【青くて小さなもの】



軟らかいゼリーの様な冷たいコンソメスープ。丸い、木の器のなかで、ぷるぷる揺れている?
「美味しいねっ☆どんなんかなって思ってたけどっ♪涼しくなるまで毎日これだといいな―っ」
「でしょ!?このぷるぷるはやっぱし、お料理に応用すべきだよにゃ♪」
「トマトも好い感じっ!う―っさいこ―☆」
「麺のお料理、面倒臭くて好きじゃにゃいけど、これだったらイイにゃ―。す―ぷにゃんて釜戸に乗して放っときゃい―んだし」
「お料理は繊細なのに作り方は雑なんだねっ♪でも私ちょくちょく覗いてアク取っといてあげたんだよっ☆?
「あれ、そ―にゃの?ありがと、りさ」
「お味見の、ついでだけどねっ♪えへへ」
木のフォークに、ヌードルをたっぷり絡ませて嬉しそうにぱくり。彼女はリシェル。エンジェル姉妹の3女。紅い髪の両脇を、細く三つ編みにしている。とにかく明るくて元気。セリアより背が低く身軽な所為もあるが話し方もぴょんぴょんと弾むような感じ。
「は―、やっぱ、お外で食べんのっていいにゃ♪」
「お天気だし森のなか涼しいしっ☆」
「もっと暑くにゃったら、沢のお水に足浸けよっかにゃあ。きゅ―ん、にゃんて?
「い―なぁっ♪考えただけで頭ん中が冷えそうっ」
さらさら流れる沢の傍の、芝生に座っている二人。森の中は、昼間も涼しい。木洩れ日が、あちこちに射している。
「ごちそうさま―!よしっ、お散歩いってこよ」
「こら―っ!器はっ?」
「そんにゃの後で拾うよ?
「だめっちゃんと片すのっはい☆」
「ちぇっりさも結構厳しいんだにゃ★」
「何言ってんのっセリア居なかったら私が怒られるからだよん♪」
「にゃるほど、そゆ事か★んじゃそこの小川で」
「ちゃっちゃとねっ☆はいこれも」
「はいにゃ‥って、おまえ!どさくさに自分の奴も渡すにゃっ」
「ばれたか、御免っ♪ちっ、もう少しだったのになっ」仲良く並んで木の器を洗うセリアとリシェル。
「おしまい☆今度こそ遊び行ってこよ」
「私どうしよっかなっ」
「一緒に来る?」
「え―?気が向いたらっ?
「にゃにそれ」
「てくてく歩くの苦手だもん。跳ねて歩いたら疲れちゃうしっ」
「にゃんで跳ねんの。普通に歩きにゃさいよ」
「苦手っ☆」
「ゆっくり飛ぶとか」
「疲れるっ★」
「も―知らにゃい行ってきま―す♪」
「行ってらっしゃ―いっ♪気が向いたら、追っ掛けるねっ☆」
「別に無理しにゃくていいよん★」
一人、てくてくと、丘へむかって歩きだすセリア。
あまり高くない木々が生い茂る丘。あちこちに、大きな岩がごろごろ。泉が湧いてたり、洞穴が開いてたり、狭いけど芝生があったり‥
「さ―てと、にゃにして遊ぼっかにゃ―♪」
辺りをきょろきょろ。この辺は、小動物も多くて、彼女にとっては退屈しない猟場である。
「お★あすこに、にゃんか居る」
岩の影に動くものを発見。そろそろと忍び寄る。
「にゃうっ☆」
「チュウ――!」
小さなねずみだ‥。セリアに摘まれて、ばたばた藻掻いている。
「にひひひ♪さて、ど―しよっかにゃ―★」
「ニ―‥」
その時、近くで、微かに声がした。
「あれ?おまえじゃにゃいよね、子ねずみたん」
「チュイ―!チュッ」
じたばたじたばた。
「だよにゃ♪じゃ誰だろ?
「ニ――‥」
声がした方を見回すと、葉っぱが茂った低い枝の下で青くて小さなものがうずくまっていた。
「ニャア」
セリアと目が合うと、それは小さく鳴いた。
「あれ?猫がいる。にゃんでこんにゃとこに」
地面に手を付いて覗き込んだ。その拍子に、子鼠を放してしまった。勿論、勢い良く逃げてゆく♪
「あっ、こら!!おい猫、捕まえて!!」
「ニャア‥」
「にゃんで避けんのっおまえ猫でしょ!?こらっ!!擦り寄ってど―するっ」
「グルグルグル‥♪」
「参ったにゃもぉ‥」
「あれぇそれ猫っ!?」
リシェルが飛んできた。手前に着地して弾むように跳んでくる。
「うん。そこの、枝の下に座ってた」
「へえ―っ☆あれ?何だろ。魔物の感じがするよっ」
「へ?ほんと?」
「ほんと。すっごく微かにだけどねっ♪」
「そいえば青い猫にゃんて見た事にゃい」
「ゴロゴロゴロ☆」
「言いながら撫でるしっ★でもいっか可愛いしっ」
「だよにゃ―☆その辺の狸かにゃんかの方が、強いと思う。気にしにゃい気にしにゃい♪」
「だよねっ☆だけど、ど―しよっか。まだちっちゃいけど野生の子だし放っとく方がいっかなっ」
「出来にゃいよ、そんにゃ事。お家に連れてく」
「え―!?い―のおっ」
「幸せの青い猫とかにゃんとか言えば♪」
「鳥でしょっ聞いた事ないよ猫はっ★ま―私は賛成だし皆も喜ぶと思うけど」
「けど、にゃあに?」
「きみ平気っ?猫ちゃん?
「ニャ―ン♪」
リシェルの手にも擦り寄る。
「平気平気☆連れてこ」
「みたいだねっ♪」
「子ねずみも捕まえらんにゃいよ―じゃ、おにゃか空いてんでしょ。おいで♪」然し。森の傍まで来ると、子猫はセリアの手を蹴って、飛び降りた。
「ニャ―ン」
「どしたの?おまえ」
「私が抱えよっか」
リシェルが抱えてもやっぱし同じ。森に入ろうとすると、暴れて逃げてしまう。
「そんにゃに森に入るの嫌にゃの?おまえ」
「ニャ―ア!ニャ―オ!」
「ねえ、セリアあ‥ドラゴンさんじゃないかなっ」
「どゆ事」
「気配とか匂いとか。ほら、動物って敏感だもんっ」
「あたし判んにゃい‥一斉に、おにゃらでも、しやがったかにゃあいつら」
「またそうゆう事をゆうっ何考えてんのっ★」
「お家連れてけにゃいんじゃ仕方にゃい。りさぁ、こいつど―しよ」
「取りあえずご飯あげないとだね‥抱えててセリアっ!私持って来るっ♪」
「ん―。ついでに、たおるかにゃんか持ってきて」
「何にするのっ?」
「あたし、こいつの、ねぐら探す。敷いてあげんの☆?
「良いかもっ分かったっ」リシェルは一直線に飛んでいった‥
「さて、おまえ。どっかその辺に、お家探すよ。穴ぽこ一杯あるし、お水湧いてるとこもあるし、隠れるとこ結構あるしにゃ♪」
「ニャ―ン♪」
「よしよし☆」
数分後‥リシェルが昼食のスープの残りと鍋の底に沈んでた肉を持って戻ってきた。
「じゃ―ん!!お待たせっ♪はい!猫ちゃん。きみにあげるっ☆」
青い子猫はふんふんと匂いを嗅いでいたが、すぐに器に顔を突っ込んで食べ始めた。
「ごろごろゆってご飯食べてて支えにゃいのかにゃ?
「猫の喉は特別なんだよったぶん♪」
「みんにゃにゆった?」
「あっ忘れてたっ★」
「今夜でい―かにゃ♪それより、こいつのお家」
「どこどこっ☆」
天然の芝が良い感じに入り込んだ岩の隙間。そこにタオルを置いた。
「あとはあいつが気に入るかど―かにゃんだけど」
「お食事中だよっ♪」
「まだ食ってんの?もぉ?
「ゴロゴロゴロゴロ‥☆」
「急かさないのっ。ほんと、嬉しそ―に食べるねっ☆?
「む―。にゃんだ、めすだったかこいつ」
「また。セリアさんっどこ見てんのあんたはっ★」
「どこって‥にひひ★」
「もうっ!猫の性別なんて、ど―でもいいでしょっ」
「よくにゃいよ。前に街で、でっかいおすの猫見つけてにゃ。毛皮に包まれた例の奴が可愛かったんで、指で押したら」
「押すな――っ☆」
「に゛ゃって振り向いて、又のしのし歩いてった♪」
「ほんっとしょ―がない事ばっかしてるねっ★この子雄だったら何してたのっ?
「そりゃもぉ、陽が暮れるまで両手の親指でくりくりして居りましたとさ、めでたし♪てにゃ訳で」
「とさ、めでたし♪じゃないのっ!やっぱフロレットさんに言い付けてやろっと☆」
「待って待ってふろ―らにだけは言わにゃいで★」
「たぶん30分位、お説教されるよっ☆」
「にゃう―」
「あっ。そいえば、猫ちゃんはっ?」
子猫はタオルに頭だけ乗せて丸くなって寝ていた‥
次の日。セリアとリシェルが丘に登っていくと、子猫が遠くから走ってきた。
「ニャ―オ!!ニャン、ニャウ♪」
「元気してたっ!?お魚持ってきたよん☆」
「そんにゃ遠くから走ってこにゃくてい―のに♪」
「ゴロゴロゴロゴロゴロ‥」
「結局ゆうべ、言えにゃかったね。こいつの事」
「ん―‥私ねっ?言わない方がいいんじゃないかなって思うんだ」
「にゃんで」
「絶対みんな入れ代わり立ち代わりしてこの子に何か持ってくると思う。この子、そしたらでぶになっちゃうもん」
「にゃるほど‥それはいけにゃいでぶは良くにゃい★あたし達の秘密にしよ♪?
「その内ばれると思うけどねっ♪」
「そん時はそん時☆さてとにゃにして遊ぼかにゃ―?
「猫じゃらし、持ってきたよん☆」
「おお―!にゃいす!!でもにゃんでそんにゃの持ってんの」
「いやほらっうちにも、でっかい猫が居るから‥もしかしたらって思って買っといたのっ♪」
「‥もしかしにゃいよ★おまえ、あたしの事、そんにゃ目で見てたの」
「いいじゃん別にっ☆そ言えばセリア、毛の色もこの子と似てるねっ♪」
「髪と毛皮と一緒にすんにゃ―!にゃんか不愉快★?
「気にしないのっ♪ほら猫ちゃん遊んだげるよん」
ぱたぱたぱた‥
「ニャウ―ッ!ワウ、ワウ」
「おっけぃ!ノリのいい子大好きっ☆」
「‥‥‥‥」
「こらっそこのおっきい方の猫ちゃんっ!なに目きらきらさして見てんのっ」
「にゃう♪ついにゃ」
気が済むまで遊んで、気が済むまで食べたら、気が済むまでお昼寝‥♪
「どっちみちこの先お家に連れてかにゃいと、まずい気がする」
「いつまでここに置いとけないもんねっ」
「あたし感じにゃいけど、どらごんかぁ」
「無理に連れてったらストレス溜まるかもだねっ★」
「あいつらここに呼んでこよっか」
「何するのっ?」
「こいつ囲んで輪ににゃって踊って貰うとか♪靴がにゃるとか歌いにゃがら」
「ばかっストレスどころかトラウマになるってっ!もぉ」
「だめかにゃあ‥」
子猫は体をのばして、スヤスヤ眠っている。
その日の夕方‥
「あ痛っ!!」
「わありさっ!顔っ!」
「いたたた‥大丈夫、顎の近くちょっぴしだしっ♪?
「ニャ―ア!ニャ―ウ‥」
「はいはい、気にしなくていいよん☆やっぱ無理矢理は駄目かぁ」
「ひゅう。ぱにっく起こすと思った」
「何よおっ♪こんな傷位で見れなくなる位、私って不細工っ?」
「いやそ―じゃにゃくて?
「でも困ったなっこの傷でばれちゃうだろおし‥」
「ん―丁度いっかみんにゃで相談しよ♪」
「だよねっ☆」
「ニャン?」
「きみは心配しないでっ♪何とか考えるからっ」
そして次の日。丘の中腹。
「セリアあ?何そこで座ってんの?膝抱えて」
「‥あいつがいにゃい」
「トイレじゃないのっ♪」
「一時間もかかるわけにゃいでしょ」
「いいじゃん別にっ☆ご飯置いて又こようよっ」
「にゃう‥」
然し夕方に行っても子猫は居なかった。
「ねぇりさぁ、おまえの感覚で探してくれにゃい??
「え―っ小動物の気配なら一杯するけどっ?」
「え!どこどこっ」
「こらっ猫ちゃんでしょ?
「にゃう★」
「え―っとお‥判んないなあ。その辺探してみよっ」二人で丘を廻る事にした?
「ふろ―らにゆわれたね‥利害抜きの情を持ってんのあたし達の他は人間だけだって」
「同じ動物でも家畜と野生のは全然別かあ‥う―ん?
「家畜って。ぺっとだよ?
「だよねっ☆でもね」
「にゃう‥陽が暮れてきたよお」
「そんな顔しないのっ♪そんな遠く行ってないって」その時、少し下の茂みの中で猫の鳴き声がした。
「あっ!!」
「待って!2匹いるっ」
「へ?」
茂みの中で段々高くなる2匹分の鳴き声‥
「りさぁ。つまりこれは?
「えっとぉ。にゃうっ★?
「にゃうじゃにゃいっ!?
「ちゃんちゃん♪」
「ちゃんちゃんじゃにゃいっ!」
「何よおっ私に怒ってど―すんのっ」
「怒ってにゃい―!!」
「ふぅ邪魔しちゃ悪いねっ帰ろうよっ」
「にゃ―う‥」
夕焼け。てくてく歩く二人?
「ぺっとと野生かぁ‥」
「でもさぁっ今度は子供連れてくるかもっ♪」
「そ―かにゃ―?」
「かもっ☆そしたら又優しくしたげよ―ねっ♪」
「待てよ‥?ちっこい内に一匹さらってお家ににゃらしてやれば」
「こら―っ!!又そう言う事考えるっ★」
「い―と思わにゃい?」
「‥もしまた会っても、セリアには黙ってよっと♪」
「にゃんで!?」
青くて小さな猫。戻ってくるだろうか。ご飯の器と寝床のタオルは、しばらくそのまま置いておく事にした。

☆おわり☆

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