【黒猫ぽすと】
―夢の迷子の巻―
(昨夜見た夢どんな夢。
嬉しい夢。
悲しい夢。
楽しい夢。
むかむかする夢。
満ち足りた夢。
空っぽの夢。
それはいい夢わるい夢?)
「セリアさんーー、最近独りごと言ってませんかーー」
「あたしが?知らにゃいよ。それよりこのハムがーー♪」
「こら。つまみ食いは駄目ですよ。私にも聞こえます。何か悩みか、考え事をなさっているのですか?」
「わかんにゃい。言った覚えにゃい。聞こえるって、」
「ああ、じゃあ大きな寝言?あははっ、可愛い♪」
「寝言って‥やっぱしわかんにゃい。誰か居るんじゃにゃい☆」
いつもの朝食の風景。テーブルには、パンやオムレツやジャムの瓶が並んでいる・・・
「ちょっとぉ。朝から変な事いわないでよぉ」
「‥気になりますか、リモンさん。おばけとか♪」
「あう。そうじゃないけど、いや魔物もおばけも似たよなものだしぃ、あ、あはは」
「れもんーー、恐いの?」
「勘弁してぇタマルちゃんー」
いつもの日常。内容はともかく、ぽすとの依頼も順調。今日も、先日の地震で壊れた古い家々の、片付けの依頼がきた。
「力仕事といえばフローラが一番♪お願いできるかにゃ」
「あら、私ですか?構いませんよ、参りましょう☆」
「井戸とか地下水道わぁ」
「わたしが行くわ♪水関係なら任せて」
「んじゃぷにこ。決定ーー!」
「お年寄りの御宅ですか」
「みたいだにゃあ‥報酬はいいや☆行こ行こ」
「わたしどーーしよぅ」
「くれるつったら貰えばいいにゃ♪しゅっぱーーつ!!」
今日も頑張る彼女達。そして、いつものように陽が暮れる。
一日の終わり・・・
「ふぃーー、色んにゃ特技もった家族居るっていいにゃあ♪でも疲れたーー」
「よく働きましたね♪兵士さんや街の方々も、大勢いらして助かりました」
「工事頼んだら高価いわよね。良い事したかな☆」
そしてその夜‥
(あんたの家族は本当に家族?
その友達は本当に友達?
あんたはそうだと思っていても、向こうは思ってないかもよ♪)
「まただにゃあ‥最近こんにゃ夢ばっかし見るにゃ‥ん、夢?
おう、夢だって自覚があるにゃんてあたし、結構いい線いってるにゃ☆」
廃墟のような木造の住宅。ぼこぼこ道にまばらな草木‥あまり良い景色ではないようだが。
「さて、お家に‥って、これがあたし達のお家!?」
‥それは壁に大穴が空き、扉も窓もなく、お世辞にも家と呼べる物ではない‥
「ひっどいせんす。にゃんで夢だとこうにゃ訳ーー!?」
(アハハハハ、アハハ、アハハハハハ・・)
「誰、笑ってんの」
(別に誰でもいいじゃない。さっさとお家入ったら♪家族があんたを待ってるよ。
だけど本当に待ってる、のかなあ?アハハハハハハ・・・)
「にゃんか、むかついてきた‥にゃに、こいつら?」
取り敢えず入ってみる。何故か、ここは自分の家、という気がしてきた‥
「ただいまフローラ。ご飯の支度ーー?あたしねーー、」
「おかえりなさいダークココナさん。フローラとは誰ですか?
私はパワーと呼ばれる者です」
「へ、にゃに言ってんの?自分のにゃまえ忘れた!?」
「名前ってなんですかーー?
私たちは皆、只の道具、魔物の一部じゃないですかーー。
一番LVが高い貴女が一番偉いだけですーー♪」
「かにゃしくにゃるから、喋んにゃいで‥」
「‥どうしました、貴女らしくないですね‥外の話を聞かせて下さい。ここにいると退屈で‥☆」
「ねえねえみんなっ!!表の泥水に人魚が浮いてるっ!!死んでんのかな、アハハハ!」
「にゃあ、ひょっとして、えうれか、いやハイフラワーは?」
「こないだ犬がくわえてった奴の事?」
「‥あでゅーー、てめえら」
家を後にする。
「はあ‥っても行く宛にゃいけど、あすこに居るよりましだにゃ」
見渡す限り知らない風景。行く宛ても行き先も分からない。解るのは自分が今、ここに立ってる事だけ‥
(アハハハ、言ったでしょ?あんたの家族や友達なんて、あんなもんよ、アハハハハハハ)
「てめえ下級の妖精だにゃ‥出てこい、きゅって捻ってやるにゃ」
(アハハハ、無駄無駄。触ろうたって触れないよーー♪)
「だよにゃ、妖精だもん。」
(解ってんじゃなーーい☆触らせてあげよーーって思ったら別だけどねーー?)
「最後まで聞くにゃん♪おにゃじ妖霊族でもフローラ達とは大違い。けっ!」
金切り声のような、怒鳴り声で目が覚めた。
「にゃうーー‥気分悪」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
タマルが戸口で、心配そうにこっちを見ている。
「おう、たまこ。心配にゃい安心するにゃん☆ちょっと夢見てただけ」
「恐いゆめーー?」
「ううん。かにゃしくて、むかつく夢‥」
「タマルここで寝ていい?」
「いいよ、まだ暗いしにゃ。お休みたまこ♪」
「んふふーー☆」
さらさらの髪をかきわけるように咲いていた、大きな花も、今は閉じている。実がなるのだろうか?
タマルの髪を撫でているうち、彼女も又、眠くなってきた‥
(逆らうなんて生意気ね。あんたに一体何が解んの。大体あんたは何者な訳?あんまり調子に乗ってると、家族の天使に言い付けちゃうぞ♪あんたなんて一撃、)
「さっき言わにゃかった、妖霊族って。本当の天使が、勝手に天から来る訳にゃいでしょ‥大体おんにゃの天使は居にゃいの」
(はぁ?何言ってんのあんたじゃあ、あれ何よ。誰に聞いたの、そんな事)
「たぶん、おまえらには永遠に関係にゃい☆知っても無駄無駄、お家帰るにゃ」
(うわ、むかつく!いいわ、罰としてあんたが何者か、教えてあげる☆)
次の瞬間、彼女は薄暗い場所に放り出された。
「うわ、また趣味悪‥おまけに、にゃんかごちゃごちゃしてる‥」
(猫人だって、変な奴ーー♪人魚も十分変だけど、お花はもっと変だけど☆猫人だって有り得ないよね。ほら、見なよっ!これがあんたの正体よっ♪)
彼女の足元で、毛並みのばさばさな一匹の黒猫が震えている。
「これがあたし!?
冗談じゃにゃいっ」
(どうかなーー?冒険者さん!)
剣を構えた男が、ゆっくりと近づいてくる。
「ま、守んにゃきゃいけにゃい気がする‥ちょっと、おまえっ!!」
男は無言で剣を振り上げる
「無視か‥仕方にゃい♪どうせ夢だし。あでぃおす!」
一瞬、その周りの時間が止まった。再び動きだした時、彼女の足元には、さっきの黒猫と、喉に剣を突き刺されたさっきの冒険者‥
「へへへーー。甘く見にゃいでね♪あたしの事、調べにゃかったの?おい、黒猫」
「シャギャーーーーーーーーー!」
猫は彼女の手を蹴ると、一目散に逃げていった。
「ちっ、恩知らずにゃ奴。仕方にゃいか猫だし‥」
(あっきれたーー。何で一々逆らうわけーー?どうせあんた、夢の中で生まれた幻じゃん‥ふん!)
「てめえ、いい加減しにゃいと、てめえもやっつけてやるにゃ‥害虫みたいに隠れてにゃいで出て来い!!」
(アハハハハハ・・ばーーか!!)
また、目が覚めた。今度は辺りも明るい‥だけど気分は最悪。
タマルはまだ、すやすや寝ている。
「ふいーー‥たまんにゃい」
「セリアさん、宜しいですか」
「にゃあ。フローラどしたの?」
「いえ、寝言というには、筋が通っているのが気になったのです‥今日も普通に、誰かと話しているようでしたよ?教えて戴けませんか、どのような夢なのですか」
「説明しにくいにゃあ‥」
その日、彼女は依頼を受けずに、お休みする事にした。
「お姉ちゃんお休みーー♪タマルと遊んでーーー」
「タマルちゃん、お姉さんは疲れてるの。代わりにわたしが遊んであげるよ☆」
「小妖精の気配なんて無いですねーー‥夢の中じゃどうにもならないですーー」
「‥困りましたね。とにかく静養なさって下さい‥」
「ご飯運んであげよっか」
「いーーってば、動けにゃい訳じゃにゃいし。みんにゃおーーげさだにゃあ☆」
「いいえ、無理なさらないで下さい。先ずは静養なさって、身体と心を、休めて頂かなくては」
「お姉ちゃーーん‥」
「タマルさん?セリアさんは」
「いいっていいって、たまこ、おはにゃししてあげる。こっち来るにゃん♪」
「わーーーーい☆」
「大丈夫ですかーー?」
「平気平気☆
あのね、昔々、誰かさんの夢の奥の、奥の、そのまた奥に、一匹の黒猫が住んでいました‥」
そして今日も、平穏に一日が過ぎる‥大体夢の内容なんて、殆どの人は覚えていない。印象深いものもあるけど、その殆どが支離滅裂。覚えていたって、仕方ないから。創られた、お伽話のほうがまし♪然し‥
「にゃあ‥またおんにゃじとこーー。来たくもにゃいのにーー。こんにゃ家入んにゃいっ!!
もーー‥」
ぼろぼろの家から目を背けて、足早に通り過ぎる。
「どこ行けばいーーのかも解んにゃい。にゃんで自分の夢のにゃかで迷子ににゃんにゃいといけにゃいの‥?
おっ。知らにゃい建物発見!‥どーーでもいーーけど」
(アハハハハハ、元気ーー?んな訳ないか、まあいいや、あんたにプレゼントがあるのよ☆)
「にゃに。あの建物にゃら、入んにゃいよ」
(あんたの意志なんか関係ないのよーー♪そおらっ!)
抵抗する間もなく、彼女は建物の中に‥
(あんたは遊んでばかりいる。どんな事でも楽しんでる。だからいじめてみたくなったの☆
いくよぉ!!へへへーー。
怒り狂ってて、げらげら笑う。泣きそうなのに、にっこり笑う。これはいい奴、わるい奴?
白い心、黒い心。黒い心、白い心。二つの心、一つの心。
あたしの仕事は、これで終わり!じゃね♪)
「にゃに、あいつ。言いたい放題言って‥ちっ、やっぱここ進まにゃいと帰れにゃいのかーー」
仕方なく、そっと扉を開く。向こうは真っ暗。ただ、ぎらぎらした目が光っている‥
「なんだぁ、てめえはっ!何しに来やがったっ!!」
「お、お邪魔したにゃん」
そっと扉を閉める。
「にゃにこれーー、もーー・・・」
もう一方の扉。
「もうやけ。開けるにゃ!」
こっちは柔らかい光‥透明なくらい白い者が居た。両目は閉じられていた。
「貴方はどなたですか?何かご用事ですか?」
「いや用事って訳でも‥帰り方教えて欲しーーにゃ♪」
「‥何処へ帰るのですか?ここは貴方自身の夢のなかです。‥ふふふっ、よくここまで辿り着きましたね。あとは目覚めの後、考えなさい‥ほら、貴方のご家族が呼んでいますよ♪」
そこへ黒い者が現われた。
「けっ。おいてめえ、一人でべらべら喋ってんじゃねえよっ!!おい、そこのてめえ。前に聞かなかったか、白と黒の心って♪そーーゆーー訳ださっさと帰んなっ」
「にゃあ‥もしかしておまえら、あの‥」
然し全てがぼんやり霞み、そして見えなくなった‥。
「セリアさん?セリアさん?」
「ほんっと、妙にちゃんとした寝言ね‥」
「怒って笑って、悲しんで微笑ってって‥あーー!」
「喜怒哀楽っ!だよねっ?」
「‥平均的な感情の事でしょう?夢に見るほどの意味が有るんでしょうか」
「実際見てるじゃん♪」
「リシェルさん‥セリアさんは、疲れているのですから」
「あっ、御免っ!平気?」
「ううん、だいじょぶ‥妖精だかにゃんだかが言ってた、これが最後って☆だからもうだいじょぶ♪」
「そお‥無理しないでね」
「お姉ちゃん、もう本当に大丈夫?」
「大丈夫♪明日はばっちり遊んであげるにゃん!!」
「やったあーー☆」
「きゅーーーーーー♪」
「びりぃ。夜分遅くお手紙?んーー・・来年用の球根の鉢植え手伝って・・またこんにゃ雑用ーー。たまこ行く?」
「行きたいーー一緒にーー♪」
「OK.明日行くにゃん☆」
白い心、黒い心、それは二つで一つ‥彼女は理解しただろうか。
いやもう安心かな。片や誰でも持ち得る心。片や信仰なしには持ち得ぬ心‥彼女なら、彼女達なら、大丈夫かな‥
☆おわり☆
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