「おはようございます」
「……んぁ-」
何気なく机の上に目をやると、散らかった切り屑の中、例の人型の紙片が二枚に増えていた。

《Dissonance#3》

(by 戯言士:皐月)

何時もより少し早い朝食の後、その日も俺とフィ-アは村に来ていた。
「お仕事ですよ。見ての通り田舎ですからね。働き手は貴重なんです」
という事で本日もセラはお留守番。
何時もの酒場に入る。昼にはまだ早いこともあり、客はまばらであった。その中にいい加減見慣れた奴を見つける。
こちらが声をかけるより早く向こうもこちらに気付き、さわやかな笑顔を以て近づいてきた。
「やぁ、フィ-アちゃん、奇遇だね」
「定期配達にはまだ早くないか?」
気になったことを尋ねてみると、笑顔を引っ込めこちらを向いて言った。
「俺は運び屋じゃねえの、何でも屋。今日は配達じゃない仕事で来たんだよ」
それを聞いたフィ-アが何か言いたそうに小さく手を挙げたので発言を促してみる。
「あの…もしかして、腕のたつ助人さんってデファンスさんのことですか?」
「仕事の内容まだ聞いてないんだが…」
「「後で!」」
腕のたつやら何やら物騒な気配を感じて発した俺の質問はあっさり却下される。
しかもハモって。
「駄目駄目駄目。危ないんだから君みたいな娘連れていけないって!」
「アルトくんやデファンスさんが来る前は全部ひとりでやってました」
「…ぅぐ」
思わず言葉を失った彼に少し声を和らげてフィ-アが続ける。
「そんなに心配ならあなたが守ってください。それとも…」
悪戯っ子のように微笑み
「自信ないですか?」

ふと、当てのない旅の途中で立ち寄った街の食堂で相席になった中年冒険者の言葉が甦る。
「女は怖ぇ」
今ならよく解る。名も無き旅人よ。お前の言ったことは正しかった。

「さて」
フィ-アのその声に目を向けると荷物の点検を済ませたフィ-アと、ぐったりとした様子のデファンスの姿があった。
「アルトくん。武器、何が使えます?」
「今手持ちはないが、一応ひととおり何でも」
条件反射的に答え、荷物を漁るフィ-アを見てようやく思考が追い付いてくる。まて、今、武器といったか?
「お…」
「これ使ってください」
掛けようとした質問を潰され渡されたのは一本の剣。80センチ程度でやや細身の両刃剣だ。特に魔法の品という風ではないが、鋼製で重心もしっかりしている。
机を避けて数度振ってみて剣筋がぶれないのを確認してから鞘に収めて右手に持った。
「おわ!ちょま!それ売り物!しかも高…!」
「いきますよ-」
デファンスの何やら必死の抗議も虚しくすたすたと酒場を出ていくフィ-ア。
「ハァ…手前。絶対壊すなよ?」
「…善処する」
答えて出ていこうとしたところに
「待てよ」
デファンスがまた声をかけてきた。顔だけ振り向く。
「よく考えたら何度も会ってるのに俺等って名乗りあってもないんでねえか?…いや野郎の名前なんざ興味ないんだが…一応客だし、よ?俺はスィン。スィン・デファンスだ」
「アルト……ライア-ト」
答えてフィ-アを追う。
「…ん?ライア-ト…って…ぬお!てめ!ブッ殺…!」
後ろが何やら騒がしいが完全無視。
今日はいちだんと賑やかになりそうだ。「そろそろ教えてくれないか?今日の仕事とは何だ?」
「ほぇ?言ってませんでしたか?」
森を暫らく行ったあたりで掛けた俺の質問に返ってきたのは、そんな間の抜けた答えだった。
「まぁ、何時もの狩りと大差ないです。獲物がちょっと大物なだけで…気になりますか?獲物」
「…別に。敵は倒す。それだけだ」
「敵…ですか」
その声に哀しげなものを感じ彼女の方に目を向ける。スィンも同様に彼女の言葉を待っているようだった。
「自分本意な正義を振りかざして悪を定義し斬り倒し…自分の気に入らないもの、見たくないものを排除したところで最後に残るのが本当に大切なものだって確証もないのに…ほんと、愚かですよね」
視線を正面に向けたまま歩みも止めず言葉を重ねる。
「…良く考えてくださいね。あなた方は何の為に、何に剣を向けるのか…」
沈黙が訪れる…
「フィ-アは…」
それを破ったのは俺だった。
「フィ-アは何の為に?」
「“私の大切なもの"のため。種族がどうのとか世界の平和とか興味ありません。私は私の大好きなあの村の人を脅かすものは何であっても、何を敵にしたって絶対に許さない。それだけですよ」
「…難しいことは解らないからさ、今回はフィ-アちゃんの考えに乗っかるよ」
何だろう?スィンのその言葉には何かを必死で押し殺しているような、どこかそんな気配があった。
「だいじょ-ぶですよ。デファンスさんも“大事なひと"に入ってますから」
打って変わって声に何時もの明るさを取り戻した彼女が言う。
「おう!大船に乗った積もりでいてくれよ」
その軽いやりとりのお陰か、それまでの重苦しい雰囲気が嘘のように霧散した。
「泥船の間違いじゃないのか?」
「うるせ!大事なひと認定されなかったからって僻むな僻むな」
「だってアルトくんは“大好きなひと"ですから…あとセラちゃんも」
「むを!てめ!やっぱりブッ殺ス!」
後半を確実に聞いてないな、こいつ。
「じゃあデファンスさん、私の“敵"ですね?」
「むを--!」
「あは-」
本当に賑やかだ。

それから更に進んだ所で、スィンが口を開いた。
「俺知りたい。今日の獲物って何なのさ?“ちょ-っとばかりヤウ゛ァいかもしれない奴"とは聞いたけど」
「も少し先の洞窟に厄介な方が居ついてしまいましてね。立ち退いて頂かないと瘴気に呼ばれて魔獣が集まってきたら大変なことになりますから」
「ハア、それで?その厄介な方とやらの正体は?屍人使いくらい?」
「はぐれ魔族。話によるとディ-モンクラス」
『待てやこら』
今度は俺とスィンの声が見事にハモって深い森に響いた。

―――――

「アルトよ。お前、悔しいが中々良い目してるな」
「何がだ?…ああ、この剣か?」
「ちげ-よ。フィ-アちゃんだよフィ-アちゃん」
「…は?」
「今はあんなちんちくりんだけどさ、あと10年…いや、7年もしてみろ!凄ぇのになるぞ?俺が言うんだ間違いねえ!○○が×××って…(中略)…△△△な感じに…ハァたまんねぇ!アルト!やっぱ手前死んでくれ」
「(゜д゜)ポカ-ン」
「アルトくん、デファンスさん、遅いですよ-。何してるんですかぁ?」
「はぁ-い今いくよ待っててね-俺も待つからさ-」

「(゜д゜)ポカ-ン」

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