【あんじぇらーむ】第3話:『秘密の牧場』中編

     by MARCY




ユニコーンの子供は、レリエのお城の前の広場まで来ました。

「ひゃっ!?」
ぶん、と空間が揺らぎました。慌てて飛び退いて、木陰に身を隠します。

オレンジの扉が現れて、セリア達が、賑やかに扉から出てきました。

「次は果樹の挿し木の調達ですね」
「少しだけ、成長早めてあげようねー♪」
「果物並木かっ、すってきじゃんっ☆」
「にゃんか好い感じに、お仕事進んでくよにゃ」

「なあ。所で、あのハーフエルフの娘、どうしてっかな」
「ドウって普通に暮らしてると思うの」
「‥えっ?あなた方と共に、この計画に参加して下さるのでは無いのですかな」
「それは違うぞ」

アルギムが言いました。

「あの者は、計画完了の後の時代、調和の識となる者として呼び戻したに過ぎぬ。我等と共に行動をとらせ負担を掛ける訳には行かぬのだ」
「ルルイエさんの事もありますが、あの方まで、わたくし達の所へ、お連れする訳には参りませんし」
「ルルイエって誰だい?」
「ナイショなの♪」
「この世界で1番、おまえらにも人間にも頼りににゃる奴として、戻ってくる予定だから。にひひ★」

セリアはレリエのお城を見上げました。

「安心のお城か♪良い感じだよにゃ」
「お姉ちゃん。この森の名前は、どーしよー?」
「にゃう、森?」
「おお、そうですな。彼らの森にもフォーンと言う名がある事ですし」
「森かあっ、良いんじゃないっ?セリアっ」
「むー‥」

セリアは腕組みをして、暫らく考えていましたが

「調和を表す言葉って、にゃんだったっけ」
「ハルモニ、ですね」
「はるも‥にゃう、はるもんの森で良いかにゃ?」
「ほう、良いな。調和の森か私も賛成だ」
「ハルモンの森のレリエのお城かー‥たまるも賛成☆」
「調和と安心か!凄えぜ、それで行こうぜっ!」
「どしたのセリアちゃん、冴えてるの★」
「からかうにゃよ‥」

「調和と安心かあ‥すごく良い言葉だなあ‥」
木陰から怖ず怖ずとユニコーンの子供が出てきました。

「あ、あの‥」
「ユニコーンか。其処に居る事は判って居ったがな」
「ひゃっ!」
「ハハハハ、アルギムよ、恐れて居るではないか★怖れずともよい、傍へ来るが良い」
ザイトとアルギムは、どかっと胡坐をかきました。

「こ、今日は!」
「わあ、ゆにこーんさんだ!初めて見るー☆」
「アタシも見るのは初めてなのドコから来たの!?」
「きれーいっ♪ちょっと触っていいっ!?」
「リシェルさん★ですが本当に美しい方ですね」
「ふーむ‥変わった馬だにゃ、おまえ」

あっという間に人気者です‥ユニコーンの子供は皆に囲まれて、困った様にモジモジしています。

「名は何と言う」
「あの、イース、です」
「いーす。呼びやすいにゃ。いーすは、ここに、にゃにしに来たの?」
「なんか素敵な所だなあって思って‥」
「おお、そうか!なら遠慮は要らぬ、君も私達の同胞となり、此処に住むが良い」
「良いんですか!?」
「うむ。我等は此処を‥この森を美しい、と思う者なら誰でも歓迎する。汚す者には相応の懲らしめを与えはするがな★」
「はい、あの、でも‥」
イースは俯きました。

「どうした」
「僕は、人間が、その‥僕の角がどうとか言って、いつも追っ掛けてくるんです。僕がここに居るってばれたら、皆さんに‥」
「むー‥近くの街の奴、にゃっ得はしてくれたけど」
「不可侵条約まで結んだ訳じゃ無いもんねっ?どうするセリアっ。牧場とか作ってあげよっかっ♪」
「あー、それいいにゃ☆秘密のまきば作って、こいつ隠してあげよう」

「まきばって、いーすさん閉じ込めちゃうの?」
「閉じ込める訳じゃにゃいって♪どっちみち作る予定だったしにゃ」
「うむ、あまり大きく場所を取る訳には行かぬが、牧畜の指南もせねばならぬ」
「ええ、そうでしたね。羊や山羊を調達する事が先決ではありますけれど」
「イースよ、それで良いか?君には家畜共の番を任せたいと思うのだが」
「ええっ!?いきなり言われても、その‥」

「事は急を要する。我等も、あまりのんびりとしては居れぬのだ。それに其方なら家畜共に心労を掛ける事無く、統率する事も出来るのではないか?」
「でも、まきばかー」
「あのにゃ、たまる。いーすだけだったらともかく、羊とかが畑や、はにゃ畑に入っちゃまずいでしょ」
「あ、そっかー♪」
「畑まであるんですか!?」

それから皆は、相談を始めました。仕事は次から次へと増えていきます‥

だけど皆、とても楽しそうです。結局、タマルお気に入りの花畑と先日造った畑とを避ける様に、草の茂った場所を広く囲って、牧場を造る事になりました。

「そんじゃ、そゆ事で!明日から始めるからにゃ」
「場所の下見は、今日中にしておいた方が良かろう」
「そうですね。印を付けて置きましょう」
「大変そうだけど、何だか、わくわくするなあ♪」
イースは嬉しそうに蹄をトカトカ鳴らしています。

「ねえ、妖精さん達、帰ってくるの遅いね」
「そいやそーだにゃ」
「フォーンの森と、ココ‥ハルモンの森を、アノ娘達の道で繋げてるの。も少し時間かかると思うの」
「ぱぱっと、つにゃがんにゃいの?」
「パパッと空間繋げられるのは、セリアちゃん位なの★」
「にゃう、そっか♪」

広場の隅っこに、白詰草が丸く囲んだ場所が。
ハルモンの森のあちこちにある『妖精の道』の1つです。

「ねえ、いーすさん。ぺがさすって知ってる?たまる、見た事ないの」
「あっ、ペガサスは僕と同じ種族です!と言うか殆ど同じなんですけど」
「同じなのー!?」
「はい、僕たちも少しの間なら、翼を出して飛べるんですよ。僕はまだ小さいから無理ですけど‥」
「そっかー。じゃあ大きくなったら、たまるの事、乗せて飛んでほしいな」
「はいっ♪」
「ま。タマルさんたら」
「よし!ではそれ迄、我が背に乗せて飛んでやろう」
「きゃー☆」

その時、広場の隅っこの妖精の道が、ぼんやりと光りました。

きらきらした光の粒を飛び散らせながら、妖精達が帰ってきました。

「タダイマー!繋ガッタヨー!」
「モウ、何時デモスグニ、フォーンノ森ニ行ケルヨー☆」
「御苦労様です♪貴女方の働きに感謝致します」
「エヘヘー☆ネー、オ腹空イター!」
「だよな★なあ、でもその前に、ちょっといいかい?」
「この森の名前を、知ってますかな?」
「エー?コノ森ニモ名前付イタノー?」

それからフロレット達は昼食の支度を始めました。
スープの鍋を火に掛けようとした、その時‥

「大変ー!皆来テー!」
フォーンの森の妖精達が、妖精の道から飛びだしてきました。

「オ友達ダー♪イラッシャーイ」
「今日ハー☆ッテ違ウノー!!」
「どうした、妖精達よ。何か有ったのか」
「アノネー、」
コボルト達も飛びだしてきました。

「人間の兵隊達が来やがったっ!何か見たトコ、勇者みてえな奴まで連れてるっ!」
「頭数は、どの位居る」
「40〜50位かな?全部で」
「なら何の問題も無い」
「うむ。食事の前に行ってくるか」
アルギムとザイトは立ち上がって皆を見回しました。

「そうですね、わたくし達全員で参りましょう」
「追っ払っちゃおうっ☆」
「あんもおっ★マタ人間ちゃん達なのっ!」
「そうゆうにゃよ、るりあ。ぱぱっと片付けよ♪」
「頼む、早く来てくれ!奴らが森に着いちまう前に!」
皆は開通したばかりの妖精の道に入って行きました。

アルギムとザイトは体が大きいので、そのままフォーンの森へ飛んでいきました。

そして此処は、造ったばかりの、針葉樹林とフォーンの森を分ける道の上‥

「この道を見れば人間共も自分達と君達の取り分の分別位、付けられるだろう」
「失礼ですが、そうは思えませんな‥」
「広い道が出来たー、何つって益々、樹を伐りまくらねえかな」
「ソウヨー!絶対ー!」

「街路樹の植樹を急がなくてはなりませんね‥」
「フロレットさんっ★急ぐも何も今こっちに向かってるんですからっ!」
「ねえ、お姉ちゃん、どーしよー‥」
「どーするもにゃにも。るりあ、にゃんか良い考えにゃい?」
「んー‥」

ルディアは腕組みして考えました。

「いんびんしぶる・すたあ、また使うの。コテンパンにシテ、追っ払えばイイの」
「それはいかんな。逆に人間共に、報復の口実を与える事になる」
「前回は、人間共の狼藉に対する報復の形であったから成立したのだ。我等から仕掛けたとあっては、この森の諸君にも後々被害が及ぶやも知れぬ」
「むー‥にゃう」
「失礼、宜しいですか?」

フロレットが進み出ました。

「貴方の敵を呪ってはならない。寧ろ祝福せよ、と書かれています」
「何にだい?」
「わたくし達が信仰する書物です♪」
「ソレッテ、酷イ目ニ遭ッテモ、仕返シ禁止ッテ事ー!?」
「そうです。ですが、この様に読み解く事も出来ます。この事に拠って不義を為す者は、もはや許しを得る事も無く、審判の日に罰を受ける、と」

涼しい風が、すうっ、と吹き抜けました。辺りは花の香に満ちています。

「ネー、デモ、モウスグソコニ、人間ガ来テルンダヨー?」
「解っています。さて?ですが、そもそも彼等が、呪うべき事を行う事が無い様に事前に計らう事は、間違ってはいない、と思うのです」
「悪イ事ガ出来ナイヨウニー?」
「そうです☆貴女方も、わたくし達も、精霊族ではありませんか」

フロレットは悪戯っぽく皆を見回しました。
「妖精の皆さん。御覧下さい数えきれない位、花が咲き乱れています」
「最高ダヨネー♪」
「貴女方は此等のものと同調して『花咲く様な』祝福を、他の方々に与えられる者では、ありませんでしたか」
「アーー!!ソッカー☆」
「そしてリシェルさん。貴女が新しく戴いた『意味』は」
「『博愛』ですっ♪」

「にゃんの事か良く解んにゃい‥」
「『夢を現す者』である貴女が其の様な事で、どう為さるのですか★」
「もしかシテ‥フロレットちゃん、『平和的に』ヤッつけて、お帰り頂こうって訳なの?」
「その通りです★」
「わ。ふろーらの、にやってなった顔、初めて見たー」
「タマルさんたら。僭越ながら指示を出させて戴きます。先ずはセリアさん。人間の方々を暫らく足止め為さって下さい」
「ぎんいろの風だにゃ?解った」
「うむ、我等も聞かせて戴こう」

遠くの方に、兵士の一団が見えて来ました‥
何本も並んだ長い槍の先が上下に揺れています。

「どうか、互いに傷付く事が無い様に、互いに分を守って暮す事が出来る様に、この術を行う事を御許し下さい‥」
「上手く行くといいにゃ」
「人間ニ掛ケルノ初メテー♪」
「間違ってフレア出さない様に気を付けなくちゃっ☆」
「面白ソウなの★チャンと人間ちゃん達、閉じ込めてあげるの」
「いらっしゃった様ですね‥では皆さん、準備は宜しいですか?」

フロレットとリシェルが道の真ん中に立ち、両手と翼を大きく広げて言いました。

「『全てのひとに花を』」

‥人間達の一団が到着しました。兵士が殆どですが、剣士の様な青年と、魔導士の様な女性も居ます。

「これはこれは‥力天使と大天使の方々が我々を出迎えて下さるとは」
(見ろよ‥ゴールドドラゴンと、ブルードラゴン。ハイフラワーにそれからユニコーンまで居るぞ)
(後はコボルトとゴブリンとオークの連中、妖精がわんさか、何だありゃ!?)
(見た事の無いタイプの妖精が居るぞ!?)
(後シャーズが1名‥ってあいつ、尻尾が無いぞ!?)
(何なんでしょう、この取り合わせは)
人間達が、ひそひそと話し合っています。

「ご機嫌よう。貴方方は今日こちらへ、何を為さりにいらしたのですか?」
フロレットの問いに、先頭の兵士が、エヘンと咳払いをして答えました。

「我々の領地であるセダルの林の調査に来たのだ」
「この所、数々の異変や災厄が連続して起きている。我々人間の中にも、いや寧ろ人間だけが、その被害を受けている」
「それでこの様に、何処へ行くにも編隊を組み、勇者殿の助力も借りねばならんと言う訳だ」

「せだるって、にゃに?」
「杉って意味だよっ♪」

「この道は先月来た時は無かった」
「誰が造ったか、知っている者は居るか?」
「我等が造ったのだ。つい先刻にな」
アルギムとザイトが進み出ました。

「其方等、人間達と我等とが互いに分を守り、争いや諍い無く暮してゆく為のよすがとしてな」
「これはこれは‥」
兵士は軽く会釈しました。だけど後ろの兵士達は、互いに目配せし合って笑っています。

「然し、この国の土地に線を引き、我々同士の境界を決めているのは‥我々人間なのだぞ?お前達には、その様な知識や文化があるのか」
「むぅ‥それが、君等人間の悪い所だ」
ザイトが溜め息を吐いて言いました。

「互いに境界を決めると言っても君等人間の間での事だろう。私達には何の遠慮も挨拶も無く、まるで世界の主人でもあるかの様に、勝手に土地に線を引く事は正しくないぞ」
「お前達と相談でもしろと言うのか」
「いや‥協定を結び義しい付き合いをするべきだ、と言って居るのだ」
「いやいや‥」
兵士達は、肩をすくめて苦笑しました。

「特に高い知能と深い知識とを持つ、お前達ドラゴンや天使の方々ならともかく。この様な普通の魔物共と協定等結ぶ事が出来ようか?有り得ぬ話だ」
「そりゃ聞き捨てならねえな。俺たちが、あんた等の分の樹まで、切った事あったかい!?」
「勝手ニ街ヲ広ゲタリシテ、アタシ達ノ住ム場所、減ラシタクセニー!!」
「みんな、しー☆」

『つづく』

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