第20話 “深淵の中へ…"
(by 戯言士皐月)
神無「貴女の責任だと、そう思うのなら貴女の手で還してあげなさい。炎皇は私が引き受けます。《聖域》よっ!」
ケイの返事を待たずに術式を展開する。一瞬周りの景色が歪み、ケイと空間の裂け目から這い出そうとしていた亡者の姿が消える。《絶対領域》…特殊な結界を展開、内部の空間座標を故意にずらして現実空間からほぼ完璧に隔離する術である。
ルビカンテ「二人がかりでもてこずっていたようだが…一人で何をしようというのだ?」
神無の背中を嫌な汗がつたった。実際、楽に勝てるとも思わない。最悪、ケイが亡者を倒して奥部に行くまでの時間稼ぎが出来れば…
神無「ですが、ただで負けてさしあげる気はありません」
言いながら周囲に炎を生み出す
神無「《行きなさい》」
ルビカンテ「ふん!」
神無の放った無数の炎の矢を、炎皇は手を振ることで生み出した炎の膜で絡めとる
ルビカンテ「今度はこちらから行くぞ」
神無「…」
炎皇が放った火炎弾は、その尽くを神無が生成した炎の塊によって相殺される。その煙幕に乗じて炎皇に肉薄する神無。手にした聖鎌を振り下ろす
ルビカンテ「ワンパタ-ンだ」
炎皇は神無のその動きを予想していたかのように眼前に巨大な火球を生み出した
神無「っ!」
その火球を真っ二つにし、爆風に逆らわずに飛んで再び距離をとる。そして再び炎の矢を連射。その全てを無効化した炎皇が撃ちだした火弾を相殺する。そんなやりとりが暫らく続き…どちらからともなく「遠距離攻撃では削りにもならない」と悟ったか接近戦に移った。
聖鎌を使う神無に対し、炎皇も炎で剣を生み応戦する。幾度となく切り結ぶ両者…技量は拮抗している。しかし少しずつ神無が劣勢に追い込まれていく…持久力の差か。距離をとり、肩で息をする神無。致命傷は受けてはいないが、相手にも有効な攻撃は成功していない
神無「…はぁ…っく。そろそろ…終わりにしませんか?」
ルビカンテ「賛成だ。次の貴様の一手、通れば貴様の勝ち。通らなければ我の勝ちだ」
神無「…いいでしょう」
言うと同時に炎の矢を撃つ。炎皇はそれを事もなげに剣で振り払う。そこに《翼》で加速、接近する
ルビカンテ「失望したぞ。ワンパタ-ンだと…言っている!」
神無が振り下ろした《剣》を炎の剣で打ち払う炎皇
ルビカンテ「なっ!?」
そう、神無が振るったのは聖鎌を封印した二振りの剣のひとつ、霊剣・草薙。その一瞬の隙を逃さず神無はもう一振り、黒の剣を振り下ろす
ルビカンテ「がぁぁぁっ!」
剣は炎皇の左腕を肩から撥ねていた
ルビカンテ「まだだっ!」
右手に残った炎の剣で神無の黒の剣を持った右腕を両断。神無の顔が一瞬苦痛に歪む…が次に現われたのは笑み。神無の左手は炎皇の胸に突き立てられていた。そして禁忌の術を起動する
神無「《滅せ》…」
起動した瞬間、炎皇の体が神無の手を中心に白化し、崩れていく…《存在否定》対象に関連する全ての情報を書き換えて存在を抹消する、神無の禁呪式。どれだけの抗魔力を誇ろうとも「高い抗魔力を持つ」という情報自体を変換・無効化してしまう為、効果は御覧の通り。消滅が進む中、炎皇はまだ生きていた
ルビカンテ「見事だ…だが、ただでは終わらん…貴様も道連れだ」
そう言った炎皇の体から黒い炎が立ち上る。それは彼が本来住まう地獄の業火。魂をも焼き尽くす呪炎。それは炎皇だけでなく胸に刺さった手を伝い神無をも包む。それでも神無の顔には笑みが残っている
ルビカンテ「馬鹿なっ!?この炎を耐えるなど…ありえぬっ!」
神無「こんな薄汚い炎で私を燃やそうと?炎とは…こういうものです」
そう言った神無から青い炎が吹き出し、一瞬にして炎皇が発した黒い炎を《焼き尽くした》
ルビカンテ「ば…」
青い炎はそのまま殆ど白化していた炎皇を覆い、消滅させた
神無「《フォーマルハウトの火》…我が主人の力…」
そう呟いた神無の左手は炎皇のように白化、大半が崩れていた。ただでさえ多大な精神力を要する禁呪式を疲弊した状態で行使、更に別の力を発現させたことによる《存在否定》の暴走である
神無「腕一本で済んだのは奇跡です…ね…」
一瞬、意識が途切れる。制御を失った《聖域》の結界が硝子の割れるような音をたてて砕けると同時に神無はそのまま崩れ落ちた
―――ケイは涙を拭い、倒れた神無に駆け寄り抱き起こす
ケイ「神無さん!大丈夫ですか?かん…っっ!手…が…」
片や切り落とされ、片や白化し崩れた神無の両腕をみて絶句する
神無「心配いりません…時間さえ掛ければ再生出来ます。また姫様の手を煩わせる事になりますが…」
周囲を見れば分かる。ケイは亡者の駆逐に成功したのだろう。感受性の強い娘だ。辛い決断をしたのだろう。涙の跡と赤い目を見れば容易に予想がつく。それよりも…
神無「まだ…終わってませんよ。まだ下に吐き気がする程の邪気を感じます…貴方は先に行って下さい」
自分が何と言おうとこの人はここに残る事を許してくれないだろう…そう直感する
ケイ「…分かりました。先に行きます。早く来ないと全部終わらせますよ」
無理矢理笑顔をつくる
神無「待ちなさい…あれを…」
神無の視線の先にあったのは聖鎌セイクリッドデス。あれを持っていけ、ということか。ケイは何気なく手に取った。
《どくんっ!》思わず投げ捨てる
ケイ「っはぁっ…はぁっ…」
手にした瞬間思念が流れ込んできた。怨恨、嫉妬、憤怒…あらゆる負の感情。この神器は伝説にあるような祝福された聖なるものではない。世に渦巻く負の感情を力に変え、その邪念の奔流に打ち克つ力を持つ者に力を与える魔導器なのである
ケイ「すみません。私には…使えません…でも、私にはこれがありますから」
右手を差し出す。そこには一つの柔らかな光を放つ石
神無「(輝石…それが貴方の魂の光ですね)」
ケイ「?」
神無「何でもありません。では、先に行っていてください。後で絶対追い付きますから」
ケイ「…はい」
神無を気にしながらもケイは奥の通路へ消えていった―――
神無「とは言ったものの…再生なんて無理です。後は…任せました」
―――横たわり、目を閉じて動かなくなった神無に人影が近付き…彼女を見下ろし呟く
人影「クトゥヴアの滅びの炎を誰かを護るために振るう…それがお前の見つけた道か…」
その声には少なからず満足の色が含まれていた。そんな人影の背後に、別の人影が歩み寄っていた…
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