【あんじぇらーむ】第4話:『耳長族に会った日』後編
by MARCY
「こ、こらっ!君、ハイフラワー!無礼な物言いをするなっ!」
白いエルフ達が頭を下げたまま、タマルを叱りました。
「え?え〜‥?」
タマルは困った顔で、エルフ達と彼等が神と呼ぶ大精霊‥緑のひとを交互に見つめました。
緑のひとは優しく微笑むと少し身を屈め、タマルの頭を撫でるように手をかざしました。
「久しぶりだねタマルさん♪」
「わ〜い!こんにちは〜☆」
タマルは嬉しそうに、今度は両手を振りました。
「な、なっ‥!」
「何だとっ!?」
白いエルフ達は、びっくりして身を起こしました。
黒いエルフ達は、さっきから跪くどころか頭を下げようともせずに、険しい顔で緑のひとを見上げています。
森を見下ろす大精霊、緑のひとは言いました。
「フィデルの森のエルフ達よ。あなた方の森に調和と和平とを求めて訪れた、此の者達に抗ってはならない。
あなた方に報酬を求めるでなく、ただひたすらに全土の平安のみを願い、其の為に働く此の者達を、退けてはならない。
もし、あなた方が其の様な事をすれば、確かにあなた方は此の地の全てのエルフ族の恥となるだろう」
「はっ!ははーっ!」
白いエルフ達は、また弾かれた様に飛び退いて、跪きました。
「我々の神よ!貴方は、貴方は‥此の者達を、御存じなのですか!?」
「私は神ではない。神とは全知にして全能。唯一にして絶対の方の事である。
私は此の地に在って、あなた方を守護する者であるに過ぎない。全知でも、全能でもない。
然し、もし、あなた方が、此の者達に汲みし、あらゆる援助を惜しまないならば。
見よ。私は、許されて在る此の力を以て、此の世に在る限りあなた方の上に、尽きぬ恵みを注ぎ続けよう」
そう言うと緑のひとは、大きく両手を広げました。
忽ちフィデル‥誠実、と呼ばれる此の森の木々が、金色と緑色の光に包み込まれました。
陽射しを浴び過ぎた葉っぱや、未だ小さな木の実の軸の、茶色い部分が見る見る内に剥がれていきます。
葉っぱも木の実も、ふるふると震えて、輝くような緑の色に戻りました。
「おおっ!」
「か、感謝致します!」
「‥それから。此の者の名はタマルという。此の子の様に、確立された名前と、もはや揺らぐ事の無い完成された心‥輝ける魂の『識』を持つ者を、あなた方は其の様に、種族の名で呼んだりしてはいけない」
「はっ!」
「ははっ!」
緑のひとはタマルに向かって軽く手を振って、そして、その姿は消えていきました。
「‥‥‥‥」
白いエルフ達は、全員無言でタマル達を見つめています。
「君は、君達は、いったい何者なんだ?」
黒いエルフ達がセリア達に詰め寄ります。
「確かに、あの日」
ダークエルフの、恐らくはリーダーなのでしょう、瑠璃色の髪の精悍な顔立ちのひとが、空を見上げて言いました。
「あの驚愕の日。巨大な太陽が、夕陽と朝日と金色の陽とが落ち掛からんばかりに天空を駆け巡り。全ての地の道が目覚め、えも言われぬ光の粒があらゆる場所に降り注ぎ。そして闇の者の‥闇の物の全ての力の現れが完全に消え去った、あの日。確かに我々は、此の身に受けた闇の力を失った。残ったのは、此の肌の色だけだ」
ダークエルフは寂しげに笑って続けます。
「先のあの様な者、我々は神等と思っては居ない。神とは確かに、あれが自分で言った様に、全知全能の者なのだろう。どちらも我々には、恵みを授けては呉れなかったがな。
愚かで下等な者共が神と崇めていた闇の者が、2名居たと君は言った。今は居ないと言った。何故知っている?君達は何者なのか?」
「此れはもう隠しては居れぬな★ハダスよ、我等は引いて居ろう。光精諸君、其方等の出番だ」
「うむ、残念ながら、我等の出番は無い様だなアルギムよ‥後は任せるぞ」
「…私たちが、ですか?」
「OKっ!いいよっ☆」
ナンシュアとリシェルが前に出ました。
「君達エンジェルが天使ではない事も知っている。天使とは天からの使者。神の使いである筈だからな」
「…ええ、その通りです。私たちは光の精霊族、あなた達と同じ地の者に過ぎません」
ナンシュアは翼を軽くはばたかせて言いました。
「…1つだけ、聞かせて下さい。あなたはダークエルフの誇りと言ってました。
…本当に、その姿を、誇りにしているのですか?」
「フッ、そう来たか」
ダークエルフは苦笑いして言いました。
「力と呼べる物が、闇の者から発する暗き物しか無かった、と言った筈だが?我々が誇りにしているのは‥
他者を顧みぬ事で保障される安寧を捨て、及ばずながら此の世を良くしたい、と願い力を求めて森での暮らしを捨てた、此の信念だけだ。それ故の此の肌の色は‥‥‥」
ダークエルフは苦い顔をして、自分の腕を見つめました。
★
「…解りました♪お教えします、私たちが何者なのかを。リシェルさん?」
「解ったナンシュアっ☆教えてあげるっ、私達がどんなひとなのかっ♪」
ナンシュアとリシェルは軽くはばたいて、皆の肩の辺りまで浮き上がりました。
「…神様、もし御心ならば、闇の現れを疎い光を求めるこのひと達に、祝福をお与え下さい‥
…モード・オブ・フラーテル。友愛の夕陽よ、此処へ」
ナンシュアが胸の上で両手の指を組んで目を閉じると、彼女の体から橙色の光が溢れだして、ダークエルフ達を見る見る内に包んで行きました。
「神様、もし御心ならば、ひとの為に何かしたくて力を求めた、このひと達の戒めを解き放つ事をお許し下さいっ!
モード・オブ・フィランタっ!博愛の曙光を此処へっ!」
リシェルが叫ぶと彼女の体から深紅の光が溢れだして、辺り一面を照らしました。
「…友愛と博愛とを以て、わたし達は願います」
「あなた達の体の闇の現れがっ、綺麗に消えて無くなります様にっ☆」
ナンシュアとリシェルが両手を広げると、橙色と深紅の光は更に強くなりました。
「う、うわっ!何だ、此の感覚はっ!」
「皮膚の下を細い虫が這い回る様な感覚はっ!?」
「君達っ!一体、我々に何をした!!」
「…我慢して下さい」
「きっと、すぐ済むからっ!ねっ♪」
ダークエルフ達は口々に喚きながら、体を掻き毟ったり両足を踏み鳴らしたりしています。
やがて小さな火花やシャボン玉の様な光が彼等の体から次々に飛び出して‥
ダークエルフ達の体は、元通り真っ白に戻っていました。
「此れは‥?」
「お仕舞いっ♪」
「…良かったです☆」
ナンシュアとリシェルは地面に降りました。
瑠璃色の髪のエルフが2人に歩み寄って言いました。
「友愛と博愛、と言ったな。今の光は、あの驚愕の日‥天空を駈けていた光と同じ色だ。まさか君達」
「…ええと、」
ナンシュアは困った顔でリシェルを見ました。
「言おうよナンシュアっ」
「…解りました。夕陽の担当のナンシュアです」
「朝日の担当のリシェルだよっ宜しくっ♪」
「!君達、いや。あなた方だったのか‥」
瑠璃色の髪のエルフは絞りだす様な声で言うと、2人に歩み寄り、右の拳と左の膝を地に着いて、地面に付きそうな位、深く頭を下げました。
「ご無礼を‥‥」
彼の仲間の、黒い色が無くなったエルフ達も、次々に駆け寄ってきて跪きました。
「神と呼ばれる者でさえ為す術もなかった事を、あなた方は簡単に実現してしまった!」
「此の恩は生涯忘れない!我々は、あなた方になら従おう。あなた方が神と崇める者ならば、信じよう」
「調和と和平、と言っていたな。どうか我々も、あなた方の働きの同盟者の列に加えて頂きたい!」
「フッ‥どうだろう。見事なものではないか」
「あたし達、出番にゃかったね」
「無かったの。チョットだけ、つまんナイの★」
「気を悪くしないで下さい‥これが1番いい結果だと思います♪」
「いーすさんの言う通りだよ☆えるふさん達、来てくれるって言ったもん」
「うむ。始めから白かった方はともかく、あれ等は見込みがあるな★」
「またソンな風に言うの★」
それからセリア達は白くなったエルフ達を連れて、ハルモンの森へ帰りました。
皆が大喜びで、彼等を迎えました。
「大歓迎だぜ、凄えっ!格好良いよなあ♪」
「その森に住んでいたエルフ達にしても、同盟は拒んだが協調は受け入れた訳か。あれ等にしては大した進歩だな、バロールだ宜しく!」
「アインシータよ♪ぁなた達なら森の管理者として最高ね。木々を上手に活かした街づくり、期待してるわ」
「私達も心から嬉しく思いますぞ。ノームやドワーフの方々もじきにいらっしゃる。共に助け合い、この森を、そして世界を、豊かにしていきましょう!」
「アナタ達ナラ、嬉シイナ☆コレカラモ、仲良クシテネ♪」
「此れ程多様な者達の歓迎を受けるとは‥私も、エルフ族を代表して名乗らねばなるまい」
瑠璃色の髪のエルフはナンシュアをちらりと眺めて、
「かつて此の身に闇の力を受け容れた時、もはや生涯名乗らぬと誓いはしたが。
今、あなた方に名乗ろう。
私の名はフェルゼイだ」
そう言うとフェルゼイは、軽く頭を下げました。彼の仲間のエルフ達も、一斉に倣いました。
★
「その髪の色‥ダークエルフの中でも最強と謳われた、青暗の騎士とは貴公の事か?」
「バロールと申したな。フッ‥今となっては昔の事だ」
「いやいや、なんの♪此れは益々心強い。貴公に会えて嬉しく思うぞ」
2人は力強く握手を交わしました。
「ところで‥あなた方の他にも『家族』が在ると聞いた。それはどの様な方々なのだろうか」
「あ〜、昨日も言われたからにゃ。明日呼んできてあげるよ」
「我等の他には赤き者、碧き者、緑の者。そして」
「そうだ。小さき『虹の』者が居る」
「…私たちは煌めく陽の‥姉さまと♪」
「癒しの月の妹分がいるよっ☆」
「あと人魚が1匹。こいつは別に、どーでもいいかにゃ」
「またソンな事言うの。だから喧嘩にナルの」
「うん、お姉ちゃん。それはひどいと思う★」
「…皆でお家を空ける訳にはいきませんし、私たちは交代で帰りますけど」
「帰ってしまうのか‥」
「…そんなお顔、しないで下さい★次のお仕事には、また交代で来ますから」
「フェルゼイ、と申したな。此の世界の言葉で悟りし者、と言う意味か」
アルギムが言いました。
「そうだ。流石に博識だな、此の世界とはいえ私の故郷の言い回しなのだが。貴方はアルギムと聞いたが‥?」
「フッ、我等の世界で白檀と言う意味だ」
「おお、あの芳しい樹か。美しい名だな」
「悟りし、悟りし‥あたし達の世界じゃ大悟くんって所かにゃ♪」
「お姉ちゃん★」
「幾らナンでもソレじゃ軽すぎるの」
「ダイゴ?どういう意味だ」
「大きく悟るって書くの☆良いと思わにゃい?おまえの事、そう呼んでいい?」
「ほう‥大いに悟る、か。良いな、構わないぞ」
「ふぇるぜいさん、聞いちゃダメ〜!」
ハルモンの森に、また新しい仲間が増えました。
元はダークエルフだった、エルフの戦士の一団です。
どんなひと達よりも、森を大切にする彼等。
彼等の協力で、この森も、周りの森も、益々豊かになっていくでしょう。
朝早く出かけたので、まだまだ陽は高いです。
セリア達は、家族達の交代をして、同じ様に色んな種族が協力し合って暮らしてる村‥あの大きな蛙が居る、星の裏側の村へ行く事にしました。
セリアは、お昼寝したがりましたが、ルディアが彼女のお尻を蹴飛ばして、直ぐに交替しに行く事になりました。
『調和』の森の『安堵』のお城‥その天辺に並んで座って、リシェルとアインシータが話しています。
「ねぇ、交代で来るぁなたの姉妹さんって、どんな感じのひと?」
「凄く優しいけど凄く厳しいひとっ。それと、凄くのんびりだけど、凄く短気な子っ★」
「相反してるね‥付き合ぇるかなぁ」
「大丈夫、すぐ慣れるよっ!あはははっ☆」
そして牧場では。
「牧場や畑をも運営しているのか‥大した物だな」
「いえ、僕なんか。皆おとなしいし、覗いて回ってるだけですよ♪」
柵の間から中を覗くイース。
山羊達が、めぇ、と鳴きました。
牧場の柵の周りには、フランと呼ばれる熟すと、ぱかっと裂ける実が、たくさんなっています。
木漏れ日を浴びて、少し紫色に染まっています。
お城の部屋はたくさんあるけど、そろそろ森の中にも幾つか家を建てないと色々と不便になります。
イースはエルフ達に良い場所を見つけて貰う為に、彼等と楽しくお喋りしながら森の中を歩いて行きました。
『つづく』
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