【雨の日】 1/29更新
ざ――――――――――
‥森の樹々の葉っぱを叩く、切れ間ない雨音が響いている。
降り始めの埃臭さも消えて、甘いような水の匂いが立ちこめている。
ここは森の中のお家。
特別にしなければいけない用事もないし、こんな雨の日はごろごろしてるのが一番♪
「にゃ――う☆」
「いも虫みてぇにのたうち回ってんじゃねぇよ」
「ふざけんにゃばかっ!!優雅にごろごろしてんの♪」
「本当に猫みてぇだな。よし、では膝の上に乗せて、しばらく構うとするか★」
「来るにゃっ!噛み付いて引っ掻いて連続きっく食らわすよ☆」
「猫そのものじゃねぇかよ‥ふぃ―然し止まねぇな」
明け方からずっと降っている。薄い靄がだんだん集まって、真っ白い霧になる。雨に叩かれて、濃いめの緑の匂いがする。
「エンジェル姉妹はお出かけかこの雨んなか」
「木の実だか草の実とりに行ったよ―、傘さして。果実酒だか果実酢にするって言ってたにゃ」
「何だかんだで働きもんだな」
「戦いに明け暮れてると心が荒んじゃうから、せめて日常に潤いを、だって♪」
「そっか‥考えねぇといけねぇな‥別に俺ぁお前等の事、戦闘に駆り出す為だけの奴なんて、思ってねぇんだけどよ」
「もしそ―だったら、お家にゃんて用意する訳にゃいよね☆解ってるよ。待てよとゆう事は今あたしとおまえ二人っきり!?にゃ――!!しまった――★」
「何がしまっただ‥ビリー」
「きゅ―い♪」
天井の梁の裏から顔を出す黒目の大きな子。
「にゃんだびりぃ居たの」
「誰も聞いちゃいねぇが人聞き悪ぃ事、言ってんじゃねぇよ★
きな、ビリー。猫助が心配なんだとよ、二人きりだと」
「誰が猫助だ―っ!!」
「きゅきゅきゅ♪」
「可笑しくにゃい!!」
お家と洞窟の間を流れる沢‥だいぶ水嵩が増したようだが不快な音ではない‥
雨音と水音が交ざって耳のなかで響く不思議な感じ。
「果実酒とか菓子とか普段誰が考えてんだ?」
「ふろーらとにのん。にゃんしーはお菓子焼くのが大好きで、りさは、はーぶのお茶に凝ってるみたい。あたしは甘いお菓子苦手だし、お薬みたいにゃはーぶも、遠慮したいんだけど★」
「‥好き嫌いはしょ―がねぇけど、せめて一緒にテーブルついて付き合ってやんな」
「付き合ってるよ―♪おはにゃしも冗談のせんすも合わにゃいけど‥」
「まぁ無理して合わす事ねぇよ。普通にそうしてりゃ、それが個性‥つうか魅力になる。と思う」
「思うってにゃによ★そうだ、おまえ、あたしのにゃまえ考えてくれてる?みんにゃあたしのこと呼ぶ時、一々考えてて、にゃんか気まずくにゃってきたの」
「あ―名前、はいはい」
「たまに本読んでても全員にゃまえ付いてんだよにゃ‥要するににゃまえって聞こえる目印みたいにゃ物?そいつと他人を見分ける」
「いや、もちっとこう、深めの意味があんじゃねぇか?少なくとも付けた奴にとっちゃ」
「にゃるほど‥そんであたしのにゃまえ―☆」
「セリアなんてどうだ?」
「せりあ?ふむ、響きは悪くにゃい♪どんにゃ意味があるのかにゃ」
「本読んでるつったな。アリスって知ってるか」
「あ―知ってる―!!おはにゃしは気に喰わにゃいけど‥ど―もあのにゃい容が」
「俺もあの話は好きじゃねぇな。ともかく字で書けるか?彼女の名前」
「書けるよ♪5文字しかにゃいし」
「おぅけぃ逆に読んでみ」
「えきら」
「ちゃうやろ★こう分けんだよ」
「え―と☆せりあ。にゃう!にゃにこれどゆ事!?」
「‥あぁゆう誰かに定められたんだか押しつけられた夢物語を引っ繰り返す者、とゆう意味合いをだな‥ちょいとこう、ちっ、俺とした事が★どうだこんなもんでお前の意見を聞きてぇ」
「ん―。せりあ‥せりあ‥い―よ♪にゃのってあげるにゃんか響きい―し☆」
「そうかい、安心した。あの娘等帰ってきたら、教えてやってくれな」
「解った―♪ふむふむ」
「きゅうぃ」
「おう、びりぃ。あたしも、にゃまえ付いたよ♪改めてよろしくにゃ☆」
ビリーのたてがみを、きゅいきゅい扱く。
「きゅ―!!」
「あいたた怒んにゃ★でもおまえ最近たてがみはえた始祖鳥に似てきたにゃ」
「始祖鳥はねぇだろ‥」
「きゅう!きゅうい?」
「やっぱし似てるって♪前は裸で羽毛もにゃかったんでしょ?」
ビリーを膝に乗せいじくり回すセリア。お返しに噛まれたり引っ掛かれたり蹴られたりしている‥
降りしきる雨。
紫陽花の花が傾く位、大きなかたつむり。
「お家のにゃかで聞く雨の音って不思議‥にゃんか眠くにゃる。でも、おにゃかも空いた」
「あの娘等帰ってこねぇしなんか作っといてやっか?お前ちょっと頑張ってみ」
「ふあ―‥☆にゃうあたし作んの!?」
「たまにゃ普通の食材でなそ―いや冷蔵庫の調子どぅだ?正確には冷倉庫か★」
「にゃかにゃかい―よお☆あんにゃ風にしたら食物がにゃが持ちすんだね。あたしトマトとチーズが食べたい」
「パスタは好きか?」
「うんうん♪」
「決まりだナポリタンで行こうや★そんじゃ作り方教えっからよ」
「にゃう♪あんまし難し―のやだからにゃ」
「手軽で簡単♪だっけかな心配すんな」
雨はまだ止まない。今日はずっと降るのだろうか。
出かけたくない動きたくない雨の日。
それでもお腹は空く‥しばらくして森の中にベーコンや玉葱やトマトやチーズが焼ける、いい匂いが漂ってきた♪
☆おわり☆
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