【雲のなか】
『どしん、どすん、どしん。段々足音が近づいてきます‥エンジェルのふろ―らは一生懸命、走っていました。こんな狭い洞窟では翔ぶ事は出来ないからです。ぱたっ。そして転んでしまいました‥どすんどしんどすんどしん足音はどんどん近付いてきます★とうとう不細工なキマイラが姿を現しました!!よだれをだらだら流しています‥きゃあ、助けてえ!ふろ―らは座り込んだまま、泣きだしてしまいました☆』
「ふふふふ―んふ―んふんふふふふ―んふ―ん♪」
床に腹ばいになって楽しそうに何か書いてるセリア。開いたノートには、絵も描かれている。絵日記だろうか。座り込んで泣いてるエンジェルの絵?
「もっともっと一杯、雨が降ってるみたいに、にゃみだ描かにゃいとダメかにゃ。後は、とにゃりに、きまいらの絵を描いてと♪」
『ああ、もうだめ。ふろ―らがお家に帰るのを諦めかけたその時‥お嬢さん!!お困りの様ですね★じゃじゃ―ん♪それは街で一番有名なせくしぃ&きゅ―となキャットウーメン、セ‥』
すっ、とノートが取り上げられる。
「セリアさん?何ですかこれは‥このエンジェルとはわたくしの事でしょうか」
「に゛ゃう!!ふろ―ら、いつからそこ居たの!?」
「5分程前からです。夢中になって何を書いていらっしゃるのかと思えば、このような事を」
「い―じゃにゃい★ふろ―らは、仕方ありませんねと溜め息を一つ吐いて、きまいらを一撃でにゃぐり倒しました。あたしは、出番がにゃくて、きまいらのおにゃかを棒でつついていました‥にゃんて本当のこと書いてもつまんにゃいもん‥ちょっとくらい脚色しにゃいと、ね♪」
「それで座り込んで泣く役が、わたくしに回ってくるのですか?ちょっと其処へお座りなさい‥膝も揃えてきちんと」
「や―★これ最後まで書いてから―」
「お小言がお嫌でしたら、きちんと本当の事をお書きなさい!」
「にゃう―!!い―じゃにゃい、もお。怒んにゃいでよ」金色の長い髪を紐で結んでる彼女はフロレット。4人のエンジェルの中で、一番のお姉さん。性格は至って生真面目、そして一番の力持ちである?
「宜しいですか?日記とは、その日に起った本当の事を忠実に記す事に意味が有るのです。脚色は、それを記した上で、ご自由に行えば宜しいでしょう?」
「一度書いて、またそれを元に、にゃんか書くの面倒臭いよう」
「それでは、わたくしに関する、この記述だけでも削除なさい。暫らく貴女の後ろで見ていますからね‥一下り書き終えるまでお茶はお預けです。それから、姿勢もきちんとなさい」
「にゃあ―!!にゃんで日記書くだけにゃのにこんにゃ目に遭うわけ―!?こら、ふろ―ら、抱えにゃいで―!」手足をばたばたしながらも椅子に座らされるセリア‥。
「も―。あたし、作家じゃにゃいんだよ」
「そうなのでしょうけれども、然し‥」
さっきセリアが描いた絵を、手にとって眺めて、フロレットは困ったような顔をした。
「こういった表現を行う才能の様なものが、貴女には有るのかも知れません。それが才能と呼ばれてよい物かどうかは解りませんが?
「またすぐ物事を生真面目にしちゃうし‥あたしにお小言ゆう暇があったら、冗談のお勉強でも、しにゃさいよう」
「‥‥★」
無言で両の拳固で頭をぐりぐり。
「あ痛あ痛!もう言わにゃい、もう言わにゃい!!」
「解って頂けましたか★?
「にゃう―‥」
『あたし達は簡単なお使いを終えて山道を歩いていました。いったん登って、山を越えて、また降りるので大変です。でも、お弁当はあるし、お土産も貰ったし、ピクニックのつもりで楽しく歩いていました♪途中で雨が降ったので洞窟に入って雨宿りをしてたら、』
「え―と、ふろ―ら?」
「ええ、そうです。事実をお書きなさい♪」
「にゃう‥にゃんか先生に怒られにゃがら宿題させられてるみたい★」
ぶつぶつ言いながらも、フロレットがキマイラを殴り倒す所まで書き上げた。
『雨が止まないので、気絶してるキマイラと一緒に雨宿り続行☆ふろ―らが殺すのもお外に放り出すのも可哀想だとゆうので、あたしはキマイラのお腹を、棒でつついて遊んでました』
「おにゃかを見して寝てても全然可愛くにゃかったねきまいらって」
「わたくしも観察していて思ったのですが、お気の毒ながら合成の失敗作としか思えませんでした‥趣味の良くない造形ですね」
「それにゃのに見逃してあげたの?」
「命有る者には変わりありません。無意味に殺したり、雨のなか放り出したりする訳にも‥」
「そ―ゆうもんかにゃ」
「ええ、不当な行いであるように思えました」
「不当かぁ‥にゃるほど?
「そもそも一口に魔物と申しましても、何者かの指示を受けて悪事を行う者、或いは徒党を組んで悪事を為す者の他は、野性の生き物と然程変わらないのですから、無闇に敵とみなして、攻撃する事には賛同できません」
「やさしいにゃあ」
「そうではありません。わたくしは、あくまで、如何なる場合に於いても、正当に振る舞う者で有りたいだけなのです」
「でも野生動物にゃんつっても、あいつらだって、全部そうにゃ訳じゃにゃいよ?喋れる奴も居るし考える頭くらい、有るんじゃにゃいかにゃあ」
「でしたら尚の事です。生存本能の他は何もない動物よりは、知力も理力も備わっていると言う事になりませんか」
「おはにゃしすれば解るかもって事?」
「そうです♪そもそも人間の皆さんの方が、彼らの住む場所を破壊し、占領し、一方的に彼らを敵とみなして攻撃しているのですから、相応の報復を受けるのは、むしろ当然と言えるのではないでしょうか?」
「うわ問題発言★街の連中に聞かれたらまずいかもよ‥あいつらそれで暮らしをたててんだから」
「構わないでしょう?むしろ、日頃から御自分達が、魔物と呼んで侮蔑していらっしゃる者達よりも、知力、理力の双方に於いて優れていると言う事を、行いを以て示す良い機会ではありませんか♪」
「ふろ―ら本気でそう思ってんの?」
「勿論です」
「‥おまえやっぱし冗談はともかく、世間の事お勉強した方がい―よ‥」
「あら?何故でしょうか?
「にゃんてゆうかにゃ、大抵の奴は出世欲はあっても向上心はにゃいってゆうか‥ともかく、おまえがゆうよ―にゃ事、まともに聞く奴いにゃいと思う」
「いいえ、わたくしは、そうは思いません。貴女が仰る大抵の方々はその‥心弱き故に周りの方に気兼ねしていらっしゃるだけなのではないでしょうか」
「心のにゃかでは認めていると」
「そうです♪」
「でもその心が弱いから、やっぱしにゃんにも出来にゃくて、現状は変わんにゃいと」
「そう‥いえいえ違いますですから何方かが誠意を以て、その様な方々に、手を差し伸べるべきではないかと思うのです。人間であろうと、それ以外の種族であろうと」
「やっぱし優しいにゃあ、ふろ―ら。そんにゃ、弱虫に都合のいい事ゆってちゃだめだよ?おまえ美人だし、そうゆう奴らのオスにゃんか、みんにゃ群がってくるよ?こいつにゃら庇ってくれるわ―☆にゃんて。ちんこ揺らして」
ぱしぺしぴしぱしぺし‥
「に゛ゃあああ!ごめんにゃさい―!!」
隣の部屋では‥
「またセリアさん、怒られてます―」
「お下品な冗句でも言ったんじゃないかなっ♪」
「…日課ですね☆」
「きゅきゅきゅきゅ♪」
「ビリーさんも笑ってます―まったくも―」
そしてセリアとフロレットは‥
「いい加減になさい!な、何という事を仰るのですか貴女という子は!!」
「む―‥ま―おまえの腕力じゃ大抵のオスは撃退できると思うけどにゃ★」
「おやつもお預けに致しましょうか?」
「いいもん、冷蔵庫あさるから♪あ痛あ痛!!ぐりぐり禁止―!!」
「反省する素振りだけでも示そうとは思わないのですか?貴女は」
「にゃう―‥にゃんでこう一々、表現に制限が入るのかにゃ」
『雨が小降りになって来ました。いつまでも、雨宿りしてられないし、お外に出ようとしたら雷が落ちました‥そして洞窟の入り口が崩れました。でっかい岩に塞がれて、出られなくなって、どうしようとゆったら、ふろ―らがわたくしにお任せを♪とゆって小石を投げるみたいに、ぽいぽいやって、最後にでっかい岩をお外に押し出してしまいました。振り向いたらキマイラが起きてました。全部、最初から見てたらしくて』
「ふろ―らと目が合って自分で引っ繰り返ったんだよにゃ♪あれ、いじめにゃいでの気持ち?」
「降参いたしました、服従いたしますの気持ちです‥わたくしは、邪魔を為さらなければ、それで良かったのですが」
「向こうは多分そう思ってにゃいよ★よく見たらオスだったし、ふろ―らの弟分ってとこだよにゃ♪」
「‥セリアさん?」
「にゃう」
「何処を御覧になられたのですか、何処を」
「にゃうにゃう★」
「はあ‥もう結構です続きをお書きください‥」
『頂上はすぐでした。降りようとしたら、下の方に、真っ白な霧の固まりが幾つも見えました。ふろ―らに聞いたら、あれは雲です、と教えてくれました。さっきの雨雲と違って、真っ白で綺麗‥だけどお腹も空いてきました☆』
「水っぽくにゃっちゃったけどね♪」
「雲を抜けるまで我慢できなかったのですか」
「下まで降りちゃったらお弁当の意味にゃいでしょ?
「そうでしょうか?何処で戴いても、お弁当はお弁当だと思うのですが」
「違うんだよにゃ―☆そうじゃにゃいの」
『それで、ふろ―らはもう少し降りましょうとゆったけど、何とか説得して、あたし達はお弁当を食べ始めました。凄く美味しかった☆でも気が付くと、さっきの小さな雲の固まりが、いっぱいあたし達に近付いてきてました‥まあ雲なんてどうでもいいので、あたし達は食事を続けました。そしたら見る見る内に雲はあたし達に迫ってきてすっぽり包んでしまいました★一面真っ白。目の前のお弁当と、ふろ―らしか見えません?
「凄かったにゃ―」
「ですからもう少し降りてから戴きましょうと申し上げたでしょう?」
「お出かけする時持ってったお弁当は、お出かけ先で食べにゃいと。お家帰ってから食べたら意味にゃいでしょ♪」
「そういうものでしょうか‥宜しいですけど☆お弁当と言えば、あらあら?もうこんな時間ですね」
「にゃっ!?わぁ、こんにゃ時間!!もぉ、ふろ―ら!ついにゃがにゃが書いちゃったじゃにゃい★」
「申し訳ございません、つい指導のつもりで‥」
「いいっていいって、あと、ちゃっちゃと書いちゃうから♪でもおやつは食べるからにゃ」
『雲のなかでお食事。不思議な感じでした。細かい細かい霧を吹き付けられてる感じ。髪も服もお弁当も、じわじわっと濡れていきます‥だんだん味が薄まるので慌てて食べました。雲のなかは、ひんやりして、しっとりして、でも全然苦しくなくて。ふろ―らは何度も深呼吸してました。あたしも真似しました。凄く良い気分☆でも服と髪がとても濡れたので、風邪を引いたら大変なので片付けて降りる事にしました。降り始めたら、すぐに雲は晴れて、服も髪もだんだん乾き始めました。下を見たら、原っぱの真ん中、大きな樹の横に、虹が刺さっていました。普段見る奴より何だか格好よかったです♪』
「ふぃ―おしまい☆」
「御苦労様です、見事に書き上げましたね♪」
「やだにゃ、そんにゃ★?
「絵はどうなさいますか?
「気が向いたら描こっかにゃ―♪」
「所で他には、どの様な事をお書きになられたのでしょう?もし宜しければ、拝見したく思うのですが」
「に゛ゃう!?え、えっと、にひひひ★」
「まさか。セリアさん?」
「にゃう―‥お願い、もお勘弁して―!」
「フロレットさん―、もう許してあげましょうよ―」
「幾ら何でもちょっと可哀想かなっ★ね?」
「…そうですね」
森の中のお家は、今日も賑やかだ‥
☆おわり☆
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