【あんじぇらーむ】第3話:『秘密の牧場』後編

     by MARCY




「お前達が我々に、どの様に気遣おうが知った事ではない」
「そもそも、お前達の大半は実体など有って無い様な者なのだから、土地にこだわる必要は無かろう」
「何なら魔界とやらへ行った方が良いのではないか?地上にこだわるな」

「やべえぜ‥もうちょっとで俺、本気でキレるぜ」
「キレちゃダメなの★予定が台無しなの」

「魔界、ですか‥今はそのお話をする所ではありませんね。検分が済んだなら、そのまま、お引き取り頂けませんか」
「無論、そうするつもりだったが‥そうは行かなくなった」
「あれっ?どうしてっ?」
「この様な道を僅か数刻で造り上げるとは。お前達の能力は、いずれ我々の脅威ともなりかねない」
「いやいや。ものの数分だったぞ★」
ザイトが言いました。

「ざいとー。そんな事言っちゃだめだよー」
「此れは言っても構わぬだろう。それに人間よ。どうも君等は、未知なる力を目の当りにした時、本能的にそれを敵視する悪い癖もある‥此れは良い事か?悪い事か?それが解らぬ程、君等は愚かではあるまい」
「確かに、この道は我等にも其方等人間にも、有益な良いものではないだろうか。我等は、この仕事に何の代償も求めぬ。其方等も自由に行き来するが良い」

「ああそうですか解りました、と帰れる身分に我々が無い事は、お前達にも解っているだろう」
「この道が、この先もどんどん延びて、我々の土地を侵さないという保障が何処にある」
「あーもうっ!毎回毎回毎回毎回っ!ドウしてアナタ達人間ちゃんって、石頭のおバカさんばっかりなのっ!?」

ルディアは空中で、小さな拳を握って両足をばたばたしています。

「イツにナッたら、イチイチお説教も説明も要らナイ、普通のお付き合いがデキる様にナルの!?何処に行っても毎回、コンな事ばっかりなのっ!」
「ルディアさん。まだ始めて1月程しか経っていません」
「むー‥そりゃソウなの」
「1季節くらいで、終わらせる予定だけどねっ☆」
「んー‥ソレじゃ仕方ナイの」
「ま、まさか」
兵士達が、槍を構えたまま少し退きました。

「まさかとは思うが‥先の大異変の中心となった魔物の一団というのは」
「魔物、では御座居ませんが‥わたくし達です♪」
フロレットはニコッと笑いました。

人間達‥兵士達がどよめきました。

「聞いたか!?勇者殿!此等は間違いなく、我々にとって恐るべき脅威である最強の魔物の一団だ!!幸い数は少ない、周りに居るのも雑魚ばかりだ!!」
「雑魚‥ってあんた等よぉ」
「あーれあれっ?やっぱし、こうなっちゃうかなっ」
「やっぱし、こうナルの★」
「仕方ありません。セリアさん宜しいですよ♪」
「おっけー!もう押さえてらんにゃい!!」

セリアが兵士達の前に飛び出しました。同時に兵士達も一斉に進み出ました。

「シャーズの娘ごときに何が出来るっ!我々の邪魔をするなっ!」
「悪いにゃ★あたしは、ただの猫人じゃにゃい」
セリアは、にやりと笑うと右手で空中に大きな円を描きました。

「りあらいず!ぎんいろの、風ぇっ!!」

緋色の鎧を着けた剣士が、飛び込んできましたが‥
セリアの『風』の方が遥かに早く発動しました。

空中に描かれた円の中から吹き出した『風』に吹かれた人間達は、全員動けなくなりました。

先頭に居た剣士は、まるで亀の様に、仰向けに引っ繰り返って固まっています。

「あんまし、止めておけにゃい!急いで!」
「OKなの★あるる、いる、ふれー、とぅ、ふれーる‥」
ルディアの体が陽炎の様に揺らぎます。

「おーばる・しーるどーっ!誰もココから逃がさナイの!」
「わたくし達も包まれましたね♪リシェルさん?」
「行きますっ☆モード・オブ・フィランターっ!!」
「後押し致しましょう。煌めきの鳴動を此処へ‥」
「キャー!!イイ感ジー☆皆イクヨー!?『花精ノ祝福』ッ!!」
「レベル、足リナイ子ハー!?」
「セリアチャン、オ願イーッ!!」
「おっけー♪りあらいず!きんいろの、星ぃっ!」

ルディアが作った、大きな丸いドームが色んな色に輝いています。大勢の妖精達が、中を飛び交っています。

「キャハハハ、オッケー☆行クゾォッ!」
「『ブレス・オブ・フローレアーッ!!』」

妖精達が、一斉に叫びました。彼女達の体から、キラキラした光の粒が溢れだして
ドームの中いっぱいに満ち溢れました。

銀色の風‥「静止」の術が解けました。兵士達は皆、起き上がって自分の体を素早くあちこち触って、

「‥何をしたのだ」
「何も変わっていないようだが」
「それに何だ?この奇妙な雰囲気は」
「いい感じでしょっ♪」
リシェルが嬉しそうに跳ねています。

「フロレットさんっ!それじゃ行きましょっ☆」
「ええ、始めましょう」
「待て。何をする気だ!!」
「貴方方を祝福するのです‥わたくし達全員で」

フロレットは大きく深呼吸して皆を見回して、
「さあ皆さん、言葉を紡ぎましょう。暖かい言葉、優しい言葉」

リシェルが続けます。
「楽しい言葉、明るい言葉、元気が出る言葉っ♪」

アルギムが繋げます。
「なる程‥力強き言葉、義しき言葉、勇敢な言葉」

ルディアが受け取りました。
「ドンドン紡いで送ってアゲるの★アナタ達の空っぽの心が、イッパイにナル様に」

ぽん。ぽんっ。ぽぽん。
兵士達の身に着けた鎧や、服の布地に、花が咲き始めました。

「な!何だこれはっ!?」
「にひひひ☆平和が嫌いにゃ奴は居にゃい。調和が要らにゃい場所もにゃい。むしろ、おまえらは、それを守るために働く格好良い奴。でしょ?」

「君等、勇敢なる者達よ。君等の仕事は悪しき慣習を守る事では無く、此れを打ち破り守るべき事を守る事である筈だ」

「だって、だから、あなた達は、皆に尊敬されて、皆に好かれるひと達だもん♪」
タマルが言いました。妖精達が続けます。

「アナタ達ハ、困ッテル人ヲ助ケル仕事ノ人達ー!」
「イジメラレテル人ヲ守ル人達ー!」
「道端ノ、オ花ヲ、踏ンダリシナイ人達ー☆」

ぽんっ。ぱあん!ぽぽん。
次々に色とりどりの花が咲いていきます。

「やべっ!お、俺降りたっ」
「‥私も!」
剣士の青年と魔導士の女性が、その場に座り込みました。既に鎧や、三角帽子に幾つも花が咲いています。

「ゆ、勇者殿っ!?」
「抵抗しない方がいいぜ‥やべえよ、この術」
「『服や鎧に』咲いてる内に、身を退いた方が良いと思います」

彼等を余所にセリア達は遠慮無く続けます。

「ひとは誰でも、愛しあわにゃければいけにゃい♪」
「愛とは即ち、他者への無償の助力の事だ」
「この事を、否定はしても、心から捨て去る事が出来る者は誰も居らぬ」

ぱぱぱん!ぽんぽん!
武具や防具にまで花が咲き始めました‥

イースが怖ず怖ずと進み出ました。
「あの、どんな種族でも、心のある人は、同じ心のあるひとを、自分の都合で苛めたりしないと思うんです。あなた達には、その心が、あると思います」

「善い言葉は唄の様に。さあ皆さん、もっともっと紡ぎましょう」
「素敵な言葉は詩の様にっどんどん行きましょっ!」

「うむ。あなた達は、人々を正しき道へ導く者」
「心の闇を打ち払い、光を示す者だよな♪本来は」
「勇気と英知と信念と、許されて有る力を以て、全ての心有る者を」
「義しき道へと誘い行く‥称賛すべき者達だ」

ぱぱぱぱん!ぽぽんっ!
「や、やめろっ!これ以上我々を誉めるなっ!」
「祝福するなっ!」
それでも兵士達は‥顔は笑っています。

「貴方方がひとを諭す、その言葉は詩の様に‥」
「あなた達がひとの為にする、その事は、まるで灯りの様にっ♪」
「見てる皆の心を幸せにするー☆」

ぱちん、ぱぁん!ぱぱん!

兵士の1人が、剣に咲いた花を握ってみました。
それは、くしゃりと潰れて剣は、ぐにゃりと曲がってしまいました。

「い、いかん!駄目だ降参だ降参する!」
「戦わずして降参すると言うのか!?」
「鎧を触ってみろっ!」

言われた兵士が、花がみっちりと咲いた鎧を恐々触ってみると‥
それは薄い紙の様に、べりっと剥がれました。

「何だとーっ!?」
「エヘヘー☆コノ術ハネー、生キテナイモノヲ土ニ還ス術ナンダヨー」
「生キテルモノニハ、オ花ガ咲クダケナンダケドー」
「モットモット行クヨー!」

「そっ♪この辺全部っ、そしていつか世界中がっ、」
「言葉の詩と行いの灯りとで、一杯になる様に♪」
「さあ、言葉を繋げよう。我等は祈る!」
「義を以て愛を行う全ての者に!」
「平安があるように、と」

ぱぱぱぱぱんっ!!
沢山咲いた花の隙間に小さな花が咲きました。

もう、兵士達が身に着けたものに花が咲いていない所はありません‥
全身みっちりと、色とりどりの花に覆われています。
「隊長っ!撤収命令をっ!」
「戦わずして帰る訳には行かん!!」
「然し、武具も防具も、最早役に立ちません!」
「戦闘時、これが剥がれ、下着や‥我々の身にまで花が咲いたら」
「例え勝利しても、我々は素っ裸であります!」
「凱旋どころか、街に入った順に、逮捕されるでありますっ!」
「むうううう‥っ」

隊長と呼ばれた兵士は、歯を食い縛って唸っていましたが、

「‥解った。お前達がした事並びに、お前達が言った事を‥我々の王に伝えよう。今回は撤収する」
「解って頂けたのですね」
「お帰りなの?じゃ、空間封鎖、解いてアゲるの☆」
「‥何故お前達は、我々を殺さず、この様な術を用いる事を選んだのか」
「正当な理由無しに、生有る者を殺してはならない、と戒められているからです」
「何者にか」
「わたくし達の主であり、貴方方の主でもある‥貴方方が見えざる神、と呼んで居られる御方です」

隊長は深呼吸して、ゆっくりと言いました。

「解った。其の事も加えて伝えよう。然し、これだけは言わせて貰いたい‥」
「はい。何でしょうか」
「‥覚えてろっ★」

隊長は軽く拳を振り上げて言いました。だけど直ぐに照れ臭そうに笑って、
「ではな。‥撤収っ!!」

兵士の一団は、体中にもさもさと咲いた花を揺すりながら、そろり、そろりと、帰っていきました。

彼等に雇われた勇者達が、それぞれ自分の腕や、お尻をつねったりして、必死に笑いを堪えながら付いていきます。

彼等の姿が、すっかり見えなくなってから、
「いやったあーーっ!!」
「キャハハハハハハ☆」
「アハハハハハハハ♪」
「正に『昼飯前に』事が片付いてしまったな」
「ふむっ!‥うむ、さて、これからまた仕事が続くが‥小休止と行くか」
「ええ♪ハルモンの森へ戻りましょう」

それから2時間後。ハルモンの森の、タマルお気に入りの花畑。

「なあ、飯食う前に、あんたら何を祈ってんだい?」
「主よ、この食事を戴ける事に感謝致します、と」
「ふーん‥俺たちも言ってみるかな。この飯が食える事に感謝します、って」
「んま。其の様に仰ってはいけません★」
「フロレットさんっ、良いじゃないですかっ♪言葉は違っても心が同じならっ☆」

「うむ!其の通りだ」
「あたしにゃんて、いただきます、の挨拶だけに全力かけてるからにゃー♪」
「ハハハハ★然し、この岩場は少々窮屈だな」
「我等は普通に歩くと、一歩大地を踏みしめる度に草花を5〜6本、確実に踏んでしまう。仕方なかろう」
「うむ、タマル君に叱られてしまうな★」

微風が広場を吹き抜けて、花の香を舞い上げて広げていきます。
綺麗な碧の空に、真っ白な雲が浮かんでいます。

「まきばを造るのは明日だね?僕は、そこに住む事になるのかなあ」
「いーすさんは、まきばでお仕事するんだよ。終わったら、れりえのお城に帰るんだよ☆」
「アナタは家畜なんかじゃナイの同胞、家族、仲間なの♪」
「安心して下さい、部屋は沢山空いていますぞ」
「草とか欲しかったら言ってねー」
「嬉しいなあ‥♪」

「枯れ木とかだと腐っちゃいますよねっ?」
「ええ‥柵作りはタマルさんに手伝って戴きましょう。あの蔦の精霊さん達に」
「うむ。家畜の調達は其の後だな」
「我等が猟場にしていた山へ行こう。狭い場所へ追い込むから、其方に直接、牧場へ転送して貰おう」
「任せにゃさい♪」
「この森の近くの街の方々は‥其の様な事は無いと思うのですが、イースさんを匿う秘密の牧場、と言う事で」
「うむ!それで行こう」

牧場造りは明日から。
今日のお仕事は、もうお仕舞い。皆は青空を見上げたり、花を眺めたり、岩場を飛び回ったりして思い思いに食後の休憩の時間を過ごしています。

たくさんの花の甘い香。湧きだす水と、樹々と葉っぱの甘い匂い。ゆったりと流れる時間‥

ハルモンの森は今日もとても賑やかで、とても静かです。

『つづく』

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