第19話 “異能者達の夜のはじまり"
(by 戯言士皐月)

ケイ「つぁっ!」炎の塊がケイと神無に襲い掛かる
ルビカンテ「どうした?その程度なのか?」
神無「…」
嘲笑する炎皇を見上げる―――魔宮外にて戦闘開始間もなく炎皇を撃破した神無とケイ。しかし魔宮の中から突然発せられた異様な邪気を追って来てみれば、そこにいたのは不敵な笑みを浮かべた炎皇ルビカンテ…外側に存在したのは偽物か幻影か。どちらにせよ、ひとつ言える事は目の前の炎皇は外で戦ったものの比でなく強い。だが、疑問が残る…

ケイ「外ので私達を倒せると思ったんじゃないですか?」
神無「そうでしょうか?先刻のもの、先日交戦した炎皇の幻影と比較しても明らかに劣っていました。まるで私達を中へ引き入れることこそが目的だったような…でも、そんなことをして一体どうなるのでしょう?」
ルビカンテ「知ってどうなるものでもあるまい?さあ、宴を再開しよう。先程の雑魚のように私を失望させないでくれ」
その言葉に神無は唇を噛む。既に久遠と刹那は炎皇によって倒されていた。幸い魂まで灼かれてはいなかったので再召喚は可能だか…彼がその暇を与えてくれるとは思い難い。神無は手にした神器を握り締めて呟く…
神無「小手先の作戦が通用する相手でもないようですね。出し惜しみしてたら負けますよ」
ケイ「…はい」
ケイの姿が突然掻き消える。空間を跳んだのだ
神無「《行きなさい!》」力ある詞に呼応するかのように彼女の周囲に発生した炎の矢が複雑な軌道を描きながらも高速で炎皇に殺到する。そしてケイは炎皇の背後に出現、気の刄を叩き込む
ケイ「っ!」
しかし吹き飛んだのはケイの方、炎幕が晴れた先に見えたのは赤い蝙ような翼で身を包む炎皇…更にそこへ「翼」で加速した神無が斬り込んだ。が、《ごぅっ!》炎皇の放った炎の嵐に押し戻される

ルビカンテ「つまらぬ。実につまらぬ。魔女よ、本当にその程度なのか?」
ケイ「くっ!」
ケイの顔が怒りに歪む
ルビカンテ「そろそろ飽きた。終わりにしようぞ」
炎皇が翼を大きくはばたかせた。同時に神無の術が発動する
神無「《翼》よっ!」
結界内の物理法則を捻曲げて驚異的な運動能力を得る《天纏衣》…回避には早すぎる…ケイはそう思った。炎皇はまだ踏み出してもいない。いくらなんでも…と、直後、ケイが予想だにしなかった事が起こった
炎皇の広げた蝙の翼、その片方が千切れ飛んだのだ。炎皇の絶叫が広間に響く…
ケイ「あの…今のは?」
神無「はい?《ウェンディスの翼》を彼の片翼だけ残して掛けただけですよ」
振り返りもせず答える
ケイ「要するに…」
炎皇の体は神無の術の効果で本来の数十倍の速度で動こうとする。しかし術の効果範囲外にある翼がその急激な運動に追い付ける筈もなく…しかもその境界は他より脆いと思われる翼の付根…ということはつまり…ある考えに至り、一気に青ざめ神無を見るケイ
神無「良かったですねぇ、ここに来るまでに手足落としてなくて」
ケイ「そういう注意は始めにしてください!」

…と、炎皇が立ち上がった。怒りに顔を歪め、千切れた翼の根元から黒い何かを滴らせながら炎皇が吠える
ルビカンテ「頭に乗るなよ…下位種(レッサ-)アァァァ!」
叫ぶ炎皇に冷たい視線を向ける神無
神無「まあ、それで終わりとも思いませんでしたが…あれ、やれますか?」
後半は自分に振られた言葉だろう。あれ、とは多分…ケイは頷いた
神無「時間稼ぎは任せて下さい」
そういうと神無は炎の矢を再び放ち、炎皇と切り結ぶ。痛みで集中力を削がれてか炎皇に先程までの圧倒的な力が見られない。今なら…やれる!ケイは精神を集中させた
何らかの行動を悟った炎皇がケイに向かって火弾を放つが、神無の術で尽く相殺される…そしてケイの術が完成した。方形の結界が炎皇を囲む…そこに出現する異空との断裂に敵を落とすケイの究極技…いきなり、結界内に生じた異空から覗く闇がもぞりと蠢いた
ケイ「えっ?」

こんなこと、一度もなかった。一体何が起こったのか…動揺するケイに結界の中の炎皇が嗤う
ルビカンテ「自ら冥府の扉を開いたか…クク…今這い出そうとしているのは運悪くこの地にいた、魔宮に喰われた人間のなれの果て…」
ケイは戦慄した…自分は魔宮に喰われた魂を顕現させてしまったのだ。理不尽な死を与えられ、浮かばれぬ魂に更なる苦痛を与えてしまった…精神集中が乱れ、炎皇を覆う結界が解ける
神無「真に受けてはいけませんよ。魔物化は明らかにあちらの仕業です」
ケイは動かない…いつまでも惚けているケイの足元に炎の矢が突き刺さる。びくっとして見上げるとそこには表情のない神無の顔
神無「貴女の責任だと、そう思うのなら貴女の手で還してあげなさい。炎皇は私が引き受けます。《聖域》よっ!」
返事を待たずに発せられた詞とともに神無と炎皇の姿が消える。
《絶対領域》…特殊な結界を構築し、内外をほぼ完璧に遮断する術だ。あとに残されたのはケイと大量の亡霊…攻撃を躊躇うケイに対し、亡霊は問答無用で仕掛けてくる。必死に回避するがそれにも限界がある。一刃、二刃…少しずつ傷が増えていく
ケイ「駄目だよ、攻撃なんて…できないよ」
そう呟いたケイの目に亡霊たちの顔が飛び込んできた。闇に喰われ、堕ちた亡霊のもつ怨恨の表情ではない。亡霊たちは泣いていた。そして言葉にならない詞で囁く…
「コロシテ…」
「ラクニナリタイノ…」

彼等はこの魔宮に魂を捕われているのだ。この魔宮がある限り彼等に安息はない。そして自分には魔宮を破壊する為の
力がある筈…突然、ケイの右手から光が溢れ出した
ケイ「これは…」
この光は…そう、神像の前で神無に敗れ、気を失った時に見た夢にもこの光が…ゆっくりと輝く手から亡霊に視線を移す…
ケイ「こんなの、はやく終わらせるから。貴方達みたいなの絶対にもう出さないから。約束するから。だから先に眠ってて…ごめんね」
掲げられた右手から広がる眩しい光が広間を埋める。それは秘石に認められし者の力…優しく気高き魂の光…光に充てられた亡霊は苦悶の表情もなく消えていく。亡霊達の安堵の思念がこだまする。涙が止まらない
ケイ「……なさい…ごめ…なさ…っ」
…その中のひとり、小さな少女が駆け寄ってきた。
《オネエチャン…ヤクソク…ネ》
少女はそれだけ言って…光に消えた。ケイは涙と嗚咽でその少女の言葉に答える事も、顔を見ることも出来なかった。

―――その時、《ばりん》…硝子の割れるような音が響き渡った。音と共に顕れた神無…彼女は…そのまま崩れ落ちた

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