第18話「聖女の記憶 2」
――昔…まだ現在の神がそれほど力を持っておらず別のモノが神と呼ばれていた頃です。とある所に仲の良い姉妹がいました。彼女達は貧しく、町外れの処刑場跡に住んでいました
…両親ですか? ええ、居ましたよ。ですが彼等はこの話には不要ですから省きます…
ある日妹は近くの洞窟に湧き水を見つけます。その水は汚れた地にありながら輝き、不思議なことにそれを口にした人は病から癒されました
はじめ街の人はこの話を金儲けの為の虚言だと言っていましたが、いざその中の一人が癒されると、やれ奇跡の水だ聖女だと騒ぎだしました
…それから数年が経った頃、世に恐ろしい病が広がりました。いかなる薬も効果がなく、いかなる祈りも届きませんでした
そんな病でさえ泉の水は癒してしまったのです
世界中から救いを求める人々が集まる中、彼女の姉…リリエルがその病に倒れ、ついには帰らぬ人となったのです
奇跡の水は事もあろうに彼女の姉には癒しをもたらしてはくれなかったのです
それを見た人々は何と言ったと思いますか?
「やっぱり出鱈目だったんだな」ですよ
散々もてはやし祭り上げておいても自分達に利がなくなると知ればこれです
…彼女は絶望し、恨みました。神を…もし神が実在するなら何故奇跡は人を選ぶのか…何故一番大切な人を救ってはくれなかったのか
世界を…自分達は祝福を受け、命を繋ぎ止めておきながら奇跡を受けられなかった者を嘲笑う病人達…自分達の利益の為に彼女を利用し、捨てた街の人々…総てを恨みながら彼女自身も姉と同じ病で命を落とします
…普通ならここで終わりなんですが、まだ少し続きます。お付き合い下さい…
…死後、彼女は天国でも地獄でもない狭間の世界…辺土に落とされました
そこは神の祝福を受けなかった者の行き着く場所。意志のない魂達がたむろう所です
彼女は祝福を受けていなかった訳ではありません。最期まで神を恨み続けていたから加護を断たれたのでしょう
もし生前に彼女が自分の意志を誰かに説いていたら迷わず地獄行きだったのでしょうね…フフ…それを幸福と取るか不幸と取るか…失礼。話を戻しましょうか
彼女は其処で永遠とも思える時間をすごしました。あそこには何もありません。神を受け入れなかった者の逝く先であるにも関わらず罰すらも存在しません。無限に広がる虚空とただ「ある」だけの魂達…その中で彼女は意識を保ち続けました
…その苦痛が分かりますか? 周りには自分が「自分である」と認めてくれるものは何もありませんし…あそこではそのようなものは意味を為しません
しかし、そんな彼女に救いの手が降ります
彼は言いました
「やりのこした事はないか?」と…
先程言った通り辺土には意識を保った霊は存在しません。彼の声など無かったかのように漂う霊達…そんな中にあって彼女は答えました
「神と称す存在が創った世界の終末を見たい」…辺土から出された彼女は若くして亡くなった女性の体に魂を降ろし、吸血鬼の眷属となることで永遠の命を…世界の終末まで生きる力を得たのです
<続く>
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