《Dissonance#7
“performer/Sin"》(by 戯言士:皐月)
アルトが頭上に浮かぶそれを目に入れ、攻撃に移る直前に、青白い化け物の攻撃が発動した。
場を薄く満たす闇を引き裂く閃光。ほぼ同時に起こる鋭い音。
化け物が放った正体不明の攻撃は、スィン達に届かず、自身の下方…そこに立つアルトの剣に向かって収束した。強烈な衝撃を受けたように彼の全身がびくんと大きく震え、手にした剣に紫電が纏わり弾ける。
…ん…雷…?
なるほど。それなら納得がいく。
攻撃術としてよく放たれる所謂「稲妻型」の雷撃は、雷というものを象徴するイメ-ジのひとつである。つまり、雷系の術が全て稲妻型である必要はないのだ。
スィン自身、魔法が使えるわけではないので詳しくは解らないが、多分奴はその雷のエネルギ-を放射状に放ったのだろう。
しかし、稲妻型だろうが広域放射だろうが、雷は雷。その性質が変わるわけではない。
ひとつは生物の視神経が感知できないほどの速度で空間を飛ぶこと。スィンも少々腕に覚えがあるとはいえ、精々人間の範疇の中の話。そんな桁違いの速度を持ち出されて、その正体を判別しろと云われても、どだい無茶な相談だ。
そしてもうひとつ。より近い、より力の伝達の容易な物体へ向けて落ちやすいということ。これは雷が平原の大木や塔、教会の屋根に立つ十字架に落ちやすいことを見れば解りやすい。
この第二の特性を逆手にとり雷の被害を抑える為に立てるのが避雷針である。そして今回、避雷針となったのは、発射した化け物の真下にいたアルトの持つ剣だった。
基本材質自体がまず雷を通しやすい鋼であるうえ、この剣にはもうひとつ特性があった。護拳の部分から刀身の半ば辺りにかけて象眼された、一見ただの装飾に見える部分。実は“精霊銀"と呼ばれる金属で造られている。剣そのものは何の変哲もないものだが、この精霊銀の装飾に魔力を通すことで一時的に…伝説の品までとはいかないまでも…使い手によってはそれなりの魔法の武器としての属性を得ることができる。
精霊銀は加工が難しい上に産出量が非常に少なく、その鉱床も殆どがドワ-フやエルフ達によって秘匿されている為、恐ろしく高価い。当然それを使用したあの剣も市場では一般的な剣より一つ二つ違う桁で取引される。スィンが高価いんだから大事に使えといったのは、伊達や粋狂ではない。
…話を戻そう。
“魔力"の“雷"にとって二重の意味で避雷針と化したその剣を持っていたアルトの右腕から細く白い煙が立ち上る。因みに、生身の人間が雷に打たれたりした場合、先ず間違いなく即死する。
…筈なのだが……
それほどのダメ-ジすら意に介した様子も見せず、アルトは頭上に浮かぶ化け物に剣を突き立てる。回避が間に合わず、股間から脳天を串刺しになった化け物を、剣を大きく振って引き抜く。勢い良く壁にぶち当たったその死体は、やはりずぶずぶと溶けて消え去った。
アルトはそれに目もくれず、身体を反転させる勢いにのせ、背後の肉塊に剣を横凪ぎに振るう。
二度、三度…剣を打ち込まれる度に体液や肉の欠片が飛散する。その損壊も片端から修復されていく…。
打ち払うように繰り出される触手の攻撃を今度は無難に躱しながら攻撃を続けるアルトだったが、ジリ貧ぽいのは明白である。
「……ぁ?」
戦いを見ているうち、ふと頭の隅に何か引っ掛かるものを覚え、スィンは声をあげた。
……明らかに違う反応をしたことがあった筈だ。それはどういう状況だったか?
「……」
無言のまま、腰の後ろに差した投擲用の小さな短刀を三本…指の間に挟んで引き抜く。人間相手でも運良く急所に当たれば倒せるという程度の威力しかない…つまりは、おそらくあの化け物には蚊に刺された程度もダメ-ジはないと思われる代物…だが、もし今浮かんだ予想が当たっていたなら、活路が開ける…かもしれない。
化け物が触手を振り下ろし、アルトがそれを躱した瞬間を狙って短刀を放つ。
「…ふッ」
短刀はアルトの顔のすぐ横…数瞬前までアルトの頭があった場所を通過し、化け物に突き刺さる。投擲用に製作された鍔のない真直ぐな短刀は、その全身を肉の壁に埋没させた。
それでもやはり、化け物はこちらを一顧だにすることもなく、足元の蚊蜻蛉を払うのに終始している。
まあ、それは予想どおり。
更に三本、短刀を引き抜くと、同じ要領で放つ。
しかし、今度の狙いは更に上。肉の塔に生えた女性の上半身を模った部分。
短刀は、化け物本体に届く前にその触手打ち落とされた。
「っしゃ、ビンゴ!」
思わず笑みが漏れる。
別に奴にダメ-ジを与えるのが目的ではない。今の反応を確認したかったのだ。
今行われているように、あの化け物は肉の塔へ一定以上のダメ-ジを受けた場合、その対象を除去しようと…外敵に対して受動的反応を示す。
が、自動弓のボルトが逸れた時然り、今の短刀然り、その上部の女性像に向かう攻撃に対しては、傷そのものを受けるのを嫌っているように見えるほど過敏に反応する。
それは何を意味するのか…
普通に考えるなら、そこが弱点である…と思う。
目の前の奴がそんな一般論に当て嵌まるかは甚だ謎だが、たとえ弱点ではないとしても、決して“何もない"ことはないだろう。あの再生力を以てすれば、わざわざ一部分だけ無駄に強固に守る必要もない。
「アルトッ、上だ!」
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