【黒猫ぽすと・最終回】

―いつかあなたのおうちへ☆の巻―

<前篇>

街の真ん中、裏通りに小さな小さなお家がある。
二部屋くらいの小さなお家。
もう何年も前からお婆さんが一人で住んでいる。
セリアは数日前から、このお家に、家事手伝いの依頼で呼ばれている‥

「お掃除おわったよ、お婆ちゃん♪」
「御苦労さま。でも霧吹きで埃湿らすなんて、セリアちゃん頭良いねえ」
「にひひひ☆お家でも時々お掃除当番があたしに回ってくるからにゃ。舞い上がる埃をにゃんとかしようと思って編み出したの」
「あらあら♪さあさ、お昼にしましょ。チャウダーが煮えたよ」
「わ―い!!これ大好きにゃの♪」
お鍋の中でぐつぐつ煮えてるクリームチャウダー。セロリのオイル漬けと茹でたカリフラワーのサラダ‥
「美味し―☆お婆ちゃんの秘伝ってやつだにゃ♪」
パンをチャウダーに浸して、次々と口に運ぶセリア。
「これだけがどういう訳か得意なんだよ♪」
そんな彼女を嬉しそうに眺めるお婆ちゃん。
「毎日頑張ってくれてるのに何にもお礼できなくて御免ね‥あたしにもっと余裕があったらね‥」
「にゃに言ってんの♪毎日ご飯作ってくれるじゃにゃい。元々ぽすとのお仕事は、勤労奉仕の気持ちで始めたんだから、遠慮にゃんかしちゃだめ☆」
「ほんとに良い子だなんだねえセリアちゃんは‥」
「にひひひ、実はね。人にそう言って貰えるのが嬉しいの。あたし時々、自分は本当に、良い子として生きていられてんのかにゃ?って不安ににゃるから」
「何言ってんの♪あたしも永いこと生きてるけど、こんな良い子、見た事ないよ。損得考えずに、人様の為に働くなんてまあ‥」
「もお、やめてよ―!ご馳走様、凄く美味しかった☆」
「はい、御粗末さま♪」
「午後は、にゃにすればいい?」
「その前に食休みしましょ‥ちゃあんと休んで、それからお仕事のこと考えようね☆」
「ろうど―いよくが溢れてんだけどにゃ☆」
「良い事だけど、だめだめ。休んでる間も、仕事の事ばっかり考えてると、段々と心が、荒れていっちゃうからね。
そういう人はセリアちゃんみたいに、人に優しくする事なんて出来なくなっちゃうんだよねえ‥」
「ふ―む。にゃんか含蓄のあるお言葉ですにゃあ」
「はいはい、休む時は休む!あんまり甘くないドーナツがあるよ。セリアちゃんのご家族のお話、聞かせて頂戴」
「い―よお☆ん―とね。お婆ちゃん、おはにゃは好き?あたしの妹分の事、はにゃしてあげる♪」
「まあ!大好きだよ♪その子も、セリアちゃんみたいな猫娘さんなのかい」
「ううん、違う。はにゃ娘だよ。頭におはにゃが咲いてんの☆」
「これまた不思議な子だねえ‥そういえばうちの前の庭も、だいぶ前から、手入れもしてないねえ‥」
「もうちょっとで春だもん草も伸びるし、おはにゃも咲くよ」
「うんうん、そうだねえ♪春のお花は、一番好きだよ。草と一緒に咲いてくれるかしらねえ」
「くさぁ?どれどれ」
小さな窓を開けて外を覗くセリア。
「ありゃりゃりゃ茶色い草がいっぱい★」
「いやその‥恥ずかしいんだけどね。腰曲げるのが辛くて、もう長い事、お手入れしてないんだよ」
「よ―し、次のお仕事決定!明日はたまる連れてきてあげる♪不思議にゃ力で、明日中に、おはにゃが咲くかもよ」
「まあまあ!楽しみだねえ。それじゃ今日は、お話だけ、して頂戴ね♪」
「うん☆あれは確か秋だったにゃあ‥」

その日の夕方。
「ただいま―☆」
「おかえりなさい―♪」
「にのんも今日はお仕事だったっけ」
「そうなんです―町工場の大きな煙突のお掃除してました―。急に、もあ―っなんてすすが出てきて真っ黒になりました―。あんな大きな煙突、半年もまともにお掃除してなかったなんて―あんまりです―!!」
「にゃははは♪」
「も―。笑い事じゃないですよ―」
「ちゃんと落ちたからい―じゃにゃい☆所でたまる見にゃかった?」
「温泉でリモンさんと遊んでましたよ―。リモンさんが水まわりのお仕事でオークさん達の所へ出かけてたので―、一緒に行ってたんです―」
「まあ同盟結んだって言っても、たまる一緒の方が安心だからにゃ」
「ですね―♪あの若さで親善大使なんて、格好いいです―」
「おまえらも毎日頑張ってくれてんだにゃ‥」
「何言ってるんですか―♪あなた一人、放っといたりしませんよ―」
「皆が皆、出かけちゃう訳にも行かないんだけどねっ明日は私の順番なんだからねっニノン☆」
「あ―リシェルさん―丁度よかったです―」
「なあにっどしたのっ♪」
「実はあの工場、最近火力がですね―‥」
「にゃう。みんにゃ、頼もしいにゃあ☆そんじゃあたしたまるんとこ行ってくる」

洞窟の奥の温泉。なんか笑い声が聞こえる‥
「きゃははははっ♪」
「あはははっ☆ほぉらもっぺん波が来るよぉっ」
たらい船に乗ったタマルをリモンが波を起こして舟遊びをしている。
「にゃにやってんの‥」
「あ―お姉ちゃんお帰りなさ―い☆」
「お帰り、猫ちゃん。お婆さんのご様子、どうだった?」
「ばっちり元気だよ☆健康じゃにゃいみたいだけど‥腰痛くて花壇のお手入れが出来にゃいんだって。たまる、明日あたしと一緒に、お婆ちゃんとこ行かにゃい?おはにゃ大好きにゃんだって」
「いいよお☆一緒に行く」
「わたしもちょっと会ってみたいな、そのお婆さん」
「う―ん‥」
「何よ★なんか不都合?」
「そうじゃにゃくて‥おうち凄くちっちゃいの。みんにゃで行ったら入んにゃいと思う」
「ちっちゃいって、どの位?入らない程って、あのね」
「ほんと。こん位しかにゃいの」
とことこ歩いて大体の外周を示すセリア。
「うわ可愛―‥お伽話のおうちみたい☆でもそれじゃ確かに無理ね」
「おまえの事おはにゃししたら会ってみたいつってたから、今度ね。それとも明後日にする?」
「ちょっと早いかなぁ何かお土産持っていきたいし♪その時は声かけるね」
「お土産ってにゃに」
「内緒☆所でわたしの事、話したんですって?変に脚色してないでしょうね」
「にゃいしょ★」
「‥そう。覚えてらっしゃい★タマルちゃん、あれ?」
タマルはたらいの船の中で寝入っていた。
「あらら。お話、長すぎたかな」
「あったかいからにゃ、このお部屋」
「そのお婆さんも湯治とか来れば、もっともっと健康になるかなぁ」
「ここまで歩かせらんにゃいよ‥ま―あたしは、お婆ちゃんに一番必要にゃのは健康と現金じゃにゃいかって思うんだけど、おまえどう思う?りもん」
「そんな生臭い事いわないの★間違ってもないけどね‥ともかく幸せの基本は現金だ―♪何て人は、ろくな生き方も死に方も出来ないと思うなぁ」
「そうかにゃあ。やっぱ、そうだよにゃあ」
「そうなんだよ☆何よ、あなたらしくない。暮らしにも困ってるって訳じゃ無いんでしょ」
「うん、ま―、見た目には」「だったらいぃじゃない。変な風に気遣ったら却って失礼だよ。あなたが行けば喜んでくれるんでしょ?だから頑張るだけでいぃの。めいっぱいね♪」
「うん、解った☆ところで、たまるど―しよ」
「すやすや寝てるね‥丁度いぃじゃない、あなたも温泉入ってったら?お仕事で疲れてなぁい?」
「あたし、たおる持ってきてにゃいよ」
「あがったら走んなさいよ全力で。そんでぶるぶる―っと☆」
「怒られるにゃあ」
「怒られるよね♪
まぁ猫ちゃん、あなたって子は!って あ痛あ痛あ痛―!!」
「ふざけんにゃ―!!あほ人魚―!!」
「ん―‥どしたの、お姉ちゃん。なんで怒ってるの」

そして翌日‥
「そのお帽子、気に入ったみたいだにゃ、たまる」
「気に入ってるの―♪べれえって言うんだよね」
「ほんとは潰したまんまで被るんだって。でも、すっぽり被んのも可愛くてい―にゃあ」
「可愛い?えへへ―☆」
「ほら、あのお家だよ」
「あれ?わあ、可愛いお家」ぱたぱた駈けていくタマル。
「ごめんくださ―い」
「はいはい、どなた?あらら可愛いお嬢ちゃん♪」
「初めまして―」
帽子を取るタマル。
その下から大きな赤い花が現われ蘭に似た強い薫りが‥
「おやおやまあまあ」
「こんちわ、お婆ちゃん。この子がたまるだよ☆」
「たまるです♪お婆ちゃんお花好きなんだよね☆」
「だ―い好きだよ♪特に蘭のお花は大好き。でも、もう大分永い事、薫りも嗅いでなかったんだよ」
「じゃあ、お隣に座ってあげる。い―い?」
「まあ―嬉しいわねえ♪どうぞ、クッキーは好きかい?」
「好き―えへへ☆」
「んじゃたまる、しばらくおはにゃししててい―よ。あたし花壇のお手入れしてくるね」
「あ―!待ってお姉ちゃん、たまるもやる―」
「え?お手入れ終わったら、おはにゃ咲かしてくれるだけでい―よ」
「たまる、そんな事できないよ?」
「にゃう★そ―にゃの!?」
「そうだよお‥でもお手入れのお手伝いはできるよ」
「はいはい紅茶が入ったよ‥お手伝いは有り難いけどまずは一休みしてからね♪タマルちゃん、お隣に座ってくれるかい?」
「はい、お婆ちゃん☆」
そしてお茶の一時‥
「タマルちゃん、そのお花はずっと咲いてるの?」
「ずっとだよ♪つぼんだりもするけど、一年中だよ」
「まあいいわねえ♪お婆ちゃんとこ又来てくれる?」
「うん、い―よお☆」
「あ―、忘れてた。ふろ―らからお菓子預かってたんだお婆ちゃんにって」
「あらまあエンジェルの娘さんかい?セリアちゃんがお話してくれた。まあ有り難いねえ!午後のお茶の時に皆で戴こうね」
「うん♪そんじゃたまる、そろそろ始めよっか」
「はい☆お婆ちゃん、ごちそうさま」
「はいはい♪」

枯草ぼうぼうの花壇のお手入れも終わり、ご飯も食べて、お茶を戴きながら、家族のお話や少し前の冒険のお話をして、その日も暮れた。
「タマルちゃんにも、来てほしいけど人魚さんにも会ってみたいねえ‥でもお婆ちゃん家、狭いからねえ‥」
「じゃあ順番で来てあげるね♪次はりもんの番」
「リモンって?」
「人魚ちゃんのにゃまえ★本人も来たいってゆってたし、今度都合が付いたら、連れてくるね」
「都合って?お婆ちゃんは、いつでも都合いいよ♪」
「にゃんか、あたしにもにゃいしょで、お土産用意してるんだって。あの様子じゃ美味し―もんじゃにゃさそ―だけど」
「あらあらあら♪」
「そんじゃお婆ちゃん、またね☆」
「お邪魔しました―♪」
「また来て頂戴ね。なんか孫が出来たみたいで、凄く嬉しいの」
「お孫さん、いにゃいの?」
「居ないんだよねえ‥お婆ちゃん、御覧の通り、一人暮らしなんだよ」
「解った、じゃ、かにゃらず来るね☆」
「はい、お休みね♪」

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