事のお礼ーー。みんにゃで食べてーー。あ、でもこっちは取っといて」
「あーーエリアルですーー、ぜいたくですーー」
「わたしは用事無いや♪」
「あたしはあるにゃ」
「潜水の特訓する?付き合ってあげるよ♪」
「‥お礼に山登りして置き去りにしてやるにゃ?」
「おばか、やめてよ」
「おばかはおまえにゃ!」
「はいそこまでですーー。カモミールティーとクッキーで、ほんわかしましょうーー☆」
「ちっ、まあ休戦にゃ。これの効果は認めるにゃん♪あれ、おまえ。そーー言えばたらい大嫌いにゃんじゃにゃかったっけ?」
「何よ、いいじゃない‥この家なら文句言わない」
「ふーーん。そーーして座ってると、金魚みたいでかわいーのににゃ♪」
「頭撫でないで、ぶつわよ。しばらくあとが消えないくらいに」
「一々怒んにゃ、つまんにゃい事で」
「つまんにゃい事一々仕掛けるのあなたでしょ!」
「いい加減になさい。カモミールも、あなた方にはあまり効果が無いようですね」
「そうでもないよっ♪いつもならここで取っ組み合いだもん」
「‥まあ」
「ばらすにゃ。解った、はい深呼吸ーー」
「こちょこちょ‥☆」
「に゛ゃっ、げほっげほっ、てめえ!!」
「あはははは☆」
「仲が好いんだか悪いんだかですーー‥」
「面白いですけど♪」

その夜。セリアはクッキーを手の中で転がしながら考えていた(癒し効果かーー‥にゃんかに使えにゃいかにゃあ。植物に出来て動物に出来にゃいのも恥ずかしーー気もするにゃあ‥)
「どしたの、何か悩み事?」
「そーーじゃにゃいけど。おまえ、どんにゃ時癒しを感じる?」
「え?そだな、陽だまりの中で猫を撫でてる時かなっ」
「おこるよ‥ぶっちゃけ聞くけど、にゃんか癒しの技知らにゃい?」
「そんなの知らないよぉ‥何企んでるの?」
「ちょっとにゃ。取り合えず種出来るの待って、街も野原も、かみつれだらけにしてみよーーかにゃあ☆」
「わあ、なんかいいですーー。手伝いますよーー♪」
「‥ちょっと賛同しがたい気が‥」
「堅い事ゆうにゃって☆ふうむ。この香の秘密って、にゃんにゃんだろ‥」
「香だけに拘らなくともよいと思いますよ。貴女の得意な事が最もよいのでは」
「そーーかもにゃ‥取り合えずこれ食べよ(ぽりっ)」
「でぶになりますーー♪」
「うるさいにゃーーっ♪」

残念ながら、森の中には、殆ど生えていないようだ‥ほんの数本、目立たないところに咲いたカミツレが、夜風に揺れていた‥。

☆終わり☆

次の話
前の話
戻る
地下劇場

歌劇団ニュース
外に出る