【あんじぇらーむ】第2話:『ぴかぴかの鎧』中編
by MARCY
ごうごうと音をさせてテーナとエシェルが飛んでいます。
テーナの背中にはグラテス。
エシェルの背中にはセリアが、それぞれ乗っています。
「では手筈は良いな?」
「かたじけない。貴方方には本当に世話になる」
「フッ、気にする事はない」
「人間の兵隊達、上手い事来るかにゃー?」
「来なかったらそれ迄さ♪先に城下町の復興、やっちまおうぜ」
「聞けば聞く程腹が立つの‥やっぱしケインちゃん呼んだ方がイイかも知れナイの」
「だから、この計画には、けんた呼んじゃいけにゃいんだってば!」
「はう‥低級な方の人間ちゃんには、期待も信用も出来ナイの★」
お仕事の分担‥
フロレットとナンシュアとタマルは、緑のお城の森で、畑を造る事。
その他は全員、グラテス達が住んでいたオークの城と城下町を取り戻す事。
人間達は、オーク達を街から追放しただけで、其処に住み着いては居ないので、取り戻すだけなら簡単なのですが‥
「おお、桜が咲いて居る」
「綺麗なもんだぜ♪」
「あなた方は、あれをサクラと呼んで居られるのか。我々はシェリ、と呼んで居る」
「ふーん♪にゃあ、取り敢えず、広場に着いたら、転送で戦える奴呼ぶからにゃ」
「かたじけない」
「その前に、あの山越えて例の人間共に挨拶しねえと。復興作業中に来やがったら腹立つだろ」
「うむ。巧く挑発し、あれ等を誘きだし、身の程を思い知らしてやらねばな★」
「コテンパンにやっつけてアゲるの♪セリアちゃん、チャンと手筈通りにスルの」
「任せにゃさい★」
「更に‥我に考えがある。後程フロレット殿とナンシュア殿が駆け付けて来る手筈になって居るが、諸君。彼女等が着いたら、膝を着き、胸に手を当て最敬礼して貰いたい」
「むぅ?どう言う事か」
「人間共の建前と、偶像崇拝の概念を利用すんのさ♪事を出来るだけ、丸く収めてえからな★」
「そーそー☆」
「イヒヒヒ★」
訝しげなグラテスを余所に、
セリア達はニヤニヤしています。
お城は、まだずっと先。
ドラゴン達の翼でも、夕方まで掛かるでしょう。
だけどセリアは、知っている場所にしか転送は出来ないので、どうしても今日中に着かなければいけません。
幸い人間達の街は、其のずっと手前なので、わざと立ち寄って、わざと誘きだして、もう2度とオークの街へ攻め込んで来る事が無いように、懲らしめておく必要があります。それには‥
「見えてきたぜ。あれかい?生意気な人間共が住んでる街ってなあ」
「うむ‥間違いない」
「そうか。‥行くぞ★」
テーナとエシェルが更に速度を上げました。
桜の花があちこちに咲く、低い山に囲まれた街。
周りには広い畑や牧場‥
壁に囲まれた大きな街に、人間達が暮らしています。誰もが楽しそうに。誰もが嬉しそうに。でも‥
「おいっ見ろ!ドラゴンだ!」
「赤と緑、2体居るぞ!」
「背中に何か乗ってるぞ」
「まさかドラゴンライダー!?」
「いや待て、あれはっ!?」
街の上を低くグルグル周りながら飛び回るドラゴン達。
テーナの背に乗ったグラテスが、大声で叫びました。
「我はオーク王グラテス!これより君等人間に侵攻、破壊された我らの城、我らの街を奪還、復興する!だが其の前に君等人間に話したい事がある!この街の先の丘へ来られたし!」
それだけ言うとグラテスはテーナを促して、山の麓の小高い丘へと向かいました。
「ドラゴンに!」
「ずっと前に追放されたオークの王がドラゴンに!」
街は大騒ぎになりました。だけど街の兵士達は落ち着いていました。
「見たか。片割れの緑竜には猫娘が乗っていたぞ」
「生き恥を晒しに、おめおめ戻ってきたばかりか、唯1人で我々に啖呵を切るとは馬鹿な奴だ」
「あの竜にしても体躯が小さすぎる。子供の竜だな」
「全く恐るるに足らぬ。今度こそ、あの首を刎ねて息の根を止めてくれよう」
「出撃命令を!」
さて、セリア達は街から少し離れた丘の様な広場に着きました。
「ソレじゃセリアちゃん!」
「おっけー♪りあらいず!おれんじの扉ぁ!」
現れた転送扉にセリアは飛び込みました。
「まぁ人間共も慌てて走ってくる訳でもあるまい。隊を整えて来るだろう」
「だよな★ゆっくり待ってようぜ」
「むうぅぅ‥」
「心配要らナイの☆アタシ達に任しとくの」
一方森の広場では、
「おうっ!待ってたぜっ!」
「微力ながら、私達も働かせて戴きますぞ!」
「ちょっと待って☆りもん‥人魚も呼んでくる♪」
「はぁ?何でだよ」
そしてグラテス達が待つ広場では、
「来たぜ★」
「ほう、迅速ではあるな」
「‥‥‥」
「だから心配要らナイの☆」
人間の兵士の隊列が向ってくるのが見えます。
其の数凡そ‥1000人位。
其の兵士達は笑いを噛み殺していました。
「見えるか?」
「ああ、確かに。ククク‥」
「橙色の光が見えたから何事かと思えば」
「仲間を呼んでいたのか。然し、其の仲間が‥フフフ」
「コボルト数匹。ゴブリン数匹。猫娘に人魚」
「子供の竜2匹に妖精1匹。そしてオーク8匹」
「全く問題にならぬ、ククク」
「100人位で良かったのではないか?フフフフ‥」
「もぉ、ちょっと猫ちゃん!わたし今休憩中だったんだからね!」
「まー怒るにゃ。人間の説得は、力の行使だけじゃ難しい。心にゃごむ、イベントが必要にゃの★」
「何それぇ」
「30分以にゃいに帰してあげるから♪」
「ふーん?いぃけどぉ?」
兵士達の隊列が止まりました。セリア達が立つ小高い広場を取り囲む様に。
広場の直ぐ後ろは山。
桜があちこちで咲いてて、濃いピンクの花びらが、ヒラヒラと飛んできます。
グラテスが進み出ました。
「人間よ。あなた方は現世の欲に駆られ、隣人の土地を侵し、欲しいままに暴力を振るい。治まる事なく、止む事なく、地にのさばり返っている。
我らが、あなた方に、其の様な事をした事が有っただろうか?
あなた方は、この地で最も優れた者と自称しているが‥果たして、欲のままに動く者と、欲を押さえ生きる者と。どちらが優れているだろうか。
今日、我は、あなた方に、この事を伝える。
隣人の土地を侵してはならない。
あなた方が望まぬ事は他者にもしてはならない。
正当な報復の他は、一切の狼藉を行ってはならない。そして今、報復の権利は、我らの手に在る。
然し人間よ。もしあなた方が、今後は悔い改めて、心正しき者として生きるなら。‥我は、この権利をも棄却する用意が有る。
人間よ、どうだろうか。
あなた方の意見を聴かせて貰いたい」
兵士達が進み出ました。
「オークの王よ。お前の意見は尤だ。だが我々は人間。お前達は魔物ではないか」
「人間こそは、この地で最も祝福された者。最も賢き者にして最も優れた者。お前達の意見等に」
「あーもー退屈退屈退屈なのーっ!!」
ルディアが叫びました。
「アナタ達って教養が低過ぎるの!ぐだぐだ弁解スルばっかりで、イイ事ナンかナンにも出来ナイの!だからアナタ達にも解るように、アタシ達の"力"見せてアゲるの!アナタ達が2度と乱暴な事、出来ナイ様に!!」
「ほぅそうか。そうだろう矢張り。全隊、突撃!!」
「セリアちゃん★」
「おっけー、りあらいず!きんいろの星ぃ!!」
金色の閃光。セリアが空に投げ上げた光の珠をルディアが捕まえました。
「あるる、えるる、ふれー、いしゅ、ぱるふぇす!!」
「おぉ!ルディア殿が」
「一瞬ケインに見えたぜ!?」
"金色の星"は更に輝きを増して白金の様です。
「セリアちゃん!いんびんしぶる・すたぁ!発動なのっ!」
「行くぞおっ!みんにゃ無敵に、にゃーあれっ☆」
セリアは空中で星を破裂させました。忽ち目が眩む程の真っ白な閃光が広場の皆を包み込みました。
兵士達も目が眩んで動きが止まりました。
そして閃光を浴びたセリア達の体がキラキラ光りだしました‥勿論、オーク王グラテスも。
身に着けた、ぴかぴかの銀の鎧が、古ぼけて見える程に、其の体は輝いていました。
「おおっ‥これはっ!?」
「うおぉキタキタキタキタあっ★」
「何一つ、恐れる物は無い!そんな気が致しますな!」
「ゆっとくよ、殺しちゃ駄目だからにゃ!懲らしめるんだからにゃ!?」
「ククク、解って居るわ★」
「手加減してやりゃ良いんだろ♪」
「ソレじゃ!!お仕置きィ、開始なのォッ★」
「おのれっ!魔物風情が何を言うかっ!!」
戦闘が、いえ、大喧嘩が始まりました。
人間の兵士達は、一生懸命武器を振り回して、セリア達を倒そうとしましたが、傷一つ付ける事が出来ません‥それどころか、
仲間達が次々に殴られたり蹴られたり投げ飛ばされたりして、空中に吹き飛んでいきます。
「来なっ!アンタ等兵隊なんざ俺1人で充分だぜ★」
コボルトが、人差し指をくいくいしました。
「ぬうっ何をほざくっ!」
「生意気な!死ねっ!」
兵士達が取り囲みます。
「へへへ‥疾風!迅・雷!」
花びらがみっちり付いた、大きな菊の花。其の花びらが中心から次々に舞い飛ぶ様に、兵士達は、手足をばたばたさせながら、次々に吹き飛んでいきました。
「馬鹿なっ!?たかがコボルト如きに!?」
「おっと。あなた達のお相手は私だ★」
ゴブリンが不敵に笑って立ち塞がりました。
「憤っ!」
体当たり。20人位の兵士が吹き飛ばされました。
「覇っ!」
正拳突き。10数人の兵士が将棋倒しになりました。
「討っ!」
気合いを込めた薙払い。30人位の兵士が打ち倒されました。
「りあらいず!ぎんいろの、風ぇっ!」
「と、止まったっ!?」
「ずるいぞっ!貴様ぁっ!」
「フハハハハハハ!無駄だ無駄だ」
「そうそう、弱い!弱すぎんだよアンタ等★」
一方グラテスは、兵士の隊長と向き合っていました。
「‥それは魔剣、"死の配達者"か」
「フン知っていたか。得体の知れぬ仲間を連れて来たとは言え、武器も取らずに私の前に立つとは。舐められたものだ。それとも、それ程迄に愚かなのか」
「フッ‥」
グラテスは答えずに静かに笑いました‥
「ぬうっ!オーク王、勝負っ!」
隊長が魔剣を振り上げ切り掛かりました。
ガッッ。
グラテスは素手で刄を掴みました。
「なっっ!?」
「‥見るがいい、人間よ。此れが、光に向き合い、此れを受け入れた者にのみ許される、真の力だ」
そう言うとグラテスは、空いた左手に力を込めました。
「はあああああっ‥!」
バキィッ!
魔剣の刄は砕け散ってしまいました。
「ばっ、馬鹿なっ!我が魔剣がっ!?」
「はあああああっ‥!」
グラテスは今度は右手に力を込めました。
どっかぁん!
隊長は、魔剣の柄を握ったまま、手足をばたばたさせて、高く舞い上がり、弧を描いて飛び、見る見る小さくなって、桜の花があちこちに咲く、山の向こうへ消えていきました。
「たたた、隊長ーっ!!」
‥もう立っている人間は誰も居ません。皆その場に、倒れこんだり座り込んだりしています。
「コレで解ったの?アタシ達に悪い事スル子は誰でも、コノ様にされるの★」
ルディアが言い終る前に、遠くに金色と橙色の光の点が見えました。
「来たか」
「良いな?」
セリア達は目配せし合いました。
「あれは‥?」
兵士達も光の点に気付きました。
ざっ。
セリア達は、一斉に右膝を地に着いて、右手を胸に当て、深く頭を下げました。
「何をしているのだ‥?」
「いや見ろっ!あれは!力天使と天使長だっ!」
「馬鹿な‥あの様な方々さえも、あれ等の味方に付いて居るのかっ!?」
兵士達が騒めきました。
「…フロレットさん、皆さん、お辞儀してますね?」
「其の様ですね?どう為されたのでしょう。まさか」
「…まさかです、もう★」
「仕方ありませんね。決して感心出来る事ではありませんが、人間の方々への教示として、彼等の昂ぶりを抑える為に。
主よ、何卒御許し下さい‥わたくし達も合わせましょう」
「…はい♪」
フロレットとナンシュアが地に降り立ちました。
「お顔をお上げ下さい、皆さん」
「ははっ!」
「(もう★)…兵士の皆さん…オークの王の言葉を聞きましたか?」
「はっ!?はっ、先程」
人間達も居住まいを正しました。
「あの言葉は、わたくし達が彼に伝えたものです。
彼は此れを受け入れ、自らも悔い改めました。
人間の皆さん。貴方方は、如何でしょうか。
彼と同じく、此れを受け入れるでしょうか。
それとも此れを拒み、彼でさえも受け入れた事を、受け入れなかった者となるのでしょうか」
「…私たちは、貴方達が此れを受け入れると解っています。
…何故なら、この言葉は、他の誰より先ず、人間の皆さん。
…貴方達の為に、天に居ます全能の主より、降されたものだからです」
「なっ‥!?」
「我々の為にだと?」
人間達が再び騒めき始めました。
「オーク王よ。お前は何故、魔物でありながら、この天使方の言葉を受け入れた?」
「何故、と聞くか」
グラテスは、静かに話し始めました。
「何故なら我は、此れ迄に、あの様な良い言葉を聞いた事が無かったからだ。
誰か我々の内に、あなた方の内に、あの様な言葉を行っていた者が在っただろうか?
言っていた者が在っただろうか?
1つの事象につき、幾つもの言葉がある。
其の中でも最も良い、不変の言葉。
此れこそが真理であり、真実である。
だから我は、此れ迄の数々の至らぬ言葉を捨て、この真理を受け入れた」
『つづく』
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