逃げるスカルミリョーネとそれを追うアルト…彼等の戦いは魔宮最奥部へと舞台を移していた…第31話
《闇を纏う者》
(by 戯言師皐月)
スカルミリョーネ「ヒャハァ!」
奇怪な声とともに放たれた雷撃がアルトに襲い掛かる。しかしアルトはその尽くを躱していた。
もしスカルミリョーネに正常な思考が出来たなら不審に思う筈である。彼の能力は雷帝の二つ名のとおり雷撃…即ち光速のエネルギ-の奔流。一度や二度の“まぐれ"ならまだしも、視認後の回避という手段の取ることのできないこの攻撃の全てを躱すなどということは、本来ありえないのである。
スカルミリョーネ「…?」
同じ攻撃をいったい何十放ったのか、ようやく何かおかしいことに気付き動きを止める。間断なく降り注いでいた雷撃が止む…それはアルトの待ち望んでいた瞬間であった。
《…ぅん》
風を切る僅かな音とともに伸びた右手の糸が敵に絡み付く。戒めを解こうと暴れるスカルミリョーネを制しながら、左手を静かに突き出した姿勢で構えるアルトの口から呪文が紡がれる…
アルト「我が名の許此へ来たれ 古の力 破邪の刄…」
《つんっ》
小さな音とともにアルトとスカルミリョーネを繋ぐ糸のひとつがたわむ。スカルミリョーネの力に糸の強度が耐えきれず切れたのだ。その辺の剣くらいなら手応えすら残さず断ち切る金属糸が、である。アルトの片眉がぴくんと跳ね上がる。が、呪文は止まらない。
アルト「“銀の腕"に連なりし 光輝の槍を携えし者 我が力 我が意となりて 敵を討つ光と化さん」
《ぷつん…つんっ!》
残っていた2本の糸も切れ、スカルミリョーネが自由を取り戻す。怒りとも歓喜ともつかない叫び声をあげ、雷撃を放とうとするスカルミリョーネ。だがそれよりも一瞬早く、アルトの術が解き放たれていた。
アルト「我が手に降りて姿を顕せ!」
突き出された左手が銀に輝いたかと思うと、左手の3本の糸が意志を持ったように浮き上がり、スカルミリョーネを凄まじい勢いで貫く。丈夫な金属製とはいえ、糸が突き刺さった程度でさしたるダメ-ジがある筈もなく、スカルミリョーネは雄叫びをあげながらアルトに突進してきた。アルトはその場を動かず、銀に輝く左手、更にそこから伸びる金属糸に込めた魔導式を解放する。
アルト「《ブリュ-ナク》ッ!」
瞬間、断末魔をあげる間もなくスカルミリョーネが弾けた。四天王“雷帝"スカルミリョーネのあまりに呆気ない最期だった。
――アルトの特殊能力もセラと同様、過去の人体実験の遺物である。彼がセラと…そして一般的な魔術士と明らかに違うところ。それは「体内で錬った魔力を大気中に放出する能力の欠如」である。(歌劇団で彼が放つ被害の全く起こらない割に大規模な閃光や爆炎は《そういう類の術》ではなく、彼が外気中に全力で魔力を放出した結果だったりする)それを補うのが左右6本の金属糸。今のように体内で構成した膨大な魔導式を対象に直接送り込む。それが人体の数百倍、大気の数千倍の魔力伝導率を誇る特殊合金製の暗器の本来の使い方なのである――
白銀に輝く光の粒子が降る中、背後からその場に似付かわしくない軽薄な拍手が聞こえてきた。アルトは振り向きざまに懐からナイフを投げる。
声「高伝導の金属糸を避雷針にして雷撃の軌道を強制的に捻じ曲げる、か…なかなかやるな、あんた」
そこに立っていたのは一人の男。黒の長い外套に黒ブ-ツ黒手袋。腰まで届く髪もきつい眼光を湛える瞳も全て黒。何より異様なのが彼から流れる気…全てを飲み込むほど底の知れない闇を見せられている気分になる。その男は、先程アルトが投げ付けたナイフを右手で弄びながら続ける。
男「スカルミリョーネは能力だけなら一流なんだが、いかんせんココが…な?」
左手の指で頭を叩きながらおどけてみせる。
男「しっかし…まさか四天王が全部殺られるとは予想外だ。存外楽しめそうだな」
口元に軽薄な笑みを浮かべながらそう言った彼の視線は何時の間にかアルトから部屋の入り口へと移っていた。遠くから何人かの走る足音が聞こえてくる。
男「俺の獲物のご到着か?」
嬉しそうにそう言う男の視線から入り口を遮るように立ったアルトは静かに告げる。
アルト「俺の仕事だ。邪魔は許さんぞ…マラコ-ダ」
マラコ-ダ「…さっさと終わらせてくれや。暇でかなわん」
手をひらひらさせながら黒ずくめの男―魔宮に巣食う悪魔達のリ-ダ-、“闇の主"マラコ-ダ―は部屋の端に移動する。駆け込んできた者達とアルトが対峙する。
それを壁に背を預けながら眺める彼の表情が一瞬強ばり、また薄っぺらい笑みを浮かべる。
マラコ-ダ「“獣侯"グラッフィアカ-ネが墜ちた…だと?…くぅぅっ!益々面白ぇ!……が、奴は他人の為に何であんな必死になれるかね?解らねぇ。…《命短し存在達よ その何と愚かなることか》ってか?ククク…」
インターミッション:スラスト
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