【『人魚と猫ちゃん』】
『とある街の近くの、とある森の中の、とある素敵なお家に、それはそれは大変に美しい人魚の娘が住んでいました。彼女は、普通の人魚と違って、不思議な宝石の力で空中を泳ぐように歩く事が出来ます。例えてみれば、大きなしゃぼん玉に、包まれているような感じです。これなら、意地悪な魔女に頼み事をする必要も無いです。だって要らないもん、不便そうな脚なんて♪
その美しさの前ではお花も色褪せ、その歌声の前では魔物も微笑む。そんな彼女ですが、街ゆく男性達が、彼女に見とれて川に落ちたり柱にぶつかったり、どぶにハマったりする事を悲しく思い、普段は森のお家で、ひっそりと暮らしていました‥人魚は猫を飼っていました。とても珍しい、青い毛の猫です。性格は、お下品でお下劣で暴れん坊で食いしん坊。普通の人なら、ためらわずに保健所に連れてく所ですが、とてもとても心が優しい人魚は、そんな事しません。噛まれても、爪をたてても蹴られても、おやつを食べられたりしてもじっと我慢して、大事に大事に、育てていました‥
ある日、人魚と猫ちゃんは、森の散歩へ出かけました。いつもながら猫ちゃんは、蝶々とか小鳥とかねずみを見かける度、にゃんにゃん駈け出してどこでも走っていきます。人魚の心配なんかお構いなしです‥今日も遠くの方に小さなねずみを見つけて、にゃんにゃん駈けて行きました。
「待ってそっちは危ないわ大きなお池があるの」
耳も貸さない猫ちゃん‥
にゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんどぼん。やっぱり★お池に気付かずまっしぐら、そのまま落ちてしまいました。ぶくぶくぶく。泡がたって、大きな波紋が広がっています。普通の人なら、指をぱちんとやってそのまま帰る所ですが、優しい人魚は勿論そんな事しません。
「待ってて猫ちゃん今助けに行くわ!!」
元々泳ぎは大得意♪勇ましく人魚がお池に飛び込もうとしたその時‥水面が大きく持ち上がって眩しい光が射しました!!
きらきら光る泡と一緒に現れたのは、人魚ほどではありませんが、とても美しいお池の精霊さんです。彼女は静かな声で言いました?
「ご機嫌よう人魚の娘さん‥貴方が今落としたのは、この乱暴そうな青い猫ですか?それともこの、金の猫ですか?銀の猫ですか」
「今日は精霊さん♪わたしが落とした訳じゃないけど落ちたのは青い猫です」
「まあ‥何と正直な方なのでしょう!!この世の全ての人々が貴方のようであったならと強く思います‥ご褒美に金の猫も銀の猫も全部差し上げましょう」
「えっ?いえ、それじゃ何か申し訳ないです‥」
「良いのですよ持ってお帰りなさい☆と言うより早くこの青い猫を連れていって下さい。あっという間に池の魚を五匹も食べてしまったのです‥★」
人魚が猫ちゃんと金と銀の猫を受け取ると、精霊さんは、ほっとしたように、またお池に沈んでいきました?
「ああ良かった無事だったのね♪」
人魚は猫ちゃんを抱き締めました。
「にゃうっ★」
でも猫ちゃんは有難うとも言わずに人魚の鼻の頭を噛みました‥
こうして人魚が貰った金と銀の猫は、とても重いし動かないので街の宝飾屋さんに売りました。そのお金で、人魚は猫ちゃんの為に赤くて可愛い紐付きの首輪を買って、猫ちゃんに着けて、引きずって帰りましたとさ♪まだまだまだまだいっぱい残ってます。きゃ―!ど―しよ―☆なに買おっかな、あれとあれと、え―とぉ、』
「う―ん‥最後にこんな風にしたら締まんないかなぁでもやっぱしハッピーエンドって、こんな感じだよ、ね?」机に付いて難しい顔‥長いスカートから覗いた尾ひれをぱたぱた。彼女はマーメイドのリモン‥性格は至って普通のお洒落が好きな娘さん。歌は好きだが、何か童話のようなお話を書く事にも興味があるようだ。
「まぁいっかぁ☆めでたしめでたしっと♪」
淡い金色の長い髪をかきあげる‥
「どしたの、りもん。にゃに書いてんの」
「わあっ猫ちゃんちょっとたんま!!入って来ちゃだめあっち行ってて!!」
「にゃにそれ。あたしが読んだらまずい事でも書いてんの?どれ★」
てててっと走り寄る。
「‥‥‥‥」
「どぉ?気に入ったかな??
「おまえ‥い―度胸してるにゃ‥♪」
「言っとくよ、猫ちゃん。文章には文章で。あなたも、何か書いてごらんなさいな♪じゃわたしはこれで☆」
「ちと待てあほ人魚―!!?
「あ痛あ痛!暴力反対―!」どたばたどたばたどたば‥数十分後。大きな袋に山盛りの、細長い鞘に入った豆。小豆に似たその豆は煮込むと美味しい、のだ、が‥
ぷちぷちぷち。膨れっ面で鞘をむしって豆を出してるセリアとリモン。小さな丸テーブルに向かい合って座り、少しずつ掴み出しては一生懸命むしっている。
「お―仕置―きお―仕置―きた―のし―いな―★」
「楽しくにゃい!!にゃんであたしまでおまえと一緒にお説教食らってこんにゃ?
「うるさいなぁ黙って働きなさいよ。あなたが一言、素敵なお話ね☆って素直に誉めてれば、わたしまで怒られて、こんな事しないで済んでんだからね」
「すにゃおに腹が立ったから蹴り入れたのっ!!」
「それよ、全く。文章には文章でって言ったでしょ?暴力で表現を抑制しようなんて、野蛮人の考えだよ」
「にゃんでこんにゃに口が減らにゃいんだろこいつ‥ふろ―ら厳しすぎ。元々の被害者はあたしにゃのに?
「フロレットさんが相手じゃ弁解の余地なし☆良かったじゃない、お豆むしる位のお仕置きで済んで。わたしが一緒だったからかな―♪?
「ふざけんにゃ―!あたしには面倒臭い、にゃい職でしかにゃい―!つ―か、袋ごと足で踏んだ方が早くにゃい?このにゃい職」
「真面目にやろぅよ、また怒られるよ‥」
「とほほほ‥にゃんであたしがこんにゃ目に」
「元気だしなよ、そおだ。何か歌ったげる♪」
「おんにゃの歌は要らん?
「そう言わずに☆ん―題名はぁ、お仕置き猫ちゃん?
「おいっ!」
「にゃんにゃんにゃん♪
にゃんにゃんにゃん♪
にゃんにゃうにゃう♪にゃあ痛―っ!!靴で尾ひれ踏む事ないでしょっ!」
「ゆう事きかにゃい動物は鞭でぶつ★に゛ゃっ!ひれで蹴ったにゃっ!?」
「お返しよ★人を動物呼ばわりしないでって前に言わなかったっけ」
「聞―た覚えにゃい、ふん。でもま、誰だって例えて見れば、にゃんかの動物に似てると思うけどにゃ♪」
「かもね、あははは☆でもそれじゃ一番、他の色んな動物に似てる生き物って人間じゃない?」
「人によっては絶対禁句だけどにゃ★かばとか」
「ばかっ言っちゃ駄目なんでしょっ★じゃあさぁ一番美しい生き物‥じゃない存在は誰だと思う?」
「それこそ言いっこにゃしでしょ?誰だって、みんにゃ自分達が一番って思ってると思うよ」
「そっかぁ‥そうよね♪?
「ごめんね、りもん‥☆?
「こら―っ!!なんでそこで謝る訳っ!?」
「にひひ♪おまえの事だから絶対こうゆうと思って、先手打ったの」
「くっそぉやられた‥★」ぷちぷちぷち。袋の豆は、なかなか減らない。
「そうだろう。許せ、醜い者達よ‥にゃんちゃって♪?
「なんちゃってじゃないよもぉ。擬人化ってゆうの?何でも自分達を基準に考えるのって人間の悪い癖よね?
「自分の事は置いといて他人を思いやる心が少にゃいんじゃにゃいの」
「うわ猫ちゃんらしからぬお言葉☆」
「にゃによ、もう。あたしだってこの位、知ってるよ?
「人魚姫ならわたしも読んだよ。何でわざわざ、人間の需要に合わせて脚なんか‥あ―、やらしい。合わせてなんか、あげないよ―だ♪?
「結局どれもこれもそこに行き着くんだよにゃ★猫の扱いはそ―でもにゃいみたいだけど」
「そぉかなあ?猫耳娘の使い道なんて萌えの他に何かある?‥あ」
「にゃう★」
「解ったよ怒んないでよ♪長靴の子とかあるしね」
「どれも人間を助ける役ってのが気に入らにゃいけど‥ま―いっか♪おはにゃし書いてんのが人間だったら人間の都合に合わせんのも当たり前だよにゃ」
「わたしが書くなら、当然わたしの都合に☆もう怒っちゃ駄目だよ猫ちゃん♪?
「どさくさ紛れに正当化しやがる気だにゃ‥」
「何よぉ、人聞きの悪い?
「じゃあ聞くけど、あのおはにゃしの何処にあたしへの思いやりがあった?」
「思いやり?ええとぉ‥?
「ほらやっぱし!」
「あぁほら首輪買ってあげたじゃない☆」
「いい加減しにゃいと今度は噛むよ★」
「わ―ん。何かわたし苛められてる―?」
袋の豆は、まだ半分も減らない。そろそろ二人共、うんざりしてきたようだ‥
「やっぱし踏んだり座ったりして袋の上からばらばらにしよ―よ‥も―いや」
「ふぅ‥そぉよね♪もう時間的にも、お仕置き分は終了って思っていぃよね」
「はい決定―☆全部むいて見せればふろ―らも許してくれるよ♪あたし靴脱ご?
「わたしはちょっとスカートをこう‥♪」
「おまえ元々そんにゃの要らにゃいでしょ」
「そぉね‥ワンピースの方が好きかなぁ☆」
「いやそ―じゃにゃくて★ま―いっか」
ばりばりばり。セリアとリモンに踏まれたり座られたりして袋はだいぶ平たくなった?
「ふい―やっと袋が小さくにゃった☆」
「嬉しそう。本当、猫ちゃんってこういう破壊活動とか好きよね♪」
「破壊はにゃいでしょ破壊は。後は、憎たらしい豆を選り分けるだけ―♪ふふん?
「おわったら指先のお手入れしないとね☆ふふん♪?
「今日のおやつはにゃんだろ」
「チーズ系の物だといぃな?
「ち―ずは好きだにゃ☆?
「どんなのが好き?」
「焼き上げたやつ♪」
「え―!?冷たいのの方が美味しいよぉ」
「にゃにその信じらんにゃいって顔は★あんまし甘くされたら困るの」
「あぁ苦手なんだっけ♪じゃあ、猫ちゃんの分はタバスコかけてあげるね☆」
「じゃあ、じゃにゃい!それじゃおまえのやつには刺身乗してやる♪」
「お願いそんな事しないでね☆でも苦労した後に素敵な事があったら、やっぱり違うよね―♪」
「そりゃあった方がいいに決まってんじゃにゃい☆だけど激甘くり―む系だったら‥やばい、想像した★?
「いや―★みたいな感じに頭振らないの。ちゃんと食べなさいよ文句いわずに?
「にゃうう‥気持ち悪。そおだ、あのおはにゃし、まだ終わってにゃいよね?」
「あぁそぉだったっけ♪そぉよね、お話だって苦労の後には、何か良い事なくちゃあね☆」
「おまえにゃんにも苦労してにゃいでしょ、あのおはにゃしじゃ‥」
「あれそぉだっけ?あはは、気にしない気にしない☆?
「にゃんかも―いいや★続き書いてね、ちゃんと修正して。後で読むからにゃ??
「え―?わたしだけ宿題―?猫ちゃんは?」
「知るかっ★おまえが自分の意志で書いたんでしょ元々。ちゃんと責任とんにゃさい♪」
「ずるい―何か不公平―」ちなみにその日のおやつは紅茶のケーキと、林檎の砂糖煮だった‥♪
その夜。机に向かい、頬杖をついて、考え込むリモン。
「困ったなぁ、えぇと‥」『たくさんのお金を前に人魚は考えました。自分は、今のままで充分幸せ♪今日の事も、元々は猫ちゃんが、お池に落っこちたからの事。それなのに独り占めするのは、やっぱし良くない事なんじゃないかな?と。だけどどうしたらいいでしょう‥街にも、今日、人魚が出会ったような幸運を夢見てる人はいっぱい居ます。そのような人達みんなに配るには少なすぎます‥と言って何か物をたくさん買ってもすぐ無くなってしまいます?
「ねぇ猫ちゃんどうすれば良いと思う?」
「にゃ―う♪」
猫ちゃんは知らん顔して、お耳の後ろを脚で掻いています。
「困ったわ‥どぅしよう」テーブルの上には、今日のおやつの、林檎のタルトが乗っています☆
「そうだわ!!」
しばらくして森の外側の道沿いに森のお友達と一緒に小さな林檎の木を植える人魚の姿がありました‥
何本も何本も何本も何本も何本も何本も何本も‥♪
こうしておけば何年かすれば、きっと全部の樹に、林檎が鈴なりになるでしょう。そしてそれは、誰でも、好きなだけ持っていっていいのです。これならきっと、数えきれない程の人に喜んでもらえます!人魚は満足してお家に帰りました☆そして椅子に座ると、細長いお豆の鞘を、ぷちぷち剥き始めました。猫ちゃんは、床に転がってお昼寝。ぽこん。お豆が一粒猫ちゃんのお腹に落ちました。ぴくん。でも猫ちゃんはそのまますやすや眠り続けました。おしまい?
「えへへ♪猫ちゃん今度はなんて言うかなぁ」
すっかり真夜中。窓の外、夜空では星がきらきら輝いている。
「ふあぁ‥ん、今日もよく頑張った!寝よっと☆」
確かに先の物よりは良いが然し‥お休み、良い夢を♪
☆おわり☆
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