オズアンナはおずおずと進み出た。その様子にターバンを巻いた男が気づき、そっと後ろに廻った。タルケンといえば、確かにぼーっとしていた。それは、もしかしたら恋の悩みゆえかも知れなかったが、これに関しては余人の知るところではない。
「兄さんを助けてください!」
少女はタルケンの目をじっと見据えて、唐突にそう言い放った。
「やっぱりそうでやんしたか」
少女の背後に立つターバンを巻いた鼻の低い男が、さもありなんといった様子で腕を組んで頷く。ウルの町では珍しい円月刀を腰に下げ、異国風のサシュをイキに巻いているのだが、ちっとも男を上げない。シーフのくせに丸っこい体型が、二枚目になるためのすべての可能性を奪っているからだ。しかしだからといって、それが彼の人生を暗いものにしているわけではない。シーフのハッタタスはその憎めない性質と体型のせいで、これまでずいぶんと得をしてきているのである。
「タルケンさん、まずは話を聞いてやっておくんなさいよ。この娘っ子はオズアンナ。塔の街の塔持ちの野郎の妹でさあ」
オズアンナは先ほどロリエーンに語った話を繰り返した。今度は途切れなく話すことが出来た。ハッタタスはすっかり同情してもらい泣きをしている。
「タルケンさん、何だったら報奨金はあっしが盗み働きでも何でもして稼ぎます。ですからこのオズアンナの心配事を何とかしてやっておくんなせえよ」
タルケンはすぐに行こうと言って、オズアンナに案内を乞うた。
「ちょい待った」それをハッタタスが遮った。
「実はその塔はあっしがすでに怪しいと当たりを付けてたんでさあ。オズアンナは危ないかも知れないから、ロリエーンと一緒にここで待っていなさるがいい」
それでも行くと言って聞かないオズアンナをロリエーンに押しつけると、ふたりは塔の街へと急いだ。タルケンは塔の街は初めてだった。珍しい建物につい見とれる。
「タルケンさんよ、そんなにキョロキョロしながら歩いてたんじゃ、日が暮れちまうでやんすよ。さあ、塔なんざ明日でも明後日でもその後いくらでもあるんでやんすから、今は急ぎやしょう」
せかされてタルケンも早足になる。そして街をほとんど端から端まで横断するようにしてやっとオズワルドの塔に着いた。
「遅かったでやんすか!」
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