【あんじぇらーむ】第4話:『耳長族に会った日』中編1
by MARCY
「君は‥妖精なのか?」
別のエルフが尋ねました。
「あったり前なの!見て判んナイの!?」
「然し。君が時折放つ、禍々しい『気』は何だ?」
「上級のデーモンの化身ではないのか?」
「チョット‥イイ加減スルの★」
「るでぃあ〜‥」
タマルがルディアのスカートの裾を引っ張ります。
「チッ、解ったの。見逃してアゲるの」
ルディアは腕組みをしてエルフ達を睨みました。
「君達は、この森に何をしに来たのか」
「和平と調和。協調と融和を求めて来たのだ」
アルギムが言いました。
「我等は此の地に、此の星に此の世界に、真の調和と平安とをもたらさんが為に働いて居る。君等エルフにも同盟者の一員となって頂きたく思い、今日、此の場所を訪れたのだが」
「これはこれは。貴方はあらゆる竜族の中でも、特に高潔な思慮と知識と、深い洞察とを備えた種族の者である事は知っている」
先のエルフが、軽く目礼しました。
「その深い思慮を以て、察して頂きたい。我々は、他の如何なる種族とも、決して交流を持つ事は無い」
「易々と森に入って来られては困るのだ。いつ汚らわしい外敵が、開いた場所から侵入して来るか‥」
「あなた方が如何に強大であろうと、我々は他者との協定など結ぶ事は無い。これは我々のみならず、種族全体の意志なのだ」
「まぁたまには‥はみ出し者も居るには居るが、その様な者は我々の中から除名される事になっている」
「ふぅ〜む。剣もほろろ、とは正に此の事だな」
アルギムは両手を広げて肩をすくめました。
「聞いての通りだ、諸君。出直そう、引き上げるぞ」
「待て、アルギム。どうしても此奴らに言って置きたい事が有る」
ハダスが進み出ました。
「耳長族よ、貴様等に言っておく。臆病者は御国に入る事は出来ない、と書かれている。
貴様等は慎重でも、思慮深くも無い。ただ種族を挙げて臆病なだけだ。変化に臆病、進化に臆病、未知なる事に臆病なだけだ。
此の世界の、かつての有様は知って居ったろう。貴様等は何をして居ったのか。
臆病さの故に何一つ出来ずに居った貴様等に、調和の事業の一端を担わせてやろうという我等の申し出の、一体何が気に食わぬと言うのだ?」
「済まない。それ以上喋ると‥。貴方は我々の死体を相手に喋る事になる」
先頭のエルフが弓を構えたまま、静かな声で言いました。
「フン。戦いもせずに命を投げ出す事は、最たる臆病なのだが。会話にも為らぬな。光精諸君、後は任せる」
ハダスは、どすどすと足音を響かせて、さっきの入り口へ歩いて行きました。
「…はぅ」
「しょーが無いなっ★」
ナンシュアとリシェルも、がっかりした顔で言いました。
「…あの、この世界が、少しづつ良い方に変わってきてる事、知ってますか?」
「次は、そのこと話してあげるっ★帰ろっ、イース君!」
「仕方にゃいね。たまる、いーす。帰るよ」
「は〜い‥」
「‥解りました」
セリア達は森の外へ歩いて行きました。エルフ達は、やっぱり弓を構えたまま、皆を見送りました。
フォーンの森で待っていた妖精達も、コボルト達もゴブリン達もセリア達の話を聞いて、がっかりしてしまいました。
「ハッ!居るんだよなあ時々。解っちゃあ居たけどさ」
「何とも‥非協力的な種族ですな」
「ネエネエ!コノ先、何回行ッタッテ無駄ナンジャナイ?」
「そうは行かにゃい。近くを諦めて遠くに行ったって、却って信用されにゃいよ‥にゃん度でも行く」
セリアは転送扉を出して、今度は皆でハルモンの森に戻りました‥
そして此処はハルモンの森。お城の前の広場。
「は〜ぁあっ」
「やれやれだ‥」
「‥にゃう★」
皆、溜め息ばかりついています。
「あー、帰ってきた帰ってきたっ!お客さんが来てるぜっ♪」
レリエのお城からコボルト達が走り出てきました。
その後から狼に似た獣人族が3名、歩いてきます。
「此れは此れは。我等への客人か?」
「お目にかかれて光栄だ」
先頭の獣人が、一礼しました。
「我々は御覧の通りウェアウルフ族の者だ。伝令のバロールと言う、宜しく。
和平と友愛とを求めて此処へ来た。こちらは書記と伝達係だ」
「…友愛ですか?うふ♪」
「おお、よく来た。よく来てくれた。我等は此の森に、調和と友情を求めてくる者は誰でも歓迎する」
アルギムがニッコリ笑って言いました。
「鳥人族に貴方たちと此の森の事を聞いた。そうだ、あの日‥」
バロールは空を見上げて、
「あの日。此の星が、歌わんばかりに鳴動し、あらゆる闇が打ち払われた日の事を‥我々は決して、忘れはしない!」
「貴方たちの計画に、我々も参与させては貰えないだろうか!?」
「全ての善き者達の調和と聞いた。我々も計画の一端を担う者として、働きたいのだ!」
「ほぅ‥実に頼もしい事だな★」
珍しくハダスが、ニヤリと笑って言いました。
「貴様等に会えて嬉しく思うぞ。我は此の事業を始めてから其の様な頼もしき言葉を、今初めて聞いた」
「おお‥!此れは恐縮だ」
「…会えて嬉しいです。本当によく来てくれました♪
…調和を‥友愛を☆求めて来てくれたのは、貴方たちが最初です」
「友愛と博愛とを以て、歓迎しますよっ☆」
「おお!エンジェルの方々まで我々を歓迎してくれるとは!‥恐悦至極だ」
「来て良かったな!」
「ああ!」
「そんじゃ、ばろる。今日からにゃかま♪一応、契約はきちんとしとかにゃいといけにゃい」
「ばろーるさんたち、よろしく〜☆」
「じゃ、契約の書類にサインお願いスルの♪」
「あ〜、来てる来てる!」
声と共に、皆の上に、影が差しました。
鳥人族の女性です。エンジェルに姿は似ていますが、踵に頑丈な爪があります。
「やは〜、本当にみんな居るんだ!びっくりしたぁ」
「君か。先程、我々が最初だと聞いたぞ。君達は真っ先に、此の方々と同盟を結んだのではなかったのか?」
「だってぇ‥やっぱりちょっと、怖かったんだもん★竜族のひとと話した事なんて無かったし」
ハーピーと呼ばれるそのひとは、肩をすくめました。
「でも安心した♪みんな優しそぅだし」
「そうだ、其の通り。君等が不当な事をする者でなければ、我々の前で恐縮せねば為らぬ理由等、何処にも無い★」
「確かに。其の通りだ」
「良かったぁ☆わたしの名前はアインシータよ。だけどアインって呼んでもいぃわ、宜しくね!」
「あい、で良いんだにゃ♪解った」
「んじゃコレからアイちゃんなの★」
「ちょ、ちょっと!ん、は入れて欲しぃな★まぁいぃけどね♪」
獣人族と鳥人族‥今日から協力体制をしいて周辺に住むひと達に協調を呼び掛けるのは勿論ですが。
山を根城にしているバロール達には牧畜の指南を。
森に住んでいるアインシータ達には農産の指南を、それぞれする事になりました。
「然し見事なものだ。確かに暮らしに困窮していては、徐々に士気も下がってしまうな」
「森が幾ら豊かでも、限界ってあるもんね‥」
「だろ!?んじゃ明日から俺たちも手伝うぜ!」
「働かせて戴きますぞ★」
「見張リトカハ、任セテネー☆」
お話は弾みます。その内に何時の間にか、エルフ達の悪口になりました。
「あれ等に協力を要請に!?剣もホロロ、だったろう?」
「うむ‥無礼を働いた訳でも無し、報復を行うわけにも行かず戻ってきた」
「今回は何者も殺してはならない、と取り決めて居るからな」
ハダスは、そう言うとセリアを横目で見ました。
「あたしじゃにゃいよ、ふろーらが決めたんでしょ」
「破ったら貴様も我も只では済まぬ。だろう?」
「にゃう★」
「ほ〜んと、いけ好かなぃ奴らよねぇ。お高くとまってて鼻持ちならなぃってゆぅか、けたくそ悪ぃってゆうか」
アインシータが続けます。
「あなた達の家族が、みんな揃ったとこ見たぃな☆それはともかくエルフなんて、寿命の他は人間と同じなんだから、チョウフクの対象にしちゃっても良ぃんじゃなぃ?」
「ダークエルフも肌の色の他は、並のエルフと変わらないしなあ。高慢ちきで鼻持ちならん」
「ソウは行かナイの。全種族の調和には、エルフちゃんも人間ちゃんも必要なの」
ルディアが腕組みしたまま、言いました。
「アノ様子じゃ望み薄だけどやらナイといけナイの。薄いどころかゼロかも知れナイけどやってみるしかナイの★」
「あいつらの寿命と同じくらい、時間が掛かると思ぅなぁ」
「ん〜‥何かアノ子達の警戒解いて、信用サレて、協調も得られる様な事件が起こるとイイの」
「るでぃあ〜。ひとの不幸とか、願ったりしちゃだめだよ〜。どうしてもだめそうだったら、たまるが緑のひと呼ぶから」
「それはあれ等が神と呼んでいる奴の事か?」
「わたし達には守護者なんて昔から無かったし★逆に邪教に走らなぃで済んで良かったけどね」
「大体、神ともあろう者が、あれ程迄に永い間、自分の下僕達を暗黒の世に放っておく事等、有り得るだろうか?」
「本当ね〜♪わたし達は、こうしてあなた達に会う事が出来て。色々、あいつ等なんか全然かなわなぃ事、教ぇて貰って☆もぅはっきり言って、エルフなんか要らなぃって感じ★」
「…んー‥だけど、そうも行かないんです」
「行かないんだよねっ★」
リシェルがそう言うと、また皆は、はぁ‥と溜め息を吐いて黙ってしまいました。
諦めてしまう訳には行きません。
だけどエルフ達が、皆の申し出を受け入れてくれる様子も全然ありません。
それでもセリア達は、明日の朝またエルフの森に、出掛ける事にしました。
そして次の日の朝‥
「エルフのひと達は、自分の身を術で隠す事も出来るみたいです。僕みたいに。でなきゃ森の入り口を隠すなんて出来ないですよね♪
森から出るのは特別に何か用事がある時だけで、後は絶対、森から出ないようにしてるみたいです」
「それってっ、街にお買物とかっ?」
「森には、にゃい物が食べたいとか★」
「お姉ちゃん、たぶんそれは無いと思う‥」
「…だから森のひと、って呼ばれるんですね。
…今までに交流が無かったから、あのひと達の事は何にも判りませんし」
「だが投げ出す訳にも行かぬ。昨日セリア殿が言った通り近場の者に相手にされなかったから、と遠くの者を尋ねた所で‥全く相手にもされぬであろう」
「フン。我はあれ等を種族ごと投げ出しても良いと考えて居るが。‥?何やら不穏な気が漂って居らぬか」
「なにか、昨日と違う雰囲気ですね?僕ちょっと行って見て来ます」
イースがエルフの森へ向かって駆け出しました。
「ちょっとっ!ひとりで行ったら危ないよっ!」
リシェルが後を飛んで追い掛けます。
「変わんないねっ?」
「変わりませんね?」
エルフの森。雰囲気は何か少し暗いけど、特に変わった所は見当たりません。
「入り口は‥違う所に移されちゃいましたね。また探してみましょう」
そう言うと、イースは地面の匂いを嗅いだり、森の木々の間に鼻を突っ込んだりしながら、森の周りを歩き始めました。
「あれ?」
「入り口、見つかった〜?いーすさん」
タマルが駆け寄ります。
「いえ、入り口じゃないですけど、水が流れてます。ここからでも入れますね♪」
森の中から細い小川が流れ出していました‥
「そっかっ☆空間封鎖で川までせき止めたら、森のなか水浸しだもんねっ♪」
「うむ。以外に単純な物なのだな★」
ハダスが小川に歩み寄った、その時‥
ひゅんっ!!
彼の足元に、矢が飛んできて地面に刺さりました。
「むぅ?フン、2度目の挨拶が此れか。こんな細い棒で我に傷でも付けられると本気で思って居るのか‥★」
「待て、ハダス。貴様を狙ったのでは無い。角度からして遠くから別の者を狙ったのであろう」
「ほぅ‥我等以外に此の様な処へ訪れた物好きが居るとでも」
「…待って下さい、本当に誰か‥複数のひと達が走ってるみたいです」
「た〜しかに★ナンかエルフちゃん達とは違う感じがスルの‥ナンか黒い感じ?」
ナンシュアとルディアが森に入りました。
「ふわふわ入ってっちゃ危にゃいって」
「…私は平気です♪」
「アタシもへっちゃらなの★って、ひゃっ!」
また矢が飛んできました。
「にゃにが起こってんの?森のにゃかで」
「セリアこそ入っちゃ駄目でしょっ、森の外で待ってなよっ!」
「あたしをにゃんだと思ってんの★たまる、いーす。あたしの後ろから付いてきにゃさい」
「は〜い☆」
「解りました!」
皆が森の中に入りました。
森の中は‥何か空気の塊の様な物が、ちらちらと走り回っていました。何となく人の形にも見えます。
遠くの方にエルフの男性達が居て、走り回る空気の塊?に向けて、何度も弓を射かけて居ます。
「…何が起こってるんですか?」
「なっ‥!あなた方かっ!来ないでくれと言っただろうっ!?それも寄りによってこんな時にっ!」
「とにかく説明してくれないっ!?誰かと戦争でもしてるのっ?」
「あなた方には関係の無い事だ!」
「そうも行かぬ」
アルギムがエルフに、歩み寄ります。
「捨て置ける状況では無いからな。同盟を求めて来たと言うのに、其方等に傷でも付いたら困る」
「これっ‥僕がよく使ってる、身隠しの術です!」
「ちらちら走り回って居るのは其れか」
「おい、えるふ。一体にゃんにゃの?あれ」
「チッ‥あれは我々エルフ族の恥‥ダークエルフだ!!」
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