【あんじぇらーむ】第4話:『耳長族に会った日』前編
by MARCY
此処はハルモンの森の中。指2本分位の、がっちりした蔦の壁に囲まれた秘密の牧場から、野生に近い姿の山羊の声が聞こえてきます。
覗くと、山羊達は、めいめいに草を食べたり、横になったりして、のんびり過ごしているようです。
牧場から少し離れた、枝を組んだ低い柵に囲まれた幾つもの畑‥
あまり刈り過ぎないように枝を払った、森の木々の間から、燦々と陽が射しています。
すくすく伸びてる野菜や作物たち。たくさんの花が咲いてる野菜もあります。
ユニコーンのイースが、畑の見回りに来ました。桃色のたてがみが、風にふわふわ揺れています。
「元気に伸びてるなぁ♪これは何て名前の野菜なんだろう?」
鼻の先で緑の作物を軽く押します。勿論、噛ったりしません。ちゃんと実が生るまで食べちゃいけない事を、知っているからです。
「イースくーんっ☆」
「あ、リシェルさん」
紅い髪のエンジェル、リシェル。軽やかにとん、とんと、弾む様に飛んできます。
「見回り、ご苦労様っ♪」
「いえ、僕にも出来る、簡単な仕事ですから」
「また謙遜するっ。誰かが毎日、責任持ってこういう仕事してくれなかったら、皆が困っちゃうんだよっ?君が居てくれて助かっちゃうなっ☆」
「そ、そうかなぁ‥?」
リシェルに頬摺りされて、イースは少し照れ臭そうです。
「これはなんて名前の野菜なんですか?」
「大豆だよっ!あっちはポテト、向こうは小豆っ♪大豆はねっ、青いうちに採ったら枝豆って名前の、別の野菜になるんだよっ。ちょっと青臭いけど、こりこりして美味しいよっ☆」
「へ〜え‥食べてみたいなあ」
「生り始めたら、ちょっとずつ摘んで、皆で食べようねっ♪」
「本当!?やったあ☆」
森を吹く微風に、大豆の葉っぱが、さらさらと揺れています。
そして此処は、レリエのお城の前の広場。皆が集まって、今日のお仕事の相談をしています。
「ふむ。では我等の仕事の成果の伝達は、妖精諸君に任せるとして。そろそろ誰か種族単位の同盟者を、増し加える必要があるな」
「確かに其れは有る。元々は人間共の矯正が目的なのだし、あれ等の受けが良い者共をも我等の側に、同盟者として加えておいた方が、後々事を円滑に運ぶ為にも有益であろう」
「金と黒のドラゴン様かよ。しっかし、いつ見ても頼もしいよなあ♪来てくれただけで、もう大丈夫って気がするぜ」
「フッ★世辞は要らぬ」
「ねえ、お姉ちゃん。前に、たまるが呼んだ緑のひとは、森のひと達の守護のひとなんだよね?森のひとって、どんなひと?」
「えるふって種族だよ。あたし会った事にゃいんだけど‥にゃんか隠れっぱにゃしで出てこにゃい奴らだそうだにゃ」
「…そうですね。とても保守的で、他のひと達との交流を嫌う種族、って聞いてます」
ナンシュアは、そう言うと肩をすくめました。
「…私も会った事は無いです。あのひと達は、住んでる森に空間封鎖の魔法を掛けて、外の世界との接触を持たない様にして暮らしてるそうです。
…だけど森の管理については専門家、って言うより誰より頼りになるひと達だそうです。
…同盟者を探すなら、彼らを訪ねてみたらどうでしょうか?」
「耳長族か‥会った事ならある。あれ等は異様に排他的な種族だからな」
「エルフかぁ‥俺たち、あいつら嫌いなんだよなぁ。何かに付けて小馬鹿にしやがるからさぁ」
「こぼるさん達を?どうして〜?」
タマルが不思議そうに尋ねます。
「何でって‥お高くとまってやがるからだよ。自分達が、この世で1番優れた種族だって思ってるらしい。腕力や魔力はともかく内面的にさ」
「イヒヒヒヒ★ソレは誰だって同じなの」
ルディアが楽しそうに笑います。
「誰だって自分達こそ、何かでコノ世で1番って思ってるの。要するに、ソノ自慢の長所で助け合えばイイだけのお話なの♪」
「いやいやいや。自分達だけ良けりゃそれで良いって連中だぜ?」
「ドワーフ族の方々の方がより‥もう少しは協力的なのではありませんかな?」
ゴブリンもコボルトに合わせます。
「えるふさんか〜‥。緑のひと呼んで頼んで貰おっかなあ。るでぃあ、どお?」
「チョット賛成できナイの。上からの命令で仕方ナク、じゃなくて正面からの相談で、賛同を得ナイと意味がナイような気がスルの」
「ほぅ‥良い事を言うな、其方は」
アルギムがニッコリ笑いました。
「確かに、形ばかりではなく真の協調、同盟を結ぶ事こそが計画の目的だ。大精霊に助力を願うのは言わば最後の手段だ」
「耳長族か。我は会った事が無い。貴様等の中に、あれ等の所在を知って居る者は居らぬか?」
「フォーンの森の、ずっと向こうの森に‥だよな」
「私たちも会った事はありませんがな」
「そっか。そんじゃ今日は、それ行くかにゃ☆」
胡坐をかいて座ってたセリアが立ち上がりました。
★
「あたし、知らにゃい所には転送出来にゃいよ。ふぉーんからは歩いてくからにゃ‥それとも妖精の道、えるふの森に通じてる?」
「通ジテナイヨー」
妖精達がセリア達の周りを、ふわふわ飛んでいます。
「エルフサン達ハ、アタシ達モ好キジャナイナー‥綺麗ナ人達ダケド」
「何カネー?臆病ナノニ威張ッテルッテ感ジダヨネー?」
「ネー★」
「…あんまり評判は良くないんですね」
ナンシュアが溜め息を吐きました。
「トニカク、森ノ外ニ、出タガラナインダヨネー」
「外界ト関ワリヲ、持チタクナイッテ、アタシ達ノ道ヲ作ルノ、禁止シテルノ」
「ダカラ、エルフサンノ森ニハ、アタシ達ノ仲間モ住ンデナイノ」
「はぅ‥。ソレじゃ森を大事にシテる他は、人間ちゃんと変わんナイの。自分達だけ平和に暮らせればイイって考えは間違っテルの」
「うぅ〜む。然し耳長族共の感性と、人間共の行動力‥此等が合致すれば、計画の進行も飛躍的に早まるだろう。何とか同胞の側に付けたいものではあるがな」
「どっちみち、行かにゃい事には仕方にゃい♪はにゃしてみにゃいと、実際どんにゃ奴かも解んにゃい。そんじゃ行くよ!りあらいず!おれんじの扉ぁ!」
転送扉が現れました。
「にゃあ、いーす。おまえ、必殺技とか持ってる?」
「え?僕がですか?無いですけど」
イースは首を傾げました。
此処はフォーンの森の入り口。結局セリアたち家族だけが出掛ける事にしました。
セリアが『知ってる』のは此処まで。後は教わった方へ‥エルフの森まで、歩いていかなければいけません。
「そっか〜。そんじゃおまえ残ってにゃよ、ふぉーんの森に。途中で、にゃんか有ったらいけにゃい」
「えー‥?」
「ちょっとセリアっ★良いでしょ行ってもっ。何か有っても大丈夫な様に、私たちが守るからっ!」
「ソウなの。コノ子も今はアタシ達の家族も同然なの☆アノ子達みたいにエルフちゃん達が嫌いって訳でもナイみたいだし連れてくの♪」
リシェルとルディアがイースの両側に立ちました。
ルディアは空中に浮いていますが。
「そお?だったら別に良いけどにゃ」
「ありがとお‥♪」
「フッ、イースよ、我等が盾になってやろう。後を付いてくるが良い」
アルギムとハダスが先頭に立ちました。そして皆は、エルフが暮すという森へ向かって、歩いていきました。
とても良い天気です。森や林や草原を繋ぐ、くねくね曲がった道を歩きながら、辺りを見回すと‥
大きな蜂とか、大きな鼠とか、大きなコウモリとか‥人間たちに魔物と呼ばれているもの達が、動物や昆虫に交じって普通に暮してます。
彼等を狂暴な『魔物』として行動させていた、暗い気持ち‥『闇の象徴』は、もう此の世界には在りません‥もしかしたら。
暗い気持ち、闇の心を今でも持っているのは、人間達だけなのかも知れません。
彼等は言葉が話せませんしセリア達の事も知らない筈です。だけど誰も、襲い掛かってきたりしません。
皆、普通に平和に暮しています。時々、喧嘩しているもの達も居ますが。
「要するに、えるふって、この世界のにゃんにゃの」
「言ってみれば、飛べない方の精霊族の頂点かなっ?私たちと違って、種族をあげて内向的過ぎるけどっ」
「…リシェルさん?内向的とは違うと思います。その‥非力だから、あまり他の人と、交流したがらないだけじゃないですか?」
「ソレを世間では、内向的ってゆうの★」
ルディアはイースの背中に座っています。
「どんなに知識や技術が有ってもソレを誰にも教えナイで知らナイ子達を馬鹿にシテる子は、あんまし偉くナイの」
「そうだね〜‥他のひと達がどうなっても、自分達だけ、安全だったらいい、って考えのひとじゃ‥無いと良いんだけどな〜」
タマルが俯いて言いました。
「頭も心もあるもん。えるふってひと達。だから平和を守ろうとか、出来るんでしょ?自分達だけでも。だけど誰にも教えなかったら、誰にも解んない。えるふさん達が知ってる事も、出来る事も。たまるは思うんだけど‥もし、世界から誰も居なくなって、えるふさん達だけになったら、それでも自分達は正しい事を選んでたって思うかなあ?えるふさん達」
「チョチョチョ‥ソレは言いすぎなの★」
ルディアが掌をひらひら振っています。
★
「アノ子‥って言うかエルフちゃん達も、ソレなりに平和を願ってるって思うの。だけど弱いみたいだから?自分達の身を守るのが先決な訳で保守的なんだと思うの」
「まあ、そうだな。羊が野獣の群れの中へノコノコ出掛けていっても、忽ち喰い殺されるだけだ」
「ハダスちゃんキツいの★今まではコノ世界‥クラさと闇に覆われて、ま、ハダスちゃんの言う通り『野獣』だらけだったの。だからエルフちゃんの選択も解るんだけど」
「然し。今は、此れからは、違う。そうであろう?ほれ見えてきたぞ。あの森ではないか?」
アルギムが鼻先で指した方に深緑色の森がありました‥
「到着ー♪次からは真っすぐ、ここに来れるにゃ」
「…そう何度も通う事にならないと良いですけど」
「残念だけど、イツモイツモ、ソウ簡単には行かナイの」
「ルディアちゃんっ★」
皆は森へ入ろうとしましたが、
「あっ!ちょっと待ってください!」
イースが先頭に飛びだしました。
「どうしたのイースくんっ?」
「空間封鎖です。2重に掛かってます‥布みたいに空間を剥がして、裏返して重ねたみたいな感じです」
イースは森の外側から内側を探る様に、顔を森に突っ込んで、周りをきょろきょろと窺って居ます。
「そっか空間封鎖っ!忘れてたっ、ナンシュアさんっどうします!?」
「…セリアさんにお願いして、壁の向こう側に‥」
「いや、ちょっと待って。結界だったらそれで良いけど空間にゃんたらじゃ。こっち側に戻ってくるだけかも知れにゃい」
「大丈夫です、簡単です!」
イースが嬉しそうに言いました。
「僕が身を隠す時に、よく使う術なんです。こっちの方は全然規模が違いますけどね‥森をすっぽりだから。だけど本当にすっぽり包んだら、中のひと達も出られなくなります。だから必ずどこかに、『裏返した出発点』があると思うんです。そこを探しましょう」
「にゃ〜る程♪外側の空気が、こっち向いてたら、出られる訳がにゃいもんね」
「そうなんです☆すみません皆さん、僕に付いてきて下さい」
今度はイースが先頭に立って森の外側を用心深く調べながら歩きだしました。
皆が、イースに続きます。
エルフの森と、隣の森とを分ける細い道を皆は進んでいきました。
しばらくして、イースが立ち止まりました。
「ここです!」
それは周りの木々と何も変わらない、2本の樹が立ってるだけの所でした。森の中への道もありません。
「なる程。確かに空間が歪んで居る様だ」
「…闇雲に入ろうとしてたら、いつまでも闇雲の中でしたね★」
「イースちゃん賢いの♪」
「いえ、僕は‥たまたま、よく使う術に似てたから」
「謙遜しないのっ☆」
セリアたちは、一列に並んで森の中へ。イースが示した通りに2本の樹の間から、体を滑り込ませました。
「入れたね、お姉ちゃん!」
「いーすのお陰だにゃ♪」
「いえ、僕なんて‥」
「謙虚だな、其方は。然し以外に明るいな、此の森は。外世から隔絶された、言わば隠遁生活を送って居ると言うから」
「ふむ。差し詰め闇の魔物の如く、暗闇に生きて居ると思って居ったが。フッ★」
「またソンな風にゆうの!」
「ねえねえっ、て事は、もしかして知らないのかなっ?今この世界が、どんななのかっ?滅多な事じゃ外に出ないんでしょっ?」
「…あ。待って下さい。何人かひとが来ます」
ナンシュアが示した先に数名の人影が。
エルフの男性達でした。皆が手に弓を構えています‥
「止まれ。これ以上、森の奥へ進んではならない」
がっちりした体格のエルフが静かな声で言いました。
「此れは此れは。我等の挨拶も聞かず貴様等が放つ挨拶は其れか」
「はだす〜!後ろに下がってて〜!」
「むぅ」
「…タマルさんが言う通りですよ?争いに来たんじゃないんですから」
「確かに。ハダスよ、我等は下がって居ろう」
「フン‥」
「ユニコーン。黄金に漆黒の竜‥最上位の緑精」
「プリンシパルにアークエンジェル。猫人‥いや、只の猫人では無いな?君は」
「ほ〜♪勘が良いにゃ」
「チョット!アタシは、どーでもイイってゆうの!?」
ルディアが怒っています。
「失敬★君だけは、何というか‥形容する言葉が見つからない」
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