思わずハッタタスが舌打ちしたのも仕方がない。塔からは魔物の気配が濃厚に漂っていたのだ。塔はイリュージョニストのものにしてはありふれた形のものだった。その中から聞こえる不気味な叫び声や、時おり窓に映る怪しげな影。召喚だけでは終わらず、魔界とのゲートが開いてしまったのではないかと思われた。
 塔に足を踏み入れたふたりを、さっそく出迎える者があった。居間には幽霊のようなモンスターがひとり佇んでいたのである。ふたりが扉を閉めるとすうっと寄ってくる。

タルケンが抜きざま横に払った。居合抜きのような技である。「ヒイッ」と常人が聞いたら肝の冷えそうな嫌らしい声を上げて、その影のような怪物は消え去った。
「ハッタタス、君はここで待っていた方がいい」
「何水くさいこと言ってるんでやんすか? あっしはタルケンさんと死ぬも生きるも一緒でやんすよ」
 ハッタタスが言うとただ調子の良いことを言っているだけに聞こえるかも知れないが、タルケンはそうは思わなかった。互いに見つめ合って頷くと、急ぎ階段を上って行く。
 次々襲いかかる魔物たちを切り伏せ切り伏せ前進する。召喚した猫妖精のケットシーの活躍もあって、ようやくふたりして最上階にたどり着いた。廊下の先にある、おそらくそこがオズワルドの部屋だろう。半開きになっている重い木の扉を開けると、中は薄暗いながらも灯明が灯っていた。魔物の気配はない。タルケンが先に入ると背後で突然バタンとドアが閉じた。振り返りノブを回しても動かない。ハッタタスが外からドンドンと叩くがびくともしない。タルケンは覚悟を決めて部屋を見渡した。


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