イリュージョニスト・オズワルドは極めて研究熱心な魔術師であった。彼には野心もあり、父母の名誉を回復したいという強い義心もあったからだ。たちまち召喚魔法を会得し、いくつかの魔物たちを呼び出すことに成功した。それら魔物の言うには、悪魔オズならアザーの復活について知っているだろうと言うことだった。なぜならかつての戦いのとき、オズはアザーの忠実な将として戦い、アザーが封印される前に現世で殺されたというのだ。魔物は現世で殺されても、大いに力を失いはするものの、魔界に還り存在が消え去ることはない。つまりどこかの魔界には悪魔オズがまだ存在しているという事だ。さらなる情報を数多の魔物どもから聞き出したオズワルドは、オズの魔界を特定し、そこに召喚を掛けることにした。
オズアンナといえば、兄の研究部屋から漏れ聞こえる問答に不安を抱いていた。一人しかいないはずなのに何故誰かと話しているような言葉が聞こえてくるのだろう? 最初は兄が悩んで自問自答しているのかと思った。しかし時おり奇妙な笑い声や、しわがれた兄のものでない声がするのだ。まだ見習いレベルとはいえ、魔術師の家の娘である。これが召喚魔法によるものであることは感づいた。
召喚魔法は危険なものである。魔術師の力量が召喚した魔物よりも上ならばいいが、もし手に余る強力な魔物を呼び出してしまえば、結界も破られ、魔術師に害が及ぶ可能性もあるのだ。
それとなく兄に相談したのだが、ふだんは本当に優しい彼が突然怖い顔をして「お前は知らなくて良い」と言い切るのだった。ますます心配になるばかりである。オズアンナは相談する相手も無く、困り果てていた。魔術師ギルドに話したら、きっと兄は処罰されるに違いない。何とかそれは避けなくてはならない。冒険者が依頼を求めて集まる金羊亭にも出かけてみた。しかし踏ん切りがつかなかった。何より報奨金など払えるはずもない。
街の広場でひとり悄然としていると、突然声を掛けられた。
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