第18話「聖女の記憶 3」
――ケイは何も言えなかった。神無の言葉の端々から垣間見える怒りと絶望、そして悲しみ…そう、その昔話は…
ケイ「神無さん…貴女自身の…」
神無「そして彼女…ベルナデッタは聖女と呼ばれたその名を捨て、《神無きを信ず者》…神無の名前を得ました…」
そこまで話し神無はケイから目を逸らして続けた
神無「そしてようやくこの手でこの忌むべき世界に終わりを告げることが出来ると思ったのですが…情けなです。いざとなると恐怖がこみあげて…姉様を拒絶したこの世界に価値などない筈なのに…それでも失う事に恐怖と戸惑いを感じます…可笑しいですね」
ケイ「それは…それは神無さんがこの世界を好きだからだと思いますっ!」
大声に驚いたのか神無がケイに視線を戻す
ケイ「お姉さんがこの世界を好きだった事を知っているから!貴女自身も好きだから!だから…」
神無「だから何だというのです?貴方は私を赦せると言うのですか?自分の為に貴方の世界を壊そうとしている私を…」
神無の声は何時もの彼女からは想像もつかない弱々しく戸惑いに満ちていた…
ケイ「私は奇跡の水や聖女の力なんて知りません。「神無さん」が好きなんです。神無さんと、みんなが居るこの世界を守りたい。それに今やってる事を許すのは私じゃありません。
だから早く終わらせて皆に謝ってください!」
神無「…貴方は不思議な人ですね。そうですか…なら御期待に添わない訳にはいきませんね…」
ケイ「…へ?あ?え?あの…」
神無の突然の心変わりに戸惑うケイ。しかし神無は何事もなかったかのように…
神無「行きますよ?早くしないと謝ろうにも謝れなくなってしまいます」
ケイ「あ…は、はいっ!」
納得する前に体が勝手に動くケイは慌てて部屋から飛び出して行った…
神無「…私は…私自身を見てくれる世界を求めていただけなのかも知れません…
本当に不思議な人です。彼女が居る間は世界を生き長らえさせておくのも悪くないですね……姉様…姉様が好きだったもの…私も探してみようと思います」
そう一人呟いた神無はケイを追い部屋を出た
一方先に出てきたケイはまだ混乱していた。自分の本音が彼女の心を後押ししたとは露ほども思っていない…間もなく神無が姿を現す
神無「迷いは捨てなさい。命を縮めますよ」
ケイ「ぅ?ぇ?でも」
神無「少なくとも貴方の敵にはならないと決めました。帰ったら色々と話しましょう」
ケイ「(深呼吸)はい!ありがとうございます」
神無「(お礼を言いたいのはこちらなのですけどね…)」
ケイ「え?何ですか?」
神無「明日の朝御飯何にしようか考えてたんですよ」
ケイ「はぁ…(駄目だ、何か何時もに増して訳分かんない)」
神無「それでは参りましょうか…私に掴まって…少しでも離れたら命の保障は出来ませんよ」相変わらずさらりと不吉な事を宣う
神無「では…《翼》よっ!」
力ある言葉に呼応し、彼女の周りに光が集う。ウェンディスの翼…《天装纏》という力を持つこの術は自身の周囲に結界を纏い、内部の物理法則を捻曲げることで驚異的な運動能力を実現する
かつてケイが神無と対峙した際、空間転移と誤認したのがこの術の力である…もしこの光景を見る者が居てもよもや人が移動しているとは思わないだろう
<続く>
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