【あんじぇらーむ】第3話:『秘密の牧場』前編
by MARCY
桜の花が散りました。
それを待ってたかのように他の木々が花を咲かせ始めました。
あちこちで、ぽつぽつ咲いてた花も満開になっています。色んな香が交ざり合って空気は花の香です。
栗鼠や野鼠が走り回っています。小鳥が次々に飛んできます。そして‥
「きゃははははっ☆」
「タマルチャン、コッチコッチー!」
「ナニヨー、コッチモ凄イヨー♪」
森の一角、木々が丸く周りを囲む岩場の花畑。
タマルと妖精達が遊んでいます。大きな岩の周りに、地面が見えない位、花が咲き乱れています。
「畑、モウ出来チャッタネー。凄イヨー、簡単ニ造ッチャウンダモン」
「ネエ、細イ筒ニ穴開ケテ、オ水ヲ少シヅツ流スナンテ、誰ガ考エタノー?」
「皆で考えたんだよ♪お水を無駄遣いしないようにって、色んなあいであ出して結局あれに決めたの☆」
「ポテトト、コーンカー‥キャー!採レルノ楽シミー♪」
「今日はね、近くの森のひと達にも、畑の事、教えに行くんだよ。ひゃっ!」
ばしっと音をたてて、水色の羽の大きな蝶がタマルの頭の赤い花に止まりました。
「くすぐったいー☆」
「羽キレーイ!真ン中ニ翠ノ大ッキナ点ガアルヨー」
「あー、たまる、やっぱしここに居たにゃ♪」
セリアが迎えに来ました。コボルトやゴブリンも一緒です。
「よおタマルちゃん、そろそろ出掛けようぜ」
「私たちの同胞にも、出来るだけ早く伝えて差し上げたいですからな♪」
「そだね、解ったー☆」
タマルは花を踏まない様に、岩を器用に飛び移って広場から出てきました。
「こっからも見えるよなー俺たちの家、じゃなくて城が‥」
「タマルさん。あの時あなたが言ったグレンカストレとは、どういう意味なのですかな?」
「ぐれーん・かすとれ。緑のお城って意味だよー」
「文字通りだよにゃ☆」
「そっかー。なあ、あの城にも名前とか付けた方が良いんじゃねえかな?」
「おお!良いですな★」
「にゃまえ?」
「んー‥こうゆう事は、お姉ちゃんに任せるー♪」
「あたしが!?むー‥勝手に付けていいのかにゃ」
そのお城の手前の広場。
アルギムとザイトとフロレットがなにやら相談しています。
「ですが人間の方々にも、ある程度は気遣って行うべきでしょう?」
「うむ‥彼等とて自分達の領域迄もが侵食される、と言う懸念が生ずれば黙っては居まい」
「不可侵条約は互いに守られてこそ、ではあるが。然し今回は、人間共が不当な手段で入手した土地を同胞共の元へ取り戻す事も目的に含まれて居る。或いは、ある程度の諍いも避けられまいとは思うが」
「確かに」
「ザイトさんの仰る通りでもありますね‥何とか諍いや争いは避けたいのですが、良い方法は無いものでしょうか」
そこへセリア達が戻ってきました。
「ほぺ、や、ぺあせ、じゃ何か変だよー」
「待って、にゃんか有った他にも‥れりえ!」
「お帰りなさい皆さん♪何の御相談ですか」
「ふろーら!あのね、この城のにゃ前、にゃんにするか考えてたの」
「まあ!タマルさんがお造りに為られた、このお城の?」
「最後の言葉はレリエフ‥安心という意味だな」
「そーそー!流石あるぎむ知ってるにゃ☆」
「まあ、この位はな★」
「レリエヴェ、とも言うが安堵の城、か。中々良いな」
「それじゃあたし、発音出来にゃいよぅ★」
「フフフ☆ではセリアさんに合わせてレリエの城、と呼ぶ事に致しましょう」
「良いですな!賛成です」
「おおーっ!なんかこう、やったぜ♪って感じ?」
「れりえのお城だね☆たまるも、そう呼ぶ」
「素敵ナ名前ー♪」
「にひひ☆所で、にゃんの相談してたの?」
「ああ、そうでした。お隣の森の方々へ、菜園の指南をさせて戴くにあたって」
「うむ‥あの辺りは直ぐ傍に人間共が運営して居る針葉樹林が在ってな、」
そして此処は、先週完成した森の畑。沢から細い筒で水がひかれて、もう緑色の芽が綺麗に並んで伸び始めています。
「えへへっ☆森の匂いと土の匂いかっ。この匂い大好きっ♪」
「愛情溢れるお世話で、野菜ちゃん達もすくすく伸びてるの★」
「ナンシュアサン、固イ土ヲ、一瞬デフカフカニ柔ラカクシチャッタシー、」
「リシェルサンハー、集メタ枯葉トカヲー、一瞬デ灰ニシチャッタシ!」
「じわじわ焼いたら火事になっちゃうでしょっ。アークフレアなら、一瞬だよん♪」
「得意術ガ、ソノママ誰カノ為ニナルナンテ、格好良イー☆」
「イヒヒヒ★リシェルちゃん、格好良い序でに、コノ畑も祝福シテあげるの!」
「そうだねっ。ルディアちゃん増幅お願いっ!」
「OKなの、えくすてんど!」
「モード・オブ・フィランターッ☆」
赤く淡い丸い光が、大きく大きく膨らんで‥
ぱちん、と弾けて。じんわりした震えるような感じが、辺り一面に広がりました。
「イイ感ジーッ☆」
「ネーネー、聞イテ聞イテー!ピシピシ音ガシテルー!」
妖精達が、まだ小さな緑の芽に耳をあてて嬉しそうにはしゃいでいます。
畑を囲む木々の葉っぱが、さわさわと揺れています。黄緑色の若い葉っぱが沢山開いています。
「ネーネー知ッテル?今日行ク森ノ近クニ、杉ノ林ガアルノ」
「そうなのっ?」
「人間ガ昔造ッタノ。建物ヲ造ル為ノ樹ヲ、確保スル為ニ」
「昔ハ、綺麗ナ花ヤ美味シイ実ガ、イッパイノ素敵ナ森ダッタノニ」
「ネー★」
「マタ人間ちゃん達の悪事のお話なの‥」
「でも今は大人しくしてるんでしょっ?ちゃんと杉の森があるからっ」
「ソウネー。デモネー」
そして、レリエの城の手前の広場では‥
「にゃる程。んじゃ人間が、あいつらの森に入ってこれにゃい様に、森に囲いしちゃおうか」
「お姉ちゃん、それじゃ樹が凄く沢山要るよー★」
「にゃう」
「それでは本末転倒ですね‥ですが人間の方々が、あの森の方々に今後干渉為さらない保障は。何処にも有りませんし」
「うむ。だが互いの森を隔てる道位は在るだろう」
「広げちまうかい?働くぜ、おれ達♪」
「人間共も道によって互いの土地を隔てる、と言う概念は持って居るからな。
私達も協力しよう」
「待って。道って言えば街路樹、だよにゃ♪」
「あーそっか!お姉ちゃん、あったま良いー☆」
「道の端に、樹を植えるのですかな?」
「ああ、それは良い考えですね!それなら樹々を殖やしつつ、互いの土地を守る事も出来ます☆」
「ふむ面白い★ザイトよ、我等も協力するか」
「異議は無い。ならば苗木を用意せねばいかんな★」
「挿し木の枝を用意して
セリアさんに活性化して戴きましょう」
「任せにゃさい♪」
「いっぱい要るよねー☆」
「量次第じゃ拡大が‥って遅いにゃ、りさとるりあ」
そして畑では‥
「針葉樹、ダヨネ?誰モ住メナイモン匂イガキツクテ★」
「葉ッパハ、チクチク」
「樹液ハ、ネバネバ」
「オ花ハ、咲カナイ。実ハ、ナラナイ」
「たーしかに。虫ちゃんや動物ちゃんが棲める針葉樹の森って‥
落葉松位なの、アタシが知ってる限りじゃ」
「へえっ♪ルディアちゃん物知りなんだねっ」
「知らナイ事の方が多いの」
「謙遜しないのっ☆そっか‥人間さんの口実を減らす為にもっ、境界線はキチンと付けとかなくちゃだねっ」
「ドウスレバイイト思ウ?」
「そりゃやっぱし道を判りやすい様に整備してっ‥
トラップフレア仕掛けちゃおっかなっ★地雷みたいにっ」
「ソレじゃダメなのー!」
30分後。セリア達は皆で、お隣の森の前に来ていました。お隣の森と言っても、歩いて行ったら2時間余り。
だからセリアの転送で、皆で、一緒に来たのです。
「街路樹かあっ!セリアやるじゃんっ♪」
「それ程でもにゃい★平和的に済むんだったら、それでにゃ」
「果物の生る樹など、宜しいかも知れませんね☆」
「それには先ず、この獣道の様な道を普請せぬとな。
ザイトよ、準備は良いか」
「うむ。雨降りて地、固まる‥任せて貰おう★」
アルギムとザイトが道‥お友達の森と、人間が造った針葉樹林の、間を貫く細い道の真ん中に立った時、その森のお友達が大勢、走って来ました。
「キャー☆遊ビニ来テクレタノー!?」
「おお!タマル殿も御一緒か」
「良く来た良く来たっ!歓迎するぜっ♪」
「大した物も無い処だが、ゆっくりしてって下さい」
「ちょいと待った。実は今日はおれ達、ただ遊びに来たんじゃないんだぜ★」
「同胞の方々と共に、造園の相談に来たのですぞ」
「ゾウエン?何だいそりゃ」
コボルト族、ゴブリン族、妖精達と、戦士じゃない方のオーク族‥皆、造園という言葉を知らない様です。
それでセリア達は順番に、畑を造る事と造り方を話してあげました。
「そーおか‥あれ、畑っていうのか」
「にゃんだ知ってんの?」
「あなた方‥正確にはケイン殿ですな、あの方が粛正した城塞の人間達なのですが。何やら地面を掘り返して食物を育てて居るとか」
「ソーソー☆ナンカ、不思議ナ道具使ッテ、早ク、イッパイ、トレルミタイ」
「にゃーる程★」
「よかったー☆お腹空いたりしてないんだね?」
「何だよ、あの人間達の事、気にしてたのかい?」
「ええ、結局1度も、お会いしませんでしたし‥」
「アタシ達とシテは、後々の為にも気掛かりな事は少ない程イイの♪」
「なーる程な★」
「やはり、何者にも親切なのですな‥あなた方は」
「そゆ訳じゃっ★ね、フロレットさんっ?」
「いいえ、そういう事です。済んだ事で尚、彼等人間の方々を‥」
「責め立てたり、辛い立場に置き続ける事は正しくありません」
「其の通りだ。我等の目的は調和なのだからな」
「先の計画に因って虐げられし身分にある者が在る事は、望ましくない」
「重ね重ね、なる程」
「そりゃ心配ねえんじゃねえかな?母体の街が潰れちまったし、結構、気楽で楽しそうだったぜ♪」
「あ‥にゃう」
「母体都市は‥滅んでしまったのでしたね」
暫らく皆、黙ってしまいました‥
この世界の平和を願って実行して、成功させた、先の計画『メロディライン』‥でもそれに因って10万人以上の人間が、死んでいるのです‥
だけど今回の計画‥
『アンジェラーム』は、変換ではなく調和の計画です。
「せめて今回の計画では‥ただ1人の方も、命を落す事の無いように計らわせて戴かなくては」
「うむ。然し、先々週より確かに、未だ1名も命を落しては居らぬぞ?我等の同胞も人間共も」
「そうだ。アルギムよ、私達も充分に留意して、この先もこの調子で行こうではないか‥心正しき者はどちらか。故に、正しき主張をしている者はどちらかを、人間共に解らせる為にも」
「うむ。其の通りだ」
「‥正直、ちょいと気に入らねえけど、あんた等がそう言うんだったら従うぜ」
「ああ。我々も『調和の成された世界』と言うのを見てみたい」
「フフフフ‥其方等の賛同、心強く思うぞ★では手始めに、この細き道を、判り易く拡げてやろう」
「うむ★同胞の諸君、見て居るが良い」
再びアルギムとザイトは、道を挟んで立ちました。
「ちょっと避けてにゃいといけにゃい」
「そうですね、済みません皆さん、お下がりになって下さい」
「危ないよっ★」
皆が下がって2名のドラゴンがする事を、固唾を飲んで見守っています。
「何もそう緊張する事はない★我等にとっては何も大した事では無い」
「そうだ★‥とは言え」
アルギムとザイトは目配せし合って、先にアルギムが胸に手を当てて祈りました。
「‥我等が主よ。もし御心ならば、我等が同胞と人間とが、互いに分を守り暮らす事が出来る様に、この術を行う事を許し給え」
そう言うとアルギムは、緩く曲がった道へ手を差し伸べて静かに言いました。
「地よ。我が前に、正しき道を示せ」
忽ち地面が、ぼこぼこと波を打って、小刻みな津波の様になって、草や小石を跳ねとばしながら、一直線に『流れて』行きました。
後には広い、平らな道が出来ていました。
「おお‥っ!?」
「すすす、凄えっ!!」
「次は私だな」
ザイトが進み出ました。
「全能で在らせられる私達の主よ。願わくば、この道を固め、確かな印とする為に水無きこの場所に、水を喚ぶ事を許し給え」
ザイトは両手を空に差し伸べて、静かに言いました。
「雲よ、来たれ。この場所に潤いを与える為に」
すると、見る見る内にザイトの上に薄い霧が集まって、濃く白い雲になって‥
ぐるぐる渦を巻きながら、出来たばかりの道の上を、ゆっくりと進んでいきました。道の土は、ぶよぶよに湿っていました。
「お水の扱いは、りもんより凄いかもにゃ‥」
「リモンちゃんは、まだこうゆう事、出来ないよっ♪」
「でも、どらごんさん達、必ず『もし御心ならば』って言うよねー?」
「だから格好良いの♪」
「さあ、後は土が乾き、固まるのを待つだけだ」
「細かな石を敷くなり、平らな石を並べるなり、其方等の好きにするが良い」
「か、感動したぜ‥!」
「何という力か‥」
「さあさあ皆さん、わたくし達の皆さんへの本来の提案は、造園と街路樹についてです♪早速ですが、用件に入らせて戴きたいのですけれど?」
「うむ!馬鈴薯と玉蜀黍も持ってきて居るぞ★」
「有難い、本当に有難い。ささ、皆さん。我々の村へ」
皆は、賑やかに森に入って行きました。
その頃、レリエの城の森では‥
「良いとこだなあ‥素敵なとこだなあ‥」
子馬が1匹、辺りを見回しながら歩いていました。
真っ白な体、薄い桃色のたてがみ。頭には長くて鋭い角が1本。
一角獣‥ユニコーンの子供の様です。
「こんなとこに住めたらなあ‥あれ?あの緑の山、何だろう?」
トコトコ歩いて行きました。
『つづく』
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