【黒猫ぽすと】

―長い帰り道の巻―

丘の中腹に空いた、洞窟の出口。数ヶ所にあるそれは、洞窟をねぐら&鍛練所にしているドラゴン達が、通気孔程度だったものを岩を壊して広げたものだ。

「どうしても行くか‥」
「うん、‥みんなのために、僕にも何かできるかも」
その出口の一つで、ちび竜と黒竜が話している。セリアとフローレットも一緒だ。
「ならば止めぬ。貴様も、もはや立派な漢。向上心ならぬ功名心に駆られた愚かな冒険者共から、弱き者を守ってやるがいい」
「うん、ありがとう!あなた達の事、絶対忘れない!」
「まあ並の魔物や人間などもはや貴様の敵ではないと思うが‥ただ打ち倒すのではなく、訓戒を与えるのを忘れるなよ?」
「わかってるっ♪‥あの、もしどうしても、だめみたいな時は、どうしよう‥」
「おいおい。漢がそんな弱音を吐くな。
だが‥万一の時は、私の名を出すといい。
貴様に害なす者は、私に害なす事になると言え。
私の名はハダス。黒竜のハダスだ」
「あ、ありがとう!きっと知ってる奴は震え上がるね」
「一応教えておこう。金竜はアルギム。赤竜はテーナ。青竜はザイト。緑竜はエシェルだ」
「お、覚えられるかなあ‥。ハダスさんは忘れないっ!!」
「フッ★では、達者でな!」

ドラゴンカブは飛び立った。振り向かずに真っすぐ‥
「ひゅう。横で聞ーーてて、肩凝ったにゃあ」
「男性同士の会話には、やっぱり入りづらいですね」
「ハハハハ、ばか猫はともかく、フローレア殿は立派な漢ではないか♪」
「えっ!わ、わたくし、漢なのですか!?」
「漢に男女の区別はない」
「こら黒すけ。にゃんでフローラは殿付けで、あたしはばか猫にゃわけ!?」
「ふん、己の胸に聞くがよいわ、たわけ。ではフローレア殿、失礼する」ハダスは洞窟に入っていった
「むっかつくーー。大体、ちび竜連れてきたのあたしにゃのに!捕まえたのは、ににこだけど」
「もう良いではありませんか。あの子の無事と、幸運を祈りましょう♪」
「街の近くうろつくよりはまだ安全だにゃ。まーー、困ったらまた来るかにゃ」
「いつでも歓迎いたしましょう☆来るといいですね」
「ふむ、仕事おわり。又にゃんか来てにゃいかにゃー?」
「元々どういった内容の依頼だったのですか」
「時々飛び回ってたあいつを、退治してほしいって」
「退治ですか‥人間とは、大部分の方は、そのようにしか考えないのですか?」
「みたいだにゃ、残念にゃがら。まあ例外もいるし、悲観し過ぎる事にゃいよ☆」
「そう、ですね‥身近にもいらっしゃいますし♪」
「(あいつはその又例外‥)さあて、お手紙来てるかにゃっ、と」

漸く完成した新居。白い煙突から、さっそく煙がたなびいている。
赤い屋根が、常緑樹の緑と落葉樹の落ち葉とに映えて、とても綺麗だ。

「ただいまーー。ちび竜は、見事巣立っていったにゃ♪」
「そうですかーー‥ちょっと淋しいですーー」
「しょうがにゃい、漢に巣立ちは付き物だにゃ☆それよりビリーいにゃい?」
「きゅいーー?」
「おう、そこにいたか。お手紙来てにゃいかにゃ」
「きゅーーーーい☆」
「こら擦り寄るにゃ、そうじゃにゃくて!お手紙!」
「‥いつのまにか、なついていますね♪」
「意地悪しなくなったもんねっ☆大事な配達員だし」
「むーー。この様子じゃ来てにゃいか。街行こっと」
「昼食が済んでからになさい。今日はピザですよ♪」
「リモンさんが、炎に挑戦してるんですーー。調理がそのまま修業なんて、かっこいいですねーー☆」
「んじゃ、あたしは街に」
「こら、逃げちゃだめっ!結構いいセンしてるんだよっ」
「人魚定食にゃんて信用できんーー!」
「‥ピザです♪それに貴女よりも、飲み込みが早いような気もします」
「う。冷静にゆうにゃニャンシー‥解った、待つにゃ」

さて、小一時間後。彼女は街の大通りを突っ切り、教会を目指していた。
(ったく、あほぷにこ。ピザ位で自慢しやがって‥うるさいから、美味しい☆って、キスしてやったら驚いてやんの♪けっ)
‥教会裏のぽすとには、何も入っていなかった。

「ちぇーー、にゃんにもにゃしかーー。んーー?にゃんだろこれ。変にゃ野菜」
草むらに、かなり大きな変わった野菜が生えている。
「しにゃびてる。引っ張ってみるかにゃ♪」
好奇心旺盛な彼女。
「よいしょっ、と、げっ!!おまえ、えうれか!?」
「キーーー‥」
「こら、あたしの手、掴むにゃ。お水ほしいの?」
鞄から水筒を出し、飲ませてやった。
「おう、みるみる戻る。丈夫だにゃ、おまえ。んじゃあたしはこれでって、いーー加減はにゃすにゃっ」
エウレカの手を払い、歩きだす。背後でか細い声がする。
「(たぶん、ちび竜と似たような立場なんだろうな・・・)わかった、そんにゃ目で見るにゃ。手ぇつにゃご」
「‥‥‥‥♪」
「(こいつ弱いし、叫ぶだけだし、そんな恐がられたりしないよね?)どっか静かで目立たにゃくて、ちかくにお水があるとこ探そ☆」
「‥‥‥‥☆」
「(流石に表通りは歩けないなあ)おまえ、ちゃんと歩ける?喉乾いたらゆうにゃ。ちょっとお水汲んどこ」
井戸の水を汲み上げる。
「‥‥‥‥!!♪☆」
走り寄ってきて水を頭からかぶる。水飛沫が散る。
「にゃっ、冷た!そんにゃに乾いてたの?」
「‥‥‥‥♪」
「あいた、もちっとゆるく掴むにゃ‥ほれ行くにゃ」

再び歩きだす。然し裏通りも結構人通りは多い‥
「お嬢ちゃん変わったやつ連れてんねーー」
「んーーまあちょっと♪」
「そんな弱いの役に立たんでしょ。敵の群れに放り込んで叫ばせるとか?」
「いやまーーちょっと‥」
「‥‥‥‥」
「ま、怒んにゃって♪(あれ花屋じゃないかな?)こっち曲がるにゃ」
「‥‥‥‥?」

やはり花屋だった。農家から仕入れる他に、自宅でも多少栽培しているようだ。
(ここなら目立たないかな)
「ちょっと、ちょっと!エウレカなんかどうする気!?」
「いやそのーー、お庭の隅っこにーーにゃんて☆駄目?」
「困るよーーそんなの裏庭に生えてたら評判落ちちゃうよぉ。よそ連れてって!」
「にゃあ‥はーーい」

又歩く。しばらく行くと、干物の匂いがしてきた。
「あれーーお嬢ちゃん、エウレカ何てどうすんの」
「どーーするってゆうか、安住の場所を探し‥」
「引き取ってあげよーーか?乾燥させたら道具になるよ使い捨てだけど、ははは!」
「いや‥失礼するにゃっ」
「‥‥‥‥†」
「まーー親切で言ったんだろにゃあ、そんにゃ顔すんにゃ。にしてもおまえ、ひどい扱いだにゃあ」
「キーーーーーイ・・・」
「喋れにゃいの?まーー言葉解るだけでも上等にゃ☆少し休も。お水は?」
道端の石に腰掛ける。
「木の実のクッキー食べる?」
「♪☆」
「(いつか、サラダにしかけた事あったっけ。あいつに止められたけど)美味しい?遠慮しにゃいでいーーよ♪」
もう陽が傾いている。最近、日没も早まってきた。人間はともかく、魔物は冬場はどうしているのだろう?
「もっと食べる?はい」
「♪☆」
「ちょっとあなた・・魔物に餌付けなんてしないでよ」
「いや餌じゃにゃくてー、」
「いくら弱くても、その辺居ついて、子供やなんかに、被害が出たりしたら」
「‥だってさ。行こっか」
「どこか遠く連れてってよ人が居ない所に。ちょっと、聞いてるのー!?」

二人は黙って歩いた。知らない道に入って少し迷ったが、街外れの墓地の近く迄来た‥もう夕暮れ。
「お母さーーん、あれ魔物?」
「こら、指差さないの」
(ったく、こいつら・・・)
「何だそいつは。もっと強い奴仕入れた方がいいぞ」
(余計なお世話っ)
「ねえねえ、お姉ちゃん。エウレカって実がなるの!?」
「(それはあたしも知りたいな‥どうなんだろ)さーー、どーーにゃんだろね?おまえ、実がにゃるの?」
「‥‥‥‥☆」
「みたいだにゃ♪あたしも見た事にゃいけど」
「へえーー、面白ーーい♪」‥墓地のぽすとに手紙が一つ。最近出没する、盗賊退治に協力してほしい、と言う内容だった。
「ほーー、捕り物ですにゃ♪誰と行こうかにゃあーー」
「‥‥??」
「そだ、おまえだ。ラセンはーー、おうちかにゃ?‥こっそりここに植えていったら、怒るかにゃあ‥黒犬が、掘り返すかも知れにゃいし。壁の外行くかにゃ」

すっかり陽が暮れた。地平線がわずかに紅い。
「疲れたーー。おまえも疲れた?はい、お水あげるにゃ」
水を飲むエウレカを見て、軽くため息。
「(このままこいつ、その辺捨てていったりしたら、多分死ぬまでか細い声で泣き続けるんだろーーな‥もうすぐ冬だし)にゃあ、おまえ。一緒にくる?」
「キィーーーイ?」
「おまえも見たとおり、誰も彼もあんにゃ感じ。でも、あたし達と一緒にゃら、少にゃくとも、安全だけは保障するにゃ。来る?」
「♪☆!!」
「だーーから痛いって、そんにゃに掴むにゃっ!じゃあ一緒に帰るにゃ☆」

エウレカの手を引いて、家路に着く。ぽすとを覗いてすぐ帰るつもりが、長い散歩になってしまった‥
「(ふう、でもどうするかなあ‥お水の心配はないけど地面にーー、んーー、)
とりあえず、みんにゃに逢わして相談にゃ。ちゃんと愛想よくするにゃ、わかった?」
「♪☆」
「心配にゃいか♪ほら見えてきた、あのお家にゃん」

窓の明かりが辺りを照らしている。フローレットが心配して出てきていた。
「セリアさん・・こんなに暗くなるまで何を・・?あら、その子は何方ですか」
「待ってフローラ、説明する。お家入るにゃ」

エウレカの手を引き、フローレットの背を押して、家に入る。
これでまた、家族が増えた。さてさて、どうなる事やら‥

☆終わり☆


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