【黒猫ぽすと】

―星の贈り物の巻―

丘の上から見上げる夜空。
空に一杯の大きな星。
白、青に黄色、赤に橙。
ちかちかしたり、流れたり。
それは素敵な、素敵なもの。

「うるるっ、寒‥」
セリアが一人、膝を抱えて夜空を見上げている。少し前まで耳鳴りがする位鳴いていたこおろぎ達も、今はまばら。あちこちで、かぼそい声で鳴いている。
(なんでかな‥この丘の倍はある高い山で見た時よりずっとおっきいな)
その時、下の方で、がさがさと音がした。
花の強い香がする。
頭に花が咲いた少女。

「お姉ちゃーーん‥」
「たまる。こんにゃよにゃかに、一人で出てきちゃだめでしょ」
「お姉ちゃんが一人で行くのが見えたから、追っかけてきたのーー。どうしたの?」
「ふふふん♪上見るにゃ」
「うえ? わーーぅ、きれい☆」
「この丘はね、他のどこよりも星が大きく見えるんだにゃ♪綺麗でしょ。あたしのお気に入りの場所の一つにゃんだよ」
「うにぃーーーー‥」
「どしたのたまる」
「疲れたの。のど乾いた」
「もう降りよっか♪
途中に泉あるから、いっぱい飲むといいにゃん」
「うん☆」

丘の途中に湧いてる泉。両手で掬って、いっぱい飲んで、置いた右手に何かが当る。
青いリボンで口を結んだ、茶色い小さな紙袋。
「お姉ちゃん、袋がある」
「袋? にゃんだろこれ」

‥お家の傍を流れる沢の、上をふわふわ飛ぶ人魚。長いスカートの裾をつまんで、尾ひれを水に浸してる。
「冷た! うーー、気持ちいい」
大きな羽根をぱたぱたさせてエンジェルが一人飛んでくる
「リモンさんーー、あのーー」
「なぁに? ニノンさん」
「セリアさん知りませんかー」
「猫ちゃん? 夜のお散歩じゃない」
「タマルさんも居ないんですーどこ行ったんでしょうーー」
「そんな心配しなくたってすぐ戻ってくるわよ♪」

そう言って、大きな岩に腰を下ろす。
何かがかさりとお尻にあたる。
「ん? 何これ。リボンで結んであるけど」
「紙の袋ですねーー」
「何か入ってる。何だろ」
振ると、かさこそ音がする。
‥夜空で光る沢山の星。ここから見ると小さく見える‥ちかちか瞬く星もある‥すっと流れる星もある‥
「綺麗ですねーー☆」
「素敵だよねーー♪」

何かがぽとんと落ちた音。
振り向いた先に、紙袋‥黄色いリボンで結んである。
「あのーー、リモンさんーー」
「本当に何だろ、これ」
その時、お家の扉が開く音がした。
帰ってきたらしい。
「ふあーーあ。そんじゃ、もっぺん寝るにゃ‥」
「この袋どーーしよう」
「明日開けてみるにゃん♪おやすみ、たまる」
「一緒に寝るーー」
「無理に階段のぼらにゃくても‥へいき?」
「のぼれるーー♪」

‥屋根裏部屋の出窓から、淡い光が差し込んでいる。青くて淡い光のなかに、何かが影を落としてる‥
「たまるのとおんにゃじ袋がある‥リボン緑だけど」
「お姉ちゃんも? よかったあ。タマルとお揃いーー♪」
「にゃんだろこれ‥」
紙の袋を二つ並べて、今日はお休みする事にした。
明日になったら開けてみよう‥

翌朝。
朝食の席で‥
「そんじゃみんにゃのとこに来たんだ」
「‥私は起きたら枕元に」
「ビリー君なんて枕にしてたしねっ♪ 私はおひさま見ようとして上に飛んだ時、煙突の笠の上に乗ってたっ」
「わたくしは表に出た時、頭に落ちてきました。貴女の仕業かと思ったのですが‥セリアさん?」
「あたしじゃにゃいよお。あたしは出窓んとこで見つけたの。そっか‥」
「開けてみよーー?」
「だよにゃ☆みんにゃおにゃじ奴みたいだし。そんじゃあたしの奴をーー」

リボンを解いて覗いたら、小さな粒が入ってた。
まるい小さなとげとげが、いっぱいついた小さな粒。半透明で、色とりどりで、ほんのり砂糖の匂いがする。
それは不思議な、不思議なもの‥。
「ちょっといぃい?」
「わあ! リモンさんーー!」
「むぐむぐ‥甘いや♪お菓子だよ、これ」
「見た事もないお菓子ですね。どなたがくださったのでしょうか」
「気配も感じませんでしたねーー‥誰か心当たりはーー」
「いいこにしてる子に、ご褒美じゃにゃい☆」
「じゃあ何で貴女の所に」
「ぷにこーー。尾ひれに噛み付くよーー。ま、誰か知らにゃいけどご馳走様♪お皿にあけるにゃん」
ざらざらとお皿にあける。「お姉ちゃーーん。昨日みた星ににてるーー♪星のぷれぜんとかも‥」
「たまるにゃいす☆」
「うわ、やられた! ええとぉそれに対抗できる奴わぁ」
「‥ないと思います♪タマルさんの意見を採りましょう‥私も一粒☆」
「星の贈り物かぁっ♪信じらんないけどいっかぁ」
「他に思い当たるところもないですし。そうですね☆わたくしも失礼して‥」
「フローラいっぺんにそんにゃに食べちゃだめ」
「むぐぐ、ご、ごめんなさいつい♪わたくしの袋もあけましょう」
「きゅーーい、きゅい!」
「おう、びりぃ。朝一番で配達? ご苦労にゃん♪‥寺院からだにゃ」
「寺院? 何でしょう」

『ご機嫌よう。あなたがポストを置いていらっしゃる、寺院の者です。
ここ数日、建物の中で、何度も不思議な事が起きています。あなたはこのような不思議にお詳しいかと思い、ペンをとりました。宜しければ一度、いらして頂けませんか』

「むーー。挨拶にゃしでぽすと付けてるからにゃあ。ちょっと行ってくるかにゃ」
「まあ! 無許可ですか?」
「付けたのあたしじゃにゃいよお‥ごはん食べたら行ってこよ」
「タマルも行きたいーー」
「寺院にゃらいーーよ☆」
「お菓子も持ってくーー♪」

‥そして。街へ向かう二人。
「寄り道してこっか。あたしの友達紹介するにゃん」
「ともだち? タマルはーー?」
「大切にゃ妹ーー♪」
「えへへーー♪」

町外れの墓地に着いた。
「おう、ラセンー! こんちわ☆」
「あ、こんちわですニャ♪お元気ですかニャ?」
「おう、今日もばっちり☆たまる、こいつがラセン」
「こんにちはーー♪」
「かわいい! ‥エウレカ? じゃないみたいですニャ」
「ハイフラワァだよ。一度おまえに紹介しようと思ってにゃ‥そうだおまえ、こうゆうお菓子知らにゃい?」
「ん‥? あーー、知ってるニャ! 前にここにきた人が、少し持ってたニャ! 確か‥コンペイト、ってゆう異国のお菓子ですニャ♪一つ貰ったけどおいしかったニャ☆」
「こんぺいとう‥変わったにゃまえ。昨夜ね、あたしんちの周りに沢山降ってきてね。誰がくれたか、わかんにゃいの」
「星から降ってきたの☆」
「とまあ、あたし達の間じゃそゆ事ににゃってる♪」
「いっぱい降ってきたニャ? いいニャー・・・」
「はいあげる、ピンクのお姉ちゃん♪」
「ええ? 袋ごとくれるニャ?」
「うん、お姉ちゃんのお友達だから。うちにもいっぱいあるから♪」
「わあ、ありがとうニャーー!」
「チューーーーーー☆」
「‥こら黒犬、むくれるにゃ☆おまえにはあたしのおやつあげる♪」
「ワウゥ(いや気ぃつかわなくても‥そうか? )」

墓地をあとにして、寺院へ。
「じゃあ勝手にポストつけちゃったのーー?」
「相談ついでに怒られるかにゃあ‥」
「ちゃんと、ごめんなさいすればいいと思うよ♪」
「そーーだよにゃ♪悪い事はしてにゃいし」

寺院に着いた。扉を叩くと、女性が現われた。
「ええと‥この家に平安がありますように☆お手紙見てまいりましたにゃ‥」
「クスクス‥平安がありますように。お待ちしていました、お入りください」

来賓室に通された。
そこには箱に山盛りの、
「お姉ちゃん、こんぺいとうがいっぱいあるーー」
「こんぺいとうと言うのですか、これは。今朝も掃除が済んだすぐ後、ばらばらと床に落ちてきたのです」
「あたし達のお家でも、昨夜からいっぱい。でも袋に入ってリボンかけてあった」
「それも不思議ですね‥どなたがどの様に包んで、どの様にして、この様に配っているのでしょう」
「あたしはこの子、たまるの意見を採って、星の贈り物ってことにしといた。甘いの苦手だけど、この飴そんにゃに甘くにゃいし♪」
「クスクス‥素敵ですね♪私共も、色々と議論を交しましたが結論には至りませんでした‥所で食べ物なのですか? このものは」
「そうだよ、おいしーーよ」
「あたしも一晩、ぼんやり考えてたけど解んにゃかった‥星ってそんにゃに器用にゃ事できるの?」
「クスクス♪夜空に光って見える星は、太陽の何倍も激しく燃えているものだと聞いています。ですが、その様に考える事は素敵な事です」
「そうだよにゃ。考えても、議論しても、解んにゃい事はそれでいいよにゃ☆」
「所でこれ、こんぺいとうですか、どうすれば宜しいでしょうか‥」
「街の子供に配ればいーーと思うにゃ」
「よろこぶと思うよーー♪」
「そうですね♪ではその様に致しましょう」

‥そして森のなかのお家。
「そうですかーー、街でもですかーー。でもそこいら中、って訳でもないんですねーー」
「寺院の人に頼まれた。配りやすいように、小分けする手伝いして欲しいにゃ」
「‥分かりました、すぐに行きましょう♪」
「リボンがあった方が便利ですね。わたくしもお手伝い致しましょう☆」
「こんぺいとう、ある?」
「こんぺいとう、ですか?」
「あーー、ラセンに聞いた。この飴のこと」
「まだ貰ってないみたいだから、あげたのーー♪」
「良い事をしましたね☆はい、どうぞ」
「まあ結局、出所は解んにゃかったけど、別にいーーよにゃ。あたしにも一つ☆」
「はい、お姉ちゃん☆」
「‥不思議ですね本当に」
「ええ、文字通りですね♪思索も議論も及ばない、と言う訳なのですね‥」
「ええ? 不思議ってそんにゃ字で書くの」
「知らずに言ってたんですかーー? 勉強しましょうー☆」
「‥いつかお外に出られにゃい日にでもにゃ」
「それでは、奉仕活動の一辺を担いに参りましょう」
「おーーげさだにゃあ。ラッピング手伝うだけにゃ」
「構いません。実はわたくしも、寺院にはまだ一度も、行った事がないのです♪」
「‥張り切って参りましょう♪」
「ニャンシーまで。おっけーー、しゅっぱーーつ! !」

何処から来たのか解らない‥誰がくれたか解らない。話し合っても考えても、それでも答えは出てこない。
それは不思議な、不思議な事。
手を伸ばしたら届くくらいに、大きく見えるいっぱいの星。
それは素敵な、素敵なもの。
色とりどりのこんぺいとう。
円いとげとげが沢山あって、口に入れると静かに溶けて。
それは不思議で、素敵なもの

☆☆おわり☆

MMサポートより
MM世界には教会はありませんので、すべて寺院に変換させていただきました。


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