【あんじぇらーむ】第1話:『独りぼっちの魔女』後編

     by MARCY




言われた兵士は溜め息を吐いて言いました。
「もし、お前達が単なる魔物であったなら‥平和、調和など望む筈も無し、まして先の様な術など使える筈もあるまい。
それに体の小さな者など、とうに体の大きな者。例えばドラゴンに食われていた筈だからな。
解った。私も納得した」
「解ればイイの♪」
「フン。つまらぬ」
「‥こらハダスちゃん。イイ加減スルの★」
「むぅ?フン、貴様を怒らせたら我とて生きながら挽肉にされてしまうな★解った解った」
「だからソウ言う言い方は無しなの!」
「‥では失礼する。確かに先に聞いた通りに王に伝えよう。加えて、」
最初に来た兵士さんがハダスを見つめて言いました。
「特にブラックドラゴンと、もし対峙する事が有ったなら、礼儀に気を付けた方が良い‥とな。邪魔をした」
「フッ★解れば良い」
「撤収っ!!」
兵士さん達は街へ帰ろうとしました。
「あー、ちょっと待って」
セリアが引き止めました。
「こにゃいだ会った方の、おまえら。あれからどう?
考え方とか、にゃんか変わった?お星さまの首飾りとか、してる?」
言われた兵士は思わず苦笑しました。
「私は、その様な物は着けない。然し‥」
じゃらり。胸元から何かを引っ張りだしました。
「三日月の首飾りなら、着けているがな★」
「にゃーる程♪にひひ」
「加えて、君らと会った事もあり、‥見えざる神の教会へ通う事にした。そこで聞いたのだ。君らの、特に天使‥否々エンジェルの諸君の敬虔さについて、かつての君らの働きについて」
「あたしも兵隊が、大勢来たって聞いた。やっぱし、おまえらだったんだにゃ☆」
「君らが、巨大人形‥あの小さな子らを呼んだのも、我々を足止めするだけで殺すつもりは無かったからだろう?これがもし、例の人工の妖精だったらと思うと。
身震いがする★」
「確かに、けんたは‥にゃ★でもあいつ自分でゆってたよ。今度の計画には、兵器の自分は必要にゃいって」
「そうか‥出来れば、呼ばないで貰いたい。あれは本当に誰にも容赦無いそうだからな」
「うん、呼ばにゃいで置く。出来るだけ♪」
「‥では。次は友人として会いたいものだな」
「いいえー。計画に協力的なひとはー、誰でもみんな友人ですー♪」
「そうそうっ☆」
「兵隊さんたちも、たまる達の事いじめなかったもん。‥だから、あの街から、出されちゃったんだよね?」
「君が心を痛める事はない。確かに君らが計画と言っている事は、本来我々人間が、率先して行わなければならない事である筈だ」
兵士さんは仲間の皆を見回しました。
皆が頷きました。
「最も知恵有る者として。誇り高き者として」
「最も優れた存在として。心有る者として」
「然し、このままでは君らに先を越されてしまう。
さあ、我々は街へ戻り、直ちに王にこの事を伝えよう。それでは!失敬する」
兵士さん達は全員、街へ帰っていきました。
「行っちゃったにゃ」
「さ、アタシ達もグズグズしてられナイの」
「うむ。先の者‥調停者の確保は、どうだ?」
「ばっちり☆今頃あの街で感動の再会の連続してると思うにゃ」
「何だそれは。まぁ良い次は統治者だな」
「いや俺たち、まったく出番無かったな」
「いいって♪こーゆう事は、あたし達に任して★」
「ネー。人間タチ、モウ帰ッター?」
妖精たちが物陰から恐々出てきました。
「帰ったよっ♪少なくとも、もう戦意を持って森に来る事は無いって思うなっ」
「良カッター☆」
「‥早く、お友達みんなが安心して暮らせるようになるといいね」
「タマル殿の言う通りだ。さあ人間達に後れを取らぬ様、私達も働こう★」
「うむ。我等とも有ろう者が人間如きに負い目を抱える訳には行かぬ」
「ザイトさんはともかくハダスさんー★そう言う言い方しちゃダメですー」
「あれえっ?ちょっと前に話出たじゃん☆男のひとは競争って形の方がやる気が出るってっ♪」
「そうでしたっけー?ところでセリアさんー。次の目的地は判ってるんですよねー?」
「当然♪いつか、ほっとどっぐの材料取りに行ったところ。あすこ以外にゃい」
「んー‥?」
ニノンは、首を傾げて記憶を辿ってみました。
「あー!思い出しましたー!あのお下品お料理ですー!なんて物、」
「今ににゃって又怒んにゃよ。あの時、食べてから材料ゆったら、おまえに20発位ぶたれたっけ★でも今は居にゃいと思う。あいつら、暗さって後ろ盾がにゃいと存在出来にゃいみたいだからにゃ♪」
「それはともかくー、材料があんな部分でー、紙芝居まで見せられてー」
「材料は冗談だと思うなっでしょ?セリアっ」
「うむ。美味であったぞ」
「勿論冗談だってば★もしそーだったら、あたしも食べにゃい」
「お姉ちゃん。ホットドッグってソーセージのパンの事でしょ」
「そーだよ☆材料はにゃ」
「もーいいですー!!」

そして。セリア達は次の目的地の神殿に着きました。
「間違いにゃい、ここだ」
セリアは嬉しそうに、耳をぴくぴくさせています。
「ふうふう言いにゃがら歩いてきた日が嘘みたい♪今は転送で1発だからにゃ」
「ちょっと待ってっ?誰か泣いてるっ」
「更に間違いにゃい。そいつが目標だにゃ」
「結界は‥無い様だな」
「あってもアタシが壊してアゲるの★」
「でにゃきゃ、あたしが向こう側に直接転送♪どっちにしても問題にゃい」
「今度はー、長々説得するのやですー。さっさと用件をお話してー、一緒に来て貰いましょうねー?」
「泣いてる子の説得は難しいかもねっ?」
「フン、いざとなったら力ずくで連れ帰れば良かろう」
「それは無しですー!」
「ねえ、お姉ちゃん‥どういうひとなのかなあ」
「すぐに解るよ☆」
皆で一緒に神殿の奥に入って行きました。
そして神殿の地下深く‥
「‥‥?」
泣いていた"彼女"が顔を上げました。幾つもの足音と話し声が聞こえてきます‥音は確かに、こっちへ向かってくる様です。
「‥‥!」
覚えのある"気"です。
"地中"に隠れていた時、空間を無理矢理繋げて接触してきた悪夢世界の猫娘ではありませんか!
他にもドラゴン‥エンジェル‥
足元にも上にも強い力を感じる緑精‥視た事も無い禍々しい気を放つ宙に浮くもの‥これは妖精なのでしょうか。
彼女は唇を噛みました。
今度こそ彼等は、無残な程に弱体化した自分を、完全に滅ぼしに来たのでしょうか?
だけど逃げ出す事も、隠れる場所を探す気力も無くて彼女は、そのまま、数段しかない舞台の階段に座っていました。

「一応"ぎんいろの風"発動準備しとこっかにゃ」
「いきなりキレてー、襲い掛かってくる事は無いと思いますー」
「そだねっ♪でも用心はした方が良いよっ?」
「んー。たまるは、ここのひと、もう悪い事は出来ない気がするよ?」
「だが元が元故、信用は出来ぬ。我が先頭を行こう」
「うむ。矢張りそう易々と、私達の申し出を受け入れるとは思えぬしな」
「ザイトさんとハダスさんはー悪いけど後ろですー★」
「むぅ」
セリア達は1番奥に到着しました。"彼女"が居ました。亜麻色の長い髪。ローブと呼ばれる黒い服。杖も何も持っていません。白い肌。泣き腫らした目‥
舞台の階段に座ったまま、こっちを見ています。
「にゃう、えーっと」
「矢張り、あの時の悪夢の娘か。此処に何をしに来た。
今度こそ何も残さず我を滅ぼしに来たのか」
静かな、だけど透き通った凛とした声です。
「そーじゃにゃいんだよ。
あの時おまえをやっつけにゃかったのは、今日の、お願いをする為だったの」
「願いだと‥?」
「説明しますねー♪」
「解って欲しいからっ☆」
ニノンとリシェルが前に出ました。嬉しそうに翼をぱたぱたしています。
「あのですねー。わたし達ー今回この星のー、全種族の良いひと達の調和のお仕事始めたんですー」
「でも私達だけじゃ無理なんだっ★誰か強力な協力者が必要なのっ」
「色々と検討したんですけどー、やっぱりー、あなたしか居ないって思ってー、呼びに来たんですー♪」
「‥馬鹿な」
"彼女"は淋しそうに笑いました。
「どうして馬鹿げてるって思うのっ?」
「我は知って居る。汝等も知って居ろう。我等神々と、数千、数万もの賢者共が、数千数万もの年月を費やし‥遂に為し得なかった事を」
"彼女"は立ち上がって両手を広げました。
「見るがよい。この様に無にも等しい程に弱体化した我と、汝等とで、一体何を為せると言うのか」
「出来るんですー♪」
「私達ならっ☆」
「あのね、お姉さん」
タマルが前へ出ました。
「お外に出よう?一緒に。見てほしいの。たまる達が皆でした、お仕事」
「仕事とは‥?」
「アナタさっき、数千数万年前って言ったの♪ソノ頃の星の姿、見せてアゲるの★」
「馬鹿な」
「本当なの。アタシ覚えてるの‥ってイウかアノ時、思い出したの。昔々のコノ星の姿」
「有り得ぬ」
「本当だってばっもうっ★とにかく外に出よっ?」
「我は‥最早朽ち果てる迄此処を動かぬっ!」
「しょーがないですー。
セリアさんー、転送ですー!」
「おっけー、りあらいず!
おれんじの扉ぁ!」
転送扉が現れました。
「一緒に来て下さいー!」
「ぬうっ!光精奴が!我に手を掛けるなっ!」
"彼女"が、何か、魔法を使おうとしました。
「おっと!ソウは行かナイの!」
ルディアが飛び出しました。
「ふれー、とぅ、ふれーる!
アナタは全然、何にも、抵抗しナイの★」
ルディアが言い終る前に、現れ掛けた魔法の効果は消えました。叩こうとしても、肘も膝も後ろに引っ込んでしまいます。
「な‥馬鹿な!」
「一緒に行こ、ね?」
「ぐだぐだゆわにゃい!」
こうして"彼女"は無理矢理神殿の外へ連れ出されてしまいました。

外はもう、夕方でした。
木陰が、岩影が、山の影が、淡く、ぼんやりと光っています。真っ暗な所は、何処にもありません。
「此れはっ!」
「解って貰えたっ?」
「めろでぃらいんの結果だよ☆妖精さん達と、もっと小さな精霊さん達の光なの‥たまる達ね、今度は、この星のお友達みんなが、安心して仲良く出来るようにしたいの」
「それにはー、1番重要なのが人間さんなんですー」
「最も障害となる、と言う意味でも有るがな、フン★」
「しゃらーっぷですー!」
「ドウ?思い出せたの?コノ星をアンナ風にしちゃったのは、他でもナイ人間ちゃん達なの★アナタはリアルに見てナガら、どうスル事も出来無かったの」
ルディアが、ふわふわと飛び回ります。
「でも今、またチャンスが巡って来たの☆今度こそ、アナタが、人間ちゃん達を正しく導いて、アタシ達と本当に仲良く出来るヨウに計らって欲しいの‥ってゆってもイイ子とイイ人ダケなの★イヒヒヒ」
「そうじゃ無いひとは、私達にも人間さんにも結構居るって判ってるっ★だから人間さん関係で、この星で1番偉い、あなたに頼みに来たのっ♪‥いいよねっ?」
「ん‥んー‥」
"彼女"は腕組みをして唸りました。
「結果から言おう」
ザイトが進み出ました。
「何も貴方に、私達の同胞に加われと言っている訳では無い。然し、このまま捨て置かれては、貴方がかつての力を取り戻す迄には数万年は掛かるだろう」
「そしてアナタはマタかつてのヨウに闇に染まりタイの?人間ちゃんの欲望と共鳴シテ」
「違いますよねー?あなたはこの景色を見てー、怒りませんでしたー☆」
「お姉さんも、こういう世界が好きなんだよね♪」
「だが然し。貴様には此等のものを守り育む知識も力も無かった‥」
「にゃう、くろたんっ!あのね、だから、おまえに来てほしいの。あたし達の世界」
「何と言った!?」
「私達ねっ、この世界のまだ誰も知らない知識と力、知ってるのっ☆あなたに教えてあげるっ♪」
「概念は‥一応あるんだけどにゃ?」
「だが人間同士、過ぎた主張や布教は許されては居ないのだろう。彼等は極少数ではないか。どうだろう。もし貴方が私達の申し出を受け入れ、且つ此れを会得した者と成ったなら」
「その時点でー、この世界では誰よりも偉くて強いひとになりますー♪」
「そうにゃったら、またこっちに帰してあげる。一緒に行こ?」
「‥‥‥」
"彼女"は考えました。
彼等の言う事に、自分に不利な事や無理な事は1つもありません。
それともやっぱり断って、独りぼっちで神殿に戻るのでしょうか‥
「‥解った。今は、汝等に従おう」
「歓迎しますー♪あのー、お名前聞かせて下さいー」
「ズォ‥いやルォ、‥ルルイエ」
「ズルイエさんですかー?」
「‥ルルイエ、だ」
「わあ、失礼しましたー★じゃあルルリラさんー、」
「ルルイエ!‥だ」
「ちょっとっ、ニノンっ★」
「ごめんなさいー♪」

そしてセリア達は、ルルイエを連れて"自分達の世界"へ帰っていきました。

"主人"を失った神殿。もう誰も戻ってくる事は無いでしょう。
役目を終えたのです。
陽が沈む頃、がらがら、ごろごろ、と音を立てて崩れていきました。砂煙と土煙がもうもうとあがって‥
煙が無くなった後には、たくさんの大きな石の山だけがありました。
何時かは此処も、草や花や樹が生えて、森か野原になるでしょう。
そして色んなひと達が遊びに来るのです。
きっと、その時は、みんな仲良く‥

『つづく』
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