【黒猫ぽすと】
―光るじゅうたんの巻―
白昼堂々、それは現われた。
泥棒は夜、と言うのも今は、昔の話。
家人が働きに出かけ、何やかやと用事が絶えない昼間にこそ、盗みを働く者が多いのが現状だ‥。
「でもま、あたし達に会ったのが奴らの不運だったって訳だにゃーー♪」
「この場合運の尽き、って言わない?」
「いいじゃない、どっちでも。面白かったしっ☆」
「みんにゃにずるいって言われたーー。でも手加減できるの、あたし達だけだからにゃーー‥」
「食らったらおしまい☆て人ばっかりだもんね」
「泥棒は2割増で返却っ♪死刑はやりすぎかも」
「強制労働で還すの?その間に死んだら?」
「そりゃ自業自得だよ、本人が悪いっ♪」
数日前、墓地のぽすとに盗賊退治の依頼が入っていた‥この所、この界隈を、可成騒がせていたらしい。然し、こんな彼女達に、名のあるにせよ無いにせよ、一介の盗賊風情がかなう筈もなく‥然したる抵抗もないまま全員纏めて一蹴りされた。
シャーズとアークエンジェルとマーメイド綺麗所に油断していたのかも知れないが。
「ねえ、どうして賞金、断っちゃったのぉ?」
「えーー、だって要らにゃいでしょ?誰かさんが、服かってーーとか言わにゃきゃ☆」
「何よぉ、もぉ・・・」
「そーーそーー♪だけど街の人達がすごくいっぱいお土産くれたねっ」
「ちょっと重いにゃ‥銀貨100枚のほうが、よかったかにゃあ。早く帰ろ?」
「ほぉら。ま、いいけど☆」
‥という訳で、三人は家路を急いでいた。ところで盗賊達はというと‥
「に、二度と来ねえぞ、こんな街‥」
「あんなのが人間に交ざって堂々と街歩いてるなんて‥じょ、冗談じゃねえっ!」
ちゃんちゃん。
さて、お家のある小さな森。周りの麦畑も、金色に色付いている。敷き詰められた絨毯のよう、風が吹く度いい匂いがする
「誰か走ってこない?」
「えっ?あっ、タマルちゃん!」
「たまこか。もーー一人で出てきちゃ駄目って言ったはずにゃのにーー」
「いいじゃない、近いとこなら♪」
「お姉ちゃーーーーん☆」
「ただいま、たまこ。いーー子にしてた?」
「うん♪泥棒捕まえた?」
「ばっちりにゃん☆街の人にお土産貰ったよ」
「れもんとリサもお帰りーー」
「ただいまっ♪」
「(レモンって‥まあいっか)タマル、後で遊びにいこっか」
「いーーよーー♪お姉ちゃんと一緒なら」
リシェルがそっと耳打ちする。
(セリアに一番なついてるんだからしょうがないって☆)
(エウレカん時の記憶がそのまま残ってるみたいね‥んーーでも何か気に入らないーー!)
そしてお家の中。まだそれ程寒くはないが、暖炉に少しばかり、薪がくべられている。
「お帰りなさい、セリアさん。楽しかったですか」
「もーー、フローラまでそんにゃ事ゆうーー。剣と爆弾と爆発じゃ、逮捕できにゃいで死んじゃうでしょーー!」
「ふふふふ、冗談ですよ♪お疲れさまでしたね」
「サンドウイッチつくりましたーー皆さんどうぞーー☆それからタマルさんーー、黙って外でちゃ駄目ですよーー」
「お姉ちゃん帰ってきたってわかったの‥」
「‥敏感ですね♪でもそのような時は、私達の誰でもいいですから、呼んでください。分かりましたか?」
「うん、わかった!」
「‥それから。また手紙が来ています。忙しくなってきましたね☆」
「おっけーーまだ昼だしにゃ‥どんにゃ用事だろ」
駆け出しの冒険者からだった。依頼で或る場所に向かう途中、魔物と遭遇。戦いの最中に、ペンダントを河に落としてしまったらしい。
「お水といえば、ぷにこしか居にゃい。きてくれるよにゃーー?」
「何よそれ。ま、わたししかいないんじゃ仕方ないか」
「嫌にゃらいーーけど☆」
「解った解った行くよぉ」
「‥河ですかあ‥私も行きたいですね」
「それじゃニャンシー、決定」
「タマルも行くーー」
「おまえはお留守ば・・あーーわかった、捜し物だけだし、一緒行くにゃん♪」
「うふふーー☆」
セリアに擦り寄るタマル。こうして四人で出かける事に・・・。
河辺には一面にすすきが茂っていた。向こうの方に、葦やがまの群落も見える。
「ここ探すのぉ!?」
「しょうがにゃい、手分けして探すにゃあ‥深いとこぷにこ、浅いとこは、あたしとたまこ。ニャンシーは河のうえつーーって飛んで探して♪」
「‥明るい内が勝負ですね金属なんて、それの他にはないでしょうから‥」
「なんか泳いでるーー」
「さかにゃってゆうの。食べると美味しーーんだよ☆」
「れもんのともだちーー?」
「違うにゃ。ぷにこはあざらしのにゃかま♪」
「ちょっ‥誰があざらしよっ!?他に何か思い付かなかったの、あなた!」
「じゃあ、とど♪」
「‥たっっぷりお水が飲みたいみたいね、猫ちゃん。ご馳走してあげるわよ」
「‥喧嘩なさらないで。まずは探しましょう」
「もーーー。むっかつくぅ!!」
「そんにゃ怒んにゃいでよぷにこ。たまこ行くにゃ」
「はい、お姉ちゃん☆」
捜索開始。しかし、きらきらした物はあっても、どれも所謂きれいな石で、装飾品の様な物は見当たらない。
「ごぼぼっ、きゃあああ!」
深みからリモンが飛び上がってきた。体のあちこちに、魚が食い付こうとしている。
「‥あ。忘れていました、噛る魚のこと」
「あやや、ぷにこ平気ーー?」
「だあ、わぶ、この‥すぷらーーーーっしゅっ!!」
大量の小さなシャボン玉が、魚目がけて襲い掛かる。
それに触れた噛る魚は、次々に『柘榴のように』爆発。
「何よぉ、これぇーーーっ!!」
「ごめんぷにこ、忘れてたにゃあ‥でも笑ってるし、平気かにゃ?」
「怒りのあまり笑ってんのよ‥もぉ。待ってて、まずこの辺の噛る魚、全滅させてやるから」
「‥そんな乱暴な。貴女ほどの方なら、シャボンで壁くらい作れるでしょう?」
「できるけど沈まないよ」
「‥あ。ああーー、あはは♪」
「可笑しくないわよナンシュアさんーー。やだなーーもう」
「そ言えば、たまこは?」
「ここーー☆」姿は見えないが、すすきのなかから声がする。
「あんまし遠く行っちゃだめだにゃ」
「わかったーー♪」
「‥最近日暮れも早いしにゃ。気合い入れにゃいと」
「ねえ、どうしてもだめそうならリタイアって駄目?」
「‥できれば見つけてあげたいですね‥大切なものかも知れませんから」
「でなきゃ依頼なんてしないか。もっぺん行くかぁ!」
陽が傾いてきた。だが、どうしてもそれは見つからない
「ふいーー、あったにゃーー?」
「‥いえ、どこにも」
「水のなか、もう暗いよ。今日は中止にしない?」
「‥ごめんにゃさいって言ってこよーーか」
「んーー‥取り合えず今日は帰って、皆さんと相談しませんか?」
「むーー。あたしもできれば、断りたくはにゃいし」
「決定っ!帰ろ♪」
「たまこーー。帰るにゃーー」
「‥何処へ行ったのですかあの子は」
「すすきのにゃかで遊んでる‥って、おおーーーー!」
「何ーー、どしたの」
「‥これは素敵ですね♪」
河原一面のすすきに、西日が射している。その上面が、波のように光って揺れていた。風に吹かれてうねるそれは、ふかふかの絨毯のようだった。
「きれーーい♪思い出すなぁ海‥‥」
「れもんーー、海ってなに?」
「ん?タマルちゃんか☆あのねしょっぱいお水がすごく沢山あってね。色んな生き物が棲んでるの。魔物も♪」
「そ言えば、ぷにこ塩好きだにゃあ」
「好きなんじゃなくて、摂らなきゃ体調崩すのよ‥。陸で言うのも変だけど、懐かしいなぁ♪」
「帰らないでね、れもんー」
「はぁ?あははは、帰らないよ。安心して♪」
「‥絨毯のようですね。上で跳ねる事もできます」
「ああーー、ずるいニャンシー!!」
「(ホント、今更帰ったって又、どうせ修羅の道だしね・・・)ふう‥‥‥♪」
「にゃに渋い顔でため息ついてんの。ちょっと相談があるんだけどにゃ☆」
「あなたの事だから、シャボンバリアに入って、あの上跳ねてみたいーー、とか」
「そーー!お願いできる?」
「ひとに掛けた事無いんだけどな。いいわよ、あなたとタマルちゃんに掛けたげる」
「やったあ♪たまこーー」
「あんまりなかで暴れちゃ駄目よ、はい!」
大きな大きなシャボン玉。すっぽりと包まれて、光る絨毯の上をやわらかく跳ねる。
「きゃはは、すごーーい!」
「たまこ暴れちゃ駄目、やさしく、やさしくにゃ」
「ふふふっ♪わたしも泳いでみるかな、この上」
「‥素敵な遊びですね、上に乗ってもいいですか?」
「わあ、ニャンシー駄目ーーー!」
「あれぇ?大丈夫だと思うよ、それ位なら」
「そ、そお?じゃあニャンシー、そっとにゃ」
「‥すみません、では失礼して☆」
ナンシュアが座った途端、泡がぐっと沈み込み、すすきの尖ったとこがいっぱい刺さる‥ぱちっ、ぱあん。
「に゛ゃあああ!」
「きゃあああ!」
「あははははは‥なぁにやってんのぉ、もう!」
「に゛ゃあ、やっぱ葉っぱは痛いにゃ」
「‥冷たっ!」
「どしたのニャンシー、おしり濡れた?」
「‥そうじゃにゃいです、ってあぁもーー!胸に何か」
「移ったわね♪」
「冷たいーー?とかげーー?」
「きゃああ!違います、何か金属のような、てあら‥?」
それはみんなで探して、どうしても見つからなかったペンダントだった。
「なんしーーすごーーい☆」
「にゃんだ、河じゃにゃくて、こっちに飛んだんだ」
「引っ掛かってたんだ、らっきぃ♪これで安心して帰れるね」
「んーー☆でも、すぐ帰んにゃいで、も少し見てよーー?」
「そうよね。きれーーーい☆」
だんだん赤く染まってきた『絨毯』を見つめる。
「‥結局、例の盗賊は、何を狙っていたのですか?」
「ええ?さあ。未遂で捕まえちゃったし」
「金のじゅうたんとかじゃにゃい♪」
「‥このひとはもう♪」
「欲しい?」
「要らにゃい。こっちの方が全然綺麗☆」
「お姉ちゃん、もう帰ろ?」
「ん、そーーだにゃ、撤収ー!」
「疲れてない、タマルちゃん」
「大丈夫ーー♪」
「‥遠慮しないで言って下さいね、抱えてあげます」
「泡に入れて、転がした方が早いにゃん♪」
「きゃはは、いやーー!」
「この猫ちゃんは、本当」
家路を急ぐ一行。辺り一面が紅い。この頃風も、冷たくなってきた。
この辺りには、雪は降るのだろうか。
森のすぐ近くまで来た。お家の辺りから、細い煙が立ちのぼっているのが見える。
明日はどんな依頼が来るかな‥それより夕食は何かな♪
☆終わり☆
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