#34《失くした昨日・後編2》
その余波は当然、部屋の一角に集まる傷ついた彼女達をも襲った
破壊の嵐から彼女達を現在護っているのは舞の防護陣
しかし心身共に消耗した彼女ひとりの力では到底押さえ切れるものではない
思わず膝を折りそうになったとき、舞に掛かっていた重圧がふっと薄らぐ
舞の隣に立ったのは、ランに肩を借りたケイ。彼女の衝撃壁が防護陣を覆い、補強する。これなら何とか……
次第に激しい光と衝撃が和らぐ
ようやく部屋を見渡せるほどまでそれが落ち着いた時部屋の中央にあったのは、刀身が根元から砕けた愛刀を手に膝をつくツルギと、剣を持つ左手から激しく血を流しながらも立つアルトの姿
誰からとなく、絶望の溜息が漏れる。その先程までと打って変わって静寂に包まれた空間に…
「ぁ…が…ぁぁあああ!!」
凄まじい絶叫が響いた
―――――
この街の未来の為に…皆で笑いあい暮らす明日の為に、アルトを討つ。そう心に決めた筈だった
その誓いが秘石の力を引き出した
だが、心にふと浮かんだ誰かの言葉…
「何かの犠牲の上に成り立つ平穏に意味はあるのですか?」
一瞬の迷いが刃先を…必殺である筈の一撃を狂わせた。その結果がこれだ。生きているのが不思議な…何!?
ツルギ「生きて…いる?」
こちらの技は完全にその威力を削がれ、刀は砕け散った。その時点で“神鳴斬"と同等かそれ以上の威力を誇ると思われるアルトの技を受けた自分は死が確定していた筈である。それなのに…
「ぁ…が…ぁぁあああ!!」
突然響いた絶叫に思考を中断しそちらを見る。その声は“神鳴斬"でダメ-ジを受けてない筈のアルトがあげたものだった
剣をとり落とし、左手で顔を覆うように掴んでいる。指の隙間から見える彼の目からは正気が殆ど失われているように見えた
アルト「…っ…くそっ…こんな…時に…っ!」
辛うじて聞こえるくらいのその声は、声というより何とか喉を震わせて絞りだした音のようだった
―――――
苦しげに呻くアルトに向かって弓を構える舞を後ろからスラストが羽交い締めにする
舞「放してください!兄さまが…兄さまがっ!」
暴れて振りほどこうとする舞を必死で宥めようとするスラストに横からランが声を掛ける
眉をひそめ、視線はアルトに向けたまま
ラン「…なぁ、あれ…どうしたんだ?」
スラスト「よく似た症状なら知ってるよ…」
苦虫を噛み潰したような顔で答える
ラン「…やばい…のか?」
スラスト「かなりやばいね。あれは…」
言葉を続けようとしたその時、激しい轟音と共に壁の一部が弾けとんだ。濃い煙幕が辺りを覆い、スラストの腕が外れる。思わず顔を腕で守ったのだろう
視界を遮るその粉塵の向こうから、聞いたことのない澄んだ声が聞こえる
声「やっと…みつけた」
突然のその声に恐怖が膨らむ。突然に打ち砕かれた平穏。理由も解らず戦うことになった顔見知り。自分の失態が招いた最愛の人の窮地。このうえ何が起こるというのか…錯乱し、恐怖に駆られた体が新たに現れた声に向かって矢を放っていた
―――――
下らん、相討ちか
思わず失笑が漏れる
所詮は人間、買い被りすぎていたようだ
残る雑魚を早々に始末して秘石とやらを奪い、外へ出よう。そうすれば少しは楽しめる奴もまだ居るだろう
そう思い壁から身を離した瞬間、刺すような頭痛に見舞われる
この痛みは自分の眷属が消滅したときに感じるもの
壁が轟音をあげ吹き飛んだのはその痛みとほぼ同時だった
マラコーダ「なぁっ!?」
自分の目を疑う
この魔宮の壁はただの石のように見えるが、実際は別物である。単体でも相当の強度を誇るうえに次元の歪みによって守られたそれを、こうも簡単に…弄んでいた短剣に魔力を込めてもうもうと上がる煙に撃ちこむ
絶対に認めないであろうが、その時彼の心を占めていたのは“恐怖"だった。
―――――
違うところから、同時に、同じ感情によって放たれた矢と短剣は、立ち上る煙幕に吸い込まれる
そして………鮮血の花が咲いた
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