【あんじぇらーむ】第2話:『ぴかぴかの鎧』前編
by MARCY
遠い昔、この世界では、心と言葉を持つ種族は誰でも、その容姿や暮らしの様式に関係なく、仲良く暮らしていました。
不可侵条約とか、そんなものの必要の無い平和な日々を過ごしていました。
だけどヒューマン‥人間族は、水や緑や地下の宝物が沢山ある土地を欲しがって、
自分達ではない種族を魔物とか、怪物と呼んで、追い出し始めました。
誰が見ても何にも無い荒れ地には、見向きもしませんでしたが‥
誰より後に生まれた種族、人間。
誰にも遠慮せず、欲しいままに振る舞う種族、人間。
誰より祝福されていて、何をしても誰にも責められない。自分達同士、諫め合う事もしない。
水も緑も地下の宝物‥資源も、どんどん減らして、どんどん汚して、それでも増えて拡がっていく種族。
それが人間。
いつしか彼等人間は、彼等以外の全ての種族から、
疎うべき者。憎むべき者。呪うべき者と呼ばれ、全ての種族の敵として、攻撃されるようになりました。
だけど彼等、"異種族"が人間に勝った、と言う話は聞いた事がありません。
それもその筈、人間は、腕力はともかく、その知恵。知力に於いて、この世界の他の誰より優れていたからです‥こうして、人間を攻撃した種族達は、今度こそ本当に、魔物とか怪物と呼ばれて、遠い所、人間達が欲しいとも思わない荒れ地や僻地へと追い立てられていきました。
心と、それを表す言葉を持つ者同士なのに‥
欲しい物があるからと、他者を追い出す者と、欲しい物があっても、良い関係を保つ為に、それを我慢する者と。
どっちが偉いかなんて考えなくても解る事です。
でも人間族には解らない様です‥
こうして彼等、人間ではない種族達は、益々、人間達が嫌いになっていきました。そして又、人間達も、彼等‥人間以外の種族達を益々軽蔑して、忌み嫌うようになっていったのです。
今日も人間達は、自分達こそ世界の王、望んで得られない物は何も無い、この星の主人。と言って、威張っています。
自分達が創られ、生まれ、増え拡がる事を許された、
本当の意味も理由も知らずに‥
此処は活動拠点、緑のお城がある森の中。
あちこちで桜の木が、ピンクの花を咲かせています。
お城の入り口前の、森の広場で、セリア達が皆で食事をしています。
「…美味しいですね、この木の実♪」
栗とドングリの合いの子の様な木の実を摘んで、ナンシュアは嬉しそうです。
「アルムの実ってんだ♪焼いてよし、煮てよし、茹でただけでもよし!森の木の実ん中じゃ1番旨いぜ」
コボルト達も、木の実を摘んで嬉しそうです。
「タマル殿が、例の緑の巨人に頼んで下さったお陰ですな‥有難い事です」
ゴブリン達も頬張ってます。殻は4つに割れ目が有って摘むとパチンと簡単に割れて淡い黄色の実がポロリと出てきます。
「チョット、イーイー?」
「殻、割ッテー!」
妖精達も来ました。
「おぉ、どうぞどうぞ」
ゴブリンが殻を割ってあげています。
「あー、そうだ。ふろーら、栄養剤はー?」
「持ってきましたよ、タマルさん☆秋口に生る実を春先に付けてしまったのです。
今年の秋にも、実を付けて頂くために」
フロレットは鞄から、白い容器を取り出しました。
「特に、そのアルムの木々に差し上げましょう」
「…アルムって、恵みって意味ですね」
「ええ、良い名前です♪」
「へえ‥そんな意味が有んのか。知らなかったな」
「名前通りだよな♪」
ミルク入りのコーンスープ。馬鈴薯とチーズ入りのパンケーキ。
「半分切って残してあるのは、どうしてですかな?」
「…土に埋めて、増やすためです☆」
「コーンの粒も、持って参りました。今日は貴方方と、この森に暮らす方々の為の畑を造ろうと思うのです」
「畑っ!?うわ有難えや♪」
「これはこれは‥喜んで働かせて戴きますぞ」
「それには先ず、土を柔らかく致しませんと‥場所の検討を致しましょう」
「…耕すのは任せて下さい…岩が交ざっててもサラサラにしてあげます☆」
「周りの木々にも気遣ってあげて下さいね?」
「…解ってます♪」
「では、わたくし達は今日は皆様と、畑造りを行おうと思います。
宜しいですか?セリアさん」
さっきまで蝶々を目で追っていたセリアが居ません。
「あら?」
「お姉ちゃーん?」
「…私、探してみます。ルディアさんも居ないですし」
ナンシュアが空へ舞い上がりました。
「なんしー。てーなさんと、えしぇるさんがね、また兵士さんが来るかも知れないって言って、お城の天辺で見張ってるの。お姉ちゃん達、そこかも知れない」
「…解りました♪」
「あの方々はもう、敵意を持って此処へいらっしゃる事は無いと思うのですが」
「念には念を入れて、って言ってた」
「あらあら‥」
オーク族という種族‥
大きく分けて3種類の種族に分かれています。
がっちりした体に立派な牙を持つ種族。
彼等は真面目で、弱いひとにも親切な、誇り高い種族です。
レッサーオークと呼ばれる、白い豚に似た種族。
彼等は野蛮で乱暴で、好戦的で、オーク達には、オーク以下の者、オークではない者、と呼ばれています。
最後にオーク達がホグと呼んでいる種族。
毛むくじゃらで猪に似た彼等は、文化も言葉も持っていません。
2本足で歩く他は、本物の猪の様です。
繁殖力が強く、他の種族や大きな動物に食べられたりしても、あまり減る事はありません。
その1番上のオークの一団が、緑のお城のある森に来ていました。
「あれー?おまえら、近所の森の、おーくと違うにゃ」
「鎧着てるオークちゃんナンて初めて見るの」
「むぅ‥君らは?」
「るりあに呼ばれて様子見に来たんだけどにゃ♪」
「アタシ達の森に、ようこそなの☆」
ルディアの報告を受けて、オークの一団に会いに来たセリア。
確かに皆、鎧と武器を身に付けています。
「遊びに来たって感じじゃにゃいね‥にゃにしに来たの?」
「うむ、食料の調達に来たのだ。この様に、至る所に花の咲く豊かな森など、久しく見て居らぬ」
オーク達は眩しそうに、木々に咲く花を見上げました。
「なぁんだ、だったらコッチに来るの♪昼食に招待シテあげるの」
「いや、直ぐ、お暇する」
「ソウは行かナイの。マトモな心のお客様は大歓迎なの☆でしょ?セリアちゃん」
「そうそう、この森に来た良い奴は、誰でもにゃかま♪みんにゃ、こっち来て」
「む、そ、それでは‥」
何だか疲れた感じのオーク達‥全部で8人居ます。
一団の中心の、一際立派な体格のオークは、ぴかぴかの銀の鎧を来ています。
「あすこに、お城見えるでしょ?蔦が絡まった緑色のお城が。あすこが、あたし達のあじとにゃの★」
「エージェンシーなの★」
「だから、いーじゃにゃい、どっちでも」
「良くナイの!あー、エヘン。えっとアナタ達、兵隊サンなの?オークちゃん達の」
「いや、我々は兵士だが、この方は」
「‥止さぬか」
ぴかぴかの鎧を着たオークが兵士の肩に手を置いて、ゆっくり首を振りました。
「はっ!はあ‥」
「…見つけました♪」
ナンシュアが舞い降りてきました。
「てっ、天使!?この様な方も君らの味方に付いて居るのかっ!?」
「味方じゃにゃいよ、あたし達の家族だよ」
「…それに私、天使じゃないです。普通のエンジェルです」
「然し貴女は、我々が、その‥プリンシパル、天使長と呼んでいる方であろう!?」
「その橙色の後光が証拠ではないか」
「…わぁ‥あなた達には、これが見えるんですね?
…心が綺麗なひと達なんですね♪」
ナンシュアは嬉しそうに、翼をぱたぱたさせました。
「…確かに私は、今のこの世界では、そう呼ばれてます…だけど本当は、妖精、精霊族なんです。
…本当の天使の方々が地に降りてくる事は、あんまし無いと思います。
…御命令を戴かない限りは決して」
「命令とは?誰に」
「…勿論、神様です♪」
「神とは?」
「それに、この世界、とは」
「はいはい、おはにゃしは、ご飯食べにゃがら、ね」
セリアがオーク達の背中を押しました。
「ぐずぐずしてたら、にゃくにゃっちゃうよ★おまえ等の分のご飯」
「ささ、コッチなの☆」
「…大丈夫です、いっぱいあります♪」
「む、かたじけない」
皆は、森の奥の広場に向かいました。
「おっ!?アンタ等、オークの戦士じゃねえか!
歓迎するぜ、ささ、こっち来て座ってくれよ♪」
コボルト達が、席を大きく空けました。
「すまぬ、馳走になる」
「まぁどうぞ。作って下さったのは、この方ですがな」
ゴブリンが笑顔で、スープを器に注いでいます。
「貴女は‥パワー、力天使!‥と我々が呼んでいる方」
「ナンシュアさんに伺ったのですね?ええ、その通りです。
わたくし達は主の御使いでいらっしゃる天使の方々には、遥か及ばぬ地の者に過ぎません」
「然し、その金色の後光は‥全ての地の者の尊敬を受けるに値する、天使、いやいやエンジェル族特有の物」
「其の様に御謙遜なされては、我々などどうして良いか」
「全ての謙虚な方々に平安が在ります様に。
此処にいらした良い方は、誰でも同等、且つ平等なのです。
どうぞ、先ずは召し上がって下さい☆」
フロレットは、アルムの実を山盛りに盛った籠を、オーク達に勧めました。
「そうだったか‥半月前、この地に現れた奇跡は、あなた方が起こしたものだったのか」
オークがスープの器を、胡坐を組んだ足元に置いて、深く頭を下げました。
「感謝する。あれから人間共の我々に対する態度も、幾分‥柔らかくは、なった」
「…そんな。私達なんて」
「この計画の為に、働かせて戴いているだけに過ぎないのですから」
「アー!アナタ知ッテルー♪」
妖精達が、ひらひらと飛んできました。
「オークノ王様デショー?」
「人間ニ酷イ目ニ遭ッテ、オ城追イ出サレタッテ聞イタヨ?」
「…え!?」
「王よ‥」
「むぅ‥左様。我はオークの王‥名をグラテスと言う。人間共に城を追われ、我を見捨てず忠誠を尽くす、この者達と共に」
グラテスは溜め息を吐いて、従者の兵士たちを見渡しました。
「宛も先も無い、放浪生活を送って居る‥最早この様な我になど、王を名乗る資格など無いかも知れぬが」
「王よ。それは違います」
オークの兵士が、下を向いたまま言いました。
「貴方は確かに、誇り有る我らオーク族の王!」
「そして我々は、名誉有る近衛の者」
「どうして貴方を見限る事など出来ましょうか!」
「むぅ‥済まぬ」
グラテスは立ち上がって言いました。
「世話になった。あなた方から戴いた恩は、決して忘れない」
「いえ、お待ち下、」
その時、皆の頭の上に、大きな影が2つ差しました。
「そう慌てて何処かに行く事無いだろ♪」
「聞こえて居ったぞ。行く宛も無いのであろう」
テーナとエシェルが、皆の前に降り立ちました。
「レッドドラゴン!グリーンドラゴンまでもが」
「矢張り、あなた方も?」
「正解ぃ★家族、同胞さ」
「今回は我らだけではあるがな」
「今度の計画は、皆いっぺんには来れねえもんな」
「ふむ。仕方なかろう」
オークの兵士が、恐々と尋ねました。
「失礼ですが、その体躯は‥お若い方なのですか?」
「いんや、別に失礼でもねえぜ♪よく言われる」
「我が答えよう」
テーナが進み出ました。
「我らは、所謂爬虫類の如くに、巨大な体躯となる事を捨てた者だ。
其の事に拠り、真の力と知識とを得た者だ」
「更に最上の精神、信仰を抱きし竜。それが俺たちさ」
エシェルが進み出ました。
「なあ、いつまでもそんな暮らし、続けてられねえだろ‥俺たちに何か出来る事無えかな?」
「いや然し」
「何なら、この森の、この城に住むとかよ」
「それは出来ない」
「それでは、あなた方に迷惑が掛かる。
あなた方はともかく、我々が此処へ居ると人間共に知れたら」
グラテスは首を振りました。
「間違いなく此処へ攻め込んで来るだろう。先の合戦では人間共も、大勢死んでおるからな」
「ネーネー、ダッテ勝手ニ喧嘩売ッテ来タノハ、人間ノ方デショー?」
「アナタ達、何ニモ悪クナイジャナイ」
「そうは行かぬのだ。我々もそう思う。だが然し、この世界は人間共の、」
「お待ち下さい」
フロレットが遮りました。
「わたくし達は、正に其の様な事を正すべく、この地へ来たのです。
先程お話した事は、この事の、言わば下地を整える為でした」
「…全ての種族の良いひとが、仲良く暮らせる為に」
「そうさ、まぁ見てくれよ!信じられるかい?」
「かつて、この地で、異種族同士が共に協力し合って暮らす‥この様な事が、有りましたかな?」
コボルトとゴブリンも進み出ました。
「この方々は確かに、我々の同胞。最も頼りになる、心強き同胞です」
「ネー、相談シテー?」
「何カ出来ルカモー」
「そうさ♪言ってくれよ。もし俺たちの主、全能の主の御心ならば、」
「ええ。貴方方の為に、何か成せるかも知れません」
「むうぅ‥」
グラテス達は唸りました。
「解った。済まぬが、相談に乗っては呉れぬか」
「そうこなくっちゃな★
所で猫娘ちゃんよぉ。ひとが真面目な話してるってのに、何ぱくぱく物食ってんだよ」
「にゃう?だってあたし、こいつら探しに行ってて、
お昼ご飯食べてにゃかったもん♪」
「此れだからよぉ‥★」
それから皆は、今日する事の相談を始めました。
大きく分けて、畑造りと、お城‥グラテス達の住んでいた城の奪還。
この2組に、分かれて行動する事になりました。
『つづく』
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